獅子王の番は雪国の海賊に恋をする

純鈍

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雪豹の真実

03

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 首元の白い魔石に気が付いたからだ。こんなことになるのなら外しておけば良かった。この石を見られたら僕らは終わる。どちらにしても結末は変わらない。言葉で言い渡されれば番は解消される。

「やはり、貴様は海賊の手中に落ちていたか。もう貴様など要らん。番を────」

「ちょっと待て」

 突然、左横から声がした。いつからその場に居たのだろうか、そこには壁に寄り掛かって立つアキークの姿があった。全く今まで誰も気配に気付かなかった。

 ────そんな、どうしてアキークが?

「貴様、どこから入った?」

 一人の兵士が声に反応しアキークに近付く。夢では船の上だった、でもここはアルシャムスの城、場所が違うのに嫌な予感がする。

「地下水路からだ。簡単だったぞ?俺たちはお前らライオンと違って泳ぎが得意だからな。まあ、そんなことより俺は交渉に来たんだ」

 兵の横を抜けて、アキークが僕の前に立った。

「その毛の色……アルカトか、貴様は死んだと思っていたが……ああ、追い出されたのだったな」

 今すぐにでも殺せと兵士に命じると思ったけれど、王は意外と冷静だった。この状況を楽しんでいるようにも見える。

「俺の名はアキークだ。アルカトなんて奴は存在しない」

「アキーク?その毛色で?」

「悪いか?」

「ふんっ、それで交渉とはなんだ?」

 驚くことに王はアキークの話を聞くことにしたらしい。アキークには何か秘策があるのだろうか?いや、彼は一体何者なのだろうか。

「こいつを俺に寄越せ、番を解消する必要はない、精神的ショックで使い物にならなくなったら困るからな。その代わり、この国に手出しはしないでやる」

 アキークが隣に立ち、僕を乱暴に引き寄せた。わざと乱暴に扱っているように見せているのかもしれない。

「貴様、我輩が国の勝利だけを求めていると思っているな?だが残念だったな、我輩は戦いを好んでいるのだ。他人の怯える顔や他人の不幸を見るのは実に面白い」

 ────この男は歪んでいる……。

「ナキ、今から何が起こっても口を閉ざして動くな」

 早口で耳打ちされ、僕はハッと息を呑んだ。

 ────まさか……!

「その男を押さえろ」

 王の言葉を聞き、僕の後ろに立っていた兵士と横に居た兵士のうちの一人がアキークの両腕を押さえ、僕と対面するように跪かせた。甲冑を着た兵士の鞘から剣を抜き取り、王がこちらに歩いてくる。どうして、アキークは抵抗しないのだろうか。

「死に晒せ」

 勢い良く振り上げた剣を王はアキークの背に振り下ろした。

「愛してる」

 またアキークは声に出さなかった。兵士の支えがなくなったアキークの身体は静かに僕の足元に倒れ、ピクリとも動かなくなった。赤い血が床に広がっていく。でも、僕はアキークに言われた通り何も言わず、その場からも動かなかった。
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