獅子王の番は雪国の海賊に恋をする

純鈍

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太陽の刺客

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 ◆ ◆ ◆

「ナキさん、そんなことしなくて良いっすよ」

「いえ、僕も船に居させてもらっている身なので何か手伝います。まずは掃除から」

 乗員の数の割に船が大きく、きっと掃除は行き届いていないだろうと思い、僕は掃除道具を持って船の下の部屋に向かった。けれど、そこで僕は掃除を途中で放棄してでも試してみたい物を見つけてしまった。

「シャラールさん」

 直ぐに、僕はお昼ご飯を作ろうとしていたシャラールさんの元にそれを持って行った。

「え?ナキさん、それ……」

「猫じゃらし、です」

 少し大きめの黄色い猫じゃらしをシャラールさんの前で振ると、もふもふした両手が反応して追って来た。

「あー!なんか自然と身体が動いてしまう!ナキさん!」

 動きを速めるとシャラールさんの手も同じ動きをする。

「やっぱり、シャラールさんも反応してしまうんですね」

 見ていると微笑ましく思えてくる。

「どこから見つけて来たんすか、もうやめてくださいよ」

「ふふっ、ごめんなさい」

 肩を竦めた僕はスッと猫じゃらしを自分の後ろに隠した。

「でも、良いこと思い付いたっすよ」

「良いこと?」

「キャプテンに試してみるんすよ」

 シャラールさんの言う通りアキークに試してみたくなった僕は彼を探して外に出た。甲板に出ると粉雪が舞っていて、船の帆が畳まれているからか風の影響を受けていないその光景はとても穏やかに見えた。

 アキークは船首に座り、空を見上げていた。

「アキーク」

 横に腰を下ろして僕は彼の方を向き、猫じゃらしを左右に不規則に振った。けれど、反応はない。なんだアキークは反応しないのか、と落胆しながらやけくそに猫じゃらしを振った瞬間だった。

「ナキ!くそ、どこで見つけて来やがった?それは、あいつの……」

「あいつって誰ですか?」

 アキークは衝動に堪えていただけだったようだ。勢い良く伸びて来た手が僕から猫じゃらしを奪おうとする。その度に僕は彼の手から逃れた。

「なんでもない!ああ、もう!いい加減よせ!」

「誰なんですか?」

 あいつとは誰なのだろうか、なんだか胸の辺りがモヤっとする。それを紛らわせるために、更に俊敏に猫じゃらしを動かした。

「妬くなよ!」

「妬いてません」

 妬くわけない、だって僕は……あなたを好きになってはいけないのだから。

「こいつ!」

「あ……」

 アキークに押し倒され、僕の手から猫じゃらしが飛んで行った。ころころと転がったそれは海に落ちて……。

「ナキ」

 名前を呼ばれ、視線をそちらに向けるとアキークが僕のことを至近距離から見下ろしていた。ジッと目を見てはいけないと分かっていても、どうしても綺麗な瞳から目が離せなくなる。その両目が、ゆっくりと瞬きをした。

 生まれた時から獣人の国に居る僕は、この瞬きの意味を知っている。信頼、安心、そして愛情の表れ……、意味を理解していないフリをするべきだろうか。知らないフリをするべきだろうか。アキークが僕を好きなわけがない。そう思わなければ、だって僕はアキークと番にはなれない。
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