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仲里さん、付き合ってくれないかな
①
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お姉ちゃんはよく小説のネタを出すために眠って夢を見ていた。
夢の中で面白いネタを思いつくんだって。
『ねえ、Aちゃん、人にフラれるってどんな気分だと思う?』
私がいま見た夢で覚えているのは、お姉ちゃんが言った、この言葉だけ。
「ここは寝るところではないので、起きてください」
ふわりとした脳に聞こえてくる女性のちょっと怒ったような声。
あー、私、いま……。
「もう少ししたら俺が起こすので、そっとしておいてあげてくれませんか?」
図書館のテーブルに伏せて、何も見えない視界の中で颯馬くんの声が聞こえた。
いつの間にか眠ってしまっていた私を庇ってくれたみたいだ。
図書館スタッフらしい女性の気配が離れていく。
私も寝ようと思って寝たわけではなかった。
そろそろテスト期間だし、勉強するのと小説を書くのを両立しようとすると、睡眠を削らなくてはならない。
どうしても、この時間になると一度眠くなってしまうのだ。
「ん……」
庇ってもらったのを分かっていて、すぐに起きるのもなんだか恥ずかしくて、私は少し顔が横を向くように動いた。まだ起きてません、を装いながら。
髪の毛が邪魔をして、隣に座った颯馬くんからは顔が見えないと思うけど。
そう思ったのに、彼は私の顔にかかった髪を優しく手で梳いて、耳にかけた。
それで、何も言わないで私のことを見ているのが分かる。
じっと私の顔を見て、何を考えているんだろう。
「Aちゃん」
それから数分後、優しく揺り起こされた。
「んー」
いままで寝ていましたよ、を装って、私はゆっくりと身体を起こした。
目覚めたばかりにしてはやけにはっきりとした視界の中で、颯馬くんと目が合う。
「ここ、少し赤くなってる」
伸びてきた長い手が私のおでこを軽くさすった。近付いた顔面偏差値MAXの笑みにバクバクと心臓が鳴る。
「そ、そのうち直るよ」
私をドキドキさせるためにわざとやってるんだと思うけど、最近の颯馬くんは近い。
「これ、読んでみたけど、まだまだだね」
で、書きかけの小説を読んで意地悪な顔もする。
「仕方ないでしょ。やっと何が書きたいのか分かってきたくらいなんだから」
書き方が分かって、お姉ちゃんが書きたかったであろうストーリーを予測して、いまここだ。
「楽しみにしてるね」
それだけ言って立ち上がる颯馬くん。
「え? 行っちゃうの?」
もう帰るみたいで、びっくりする。
だって、いま来たばっかりだし、何も話してないし。
「ちょっと用事があるから」
幽霊にも用事ってあるのかな、って思う。
いつもなら途中まで一緒に帰ろうと言うのに、手を振って、もうあんなに遠くまで行ってしまった。
すぐに姿が見えなくなる。
今日は自分でメイクとか頑張ってみたのに、何も言ってくれなかった。
夢の中で面白いネタを思いつくんだって。
『ねえ、Aちゃん、人にフラれるってどんな気分だと思う?』
私がいま見た夢で覚えているのは、お姉ちゃんが言った、この言葉だけ。
「ここは寝るところではないので、起きてください」
ふわりとした脳に聞こえてくる女性のちょっと怒ったような声。
あー、私、いま……。
「もう少ししたら俺が起こすので、そっとしておいてあげてくれませんか?」
図書館のテーブルに伏せて、何も見えない視界の中で颯馬くんの声が聞こえた。
いつの間にか眠ってしまっていた私を庇ってくれたみたいだ。
図書館スタッフらしい女性の気配が離れていく。
私も寝ようと思って寝たわけではなかった。
そろそろテスト期間だし、勉強するのと小説を書くのを両立しようとすると、睡眠を削らなくてはならない。
どうしても、この時間になると一度眠くなってしまうのだ。
「ん……」
庇ってもらったのを分かっていて、すぐに起きるのもなんだか恥ずかしくて、私は少し顔が横を向くように動いた。まだ起きてません、を装いながら。
髪の毛が邪魔をして、隣に座った颯馬くんからは顔が見えないと思うけど。
そう思ったのに、彼は私の顔にかかった髪を優しく手で梳いて、耳にかけた。
それで、何も言わないで私のことを見ているのが分かる。
じっと私の顔を見て、何を考えているんだろう。
「Aちゃん」
それから数分後、優しく揺り起こされた。
「んー」
いままで寝ていましたよ、を装って、私はゆっくりと身体を起こした。
目覚めたばかりにしてはやけにはっきりとした視界の中で、颯馬くんと目が合う。
「ここ、少し赤くなってる」
伸びてきた長い手が私のおでこを軽くさすった。近付いた顔面偏差値MAXの笑みにバクバクと心臓が鳴る。
「そ、そのうち直るよ」
私をドキドキさせるためにわざとやってるんだと思うけど、最近の颯馬くんは近い。
「これ、読んでみたけど、まだまだだね」
で、書きかけの小説を読んで意地悪な顔もする。
「仕方ないでしょ。やっと何が書きたいのか分かってきたくらいなんだから」
書き方が分かって、お姉ちゃんが書きたかったであろうストーリーを予測して、いまここだ。
「楽しみにしてるね」
それだけ言って立ち上がる颯馬くん。
「え? 行っちゃうの?」
もう帰るみたいで、びっくりする。
だって、いま来たばっかりだし、何も話してないし。
「ちょっと用事があるから」
幽霊にも用事ってあるのかな、って思う。
いつもなら途中まで一緒に帰ろうと言うのに、手を振って、もうあんなに遠くまで行ってしまった。
すぐに姿が見えなくなる。
今日は自分でメイクとか頑張ってみたのに、何も言ってくれなかった。
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