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極光の夜に

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 ◆ ◆ ◆

「アキーク様、こちら私からの感謝の印です」

 僕らが居た場所から一番近かったガミール港に着くと、カムサーさんは懐から茶色の皮袋を取り出してアキークに手渡した。お金でも入っているのだろうけど、商売道具を失ってしまったのに大丈夫だろうか?

「貰って良いのか?」

 アキークも僕と同じことを思ったらしく申し訳なさそうに言う。:海賊(コルサーン)なのに。

「命を救って頂いたのですから当然です。どうぞ、お受け取りください」

「そうか、なら貰っておこう。ありがとな、次は沈没に気を付けろよ?」

「次回からはもう少し丈夫そうな大型船に乗ることにします。まあ、いつ商売を再開出来るか分かりませんが」

 笑いながらカムサーさんが「では」と僕の方にチラッと視線を送ってきた。それを合図とするように僕は数歩前に進んでアキークとシャラールさんの方を向いた。

「ナキ?」

 行かなければ、僕がその場に居なければ追っ手が来たとき二人は助かるはずだ。

「僕、カムサーさんと一緒に行くことにしました。噂を流して貰って申し訳ないんですけど」

 僕が嫌な奴だと思えば二人は僕を追い出すと思って、わざと嫌な言い方をした。本当は利用しようなんて思ってなかったんだ。噂を流して僕を誘拐したことにしてくれたこと、本当は嬉しかった。

「お世話になりました」

 頭を軽く下げて、身を翻しカムサーさんの後に続く…………はずだった。

「駄目だ」

 後ろからアキークに身体を軽く抱き寄せられた。

「行くな」

 アキークの言葉と腕が僕を引き止める。

「そんな顔して行くな」

 耳元でアキークが悲しそうに言った。言葉ごとに僕を抱く腕の力が増して、強く優しく僕を引き止める。お互い、まだ会ったばかりで何の感情も生まれていないはずなのに悲しくなる。寂しいと思ってしまう。どうして?

「アキーク様?」

「こいつは行かない。カムサー、元気でな」

「本当によろしいので?」

 カムサーさんは僕に訊いたのだろうけど、僕が答える前に「で、では失礼致します。ありがとうございました」と少し怯えた様子で船から降りて行った。僕の後ろでアキークはどんな顔をしたのだろうか。

「本意じゃないんだろう?」

 カムサーさんの姿が見えなくなってから僕はアキークの方を向くように身体を回され、彼に両肩を掴まれた。まるで「逃げるな」と言われているようだ。

「二人に迷惑を掛けてしまう……」

 申し訳なくて小さな声しか出なかった。それでも、二人は僕の声を聞き取った。

「不安になるのは分かるが俺たちと一緒に居ろ、ナキ」

「そうっすよ、俺たち、別に迷惑とか思ってないっすよ。ナキさんが居た方が、この船も明るくなるっつうか」

「シャラール、お前、たまには良いこと言うな」

「俺は普段から割と良いこと言ってますよ?」

「調子に乗るんじゃねえよ」

 アキークがシャラールさんの頭を叩いた。「痛って!もうキャプテンのことなんて知らないっすからね!」と言いながらシャラールさんが舵の方に歩いていく。それを横目にアキークは、また僕の前に跪いた。そして、また僕の右手を取る。

「ナキ、お前は俺たちが誘拐したんだ。なんたって俺たちは:海賊(コルサーン)だからな」

 魔石の輝きに似た色をした瞳が僕を見上げている。人間の僕なんかに、この人はどうして……。
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