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デートDay1 博物館なんて

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 ◆ ◆ ◆

「お姉ちゃん、好み変わったの?」
「んー、なんだろう、思ってたのと違った、みたいな」

 このいまの見た目で博物館って似合わないな、と思ってたけど、中身の好みも変わったみたい。博物館の展示はあっさり見終わっちゃって、お姉ちゃんは嬉しそうでもなんでもなかった。

 前のお姉ちゃんは何でも資料になるとか言って、目をキラキラさせてたんだけど、いまキラキラしてるのは顔面とオーラだもんね。

「そういえば、小学校の低学年のとき、お父さんによく連れていってもらった公園あるじゃん?」

 突然、足を止めて、お姉ちゃんが思い出したように言った。
 急にどうしたのだろうと、思う。

「交通公園?」

 たしかに私の記憶の中にも、その公園は存在してる。
 何度もお父さんに車で連れていってもらったっけ。

「そう、あそこで自転車乗る練習したよね。それに、いっつもAちゃん、恐竜の遊具、怖がってて」

 クスクスと笑って細められた目が私を見る。

「だって、大きいし、顔が怖いんだもん」

 私たちは同じくらい自転車に乗れなかったけど、恐竜だけは私だけが怖がっていた。
 お姉ちゃんは恐竜の背中につけられた網をどんどん登っていって、天辺で片腕を上げたときにはまるで勇者か、新たな宝を見つけた冒険者みたいだった。

「あれって、まだあるのかな?」
「え?」

 お姉ちゃんはまた突拍子もないことを考えている気がする。

「行ってみよう」

 ほら、始まった。自由人すぎる。
 お姉ちゃんは私と手を繋いだまま、「見てみたいんだ」と言った。

 公園へは電車と徒歩で向かった。
 いつもはお父さんの車で来てたから自分の足で来たのは初めてだった。

「わぁ」

 入口から入ってみたら、公園の中は何一つ変わっていなかった。
 登って遊べるティラノサウルスとトリケラトプスの遊具はそのままで、でも、これってこんなに小さかったっけ? と思った。
 多分、私たちが成長したんだろうけど。

 それから擬似的な道路と横断歩道、それと信号があって、自転車を借りることが出来るのも変わってない。
 奥のほうにあるアスレチックも変わってなくて、長い滑り台も健在だった。
 滑ると底のパイプみたいなのが回って、カラカラと音がするやつ。
 危険だからといって、遊具がどんどん規制されていく世の中で、よく残ってくれていたと思う。

「お姉ちゃん、その自転車小さくない?」
「これしかなかったんだって」

「Aちゃん、信号、赤になったから先に行くね」
「ちょ、置いてかないでよ」

 動きやすいように、わざわざ服まで着替えて、自転車に乗ったり

「この滑り台、早すぎるって!」
「大丈夫、大丈夫、俺がここで受け止め……おふっ!」

 長い滑り台の終わりに失敗して、激突したり

「ほら、早く登ってこいよ」

 ティラノサウルスの上から煽られたり

「無理だよ」
「行けるって。俺が引き上げるから、最初の足かけるところだけ頑張って」
「ここまで頑張ったよ!」
「はい、じゃあ、せーのっ!」

 小さい頃みたいにはしゃいだ。

 昔もお姉ちゃんに引き上げてもらって登ったことがあったけど、登ってみたら、やっぱり、そんなに昔みたいに恐竜は大きく感じられなかった。

 前に見た景色とちょっと違う。
 私たちは日々、成長してるんだ。
 ううん、これからは私だけが……。

「小学校三年のとき、Aちゃんが高熱出して入院したことがあったじゃん? 肺炎みたいになっちゃって、呼んでも全然反応しなくて、救急車を呼ぶことになって……、私、そのとき、自分の所為だってお母さんに泣きついたんだよね」

 お姉ちゃん、また私って言ってる。
 思い出話をするときだけは、私なのかな?
 
 ティラノサウルスの上で二人きり、冒険者たちは過去を語る。

「本当は全然そんなことないんだけど、当時は本当に自分の所為だと思ってた。理由とかはなしに。自分の半分が失われるみたいだった」

 そんな話、初めて聞いた。
 たしかに私は小三のときに入院するほどの大きな病気にかかった。
 あとで聞いた話だと意識が戻らないときもあったみたい。
 それでも、退院して顔を合わせたお姉ちゃんは、いつも通り笑ってたし、そんな風に思われてたなんて気付かなかった。

 けど、自分の半分が失われるって気持ち、いまなら分かる。
 ぽっかりと胸に大きな穴が空いたような、自分の右半身だけがなくなってしまったみたいな、そんな重たい感じ。

「分かるよ、その気持ち」
「そうだね、ごめん」

 お姉ちゃんが自ら命を絶った理由、それが分かっていないのに、どうしてお姉ちゃんは謝るんだろう。本当に覚えてないんだよね?

 理由が聞けたら、どんなに救われるか。
 ううん、きっと救われる、よね?
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