獅子王の番は雪国の海賊に恋をする

純鈍

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雪国の海賊

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「ここって船の上だったりしますか?」

「そうだが?」

 だから何だ?という顔をされた。

「今すぐに進路を変えてください!」

 信じてくれないかも、なんてことを考えている暇はなかった。

「おいおい、礼はねえのか?」

「良いから早く!船の向きを変えるだけでも良いですから!」

「一体何なんだ?────シャラール!おい!シャラール!帆を全部張って:右錨(うびょう)を下ろせ!」

 僕を布団に包んで抱き上げ、名も知らない彼は部屋の扉を開けて大きな声で叫んだ。吹雪いているのか、大量の雪が勢い良く部屋の中に吹き込んでくる。いつの間に朝になったのか、外は明るく見えた。

「正気っすか!?」

 姿の見えない男が驚愕しているのが声音から分かる。

「正気だ!早くやれ!船の向きが変わったら右錨を切り離して捨てろ!────急旋回するからな、かなりの衝撃だぞ?俺に掴まれ」

「掴まれって……」

 外の光の下、彼の顔を見上げて初めて彼の本当の色が分かった。アルカマルの王を彷彿とさせる真っ白な毛並みに黒い模様、雪豹だ。

「何、ぼーっとしてんだ!」

 怒られながら、僕は彼に強く抱き締められた。瞬間、見えない重りに横から押されているような負荷が僕らの身体に掛かり始める。それと同時に船底からゴリゴリという音が聞こえ始めた。

「なんですか?この音」

「氷を削ってんだよ!」

 僕の身体を支えながら、壁に体重を掛け自分の身体も支える彼が苦しそうに答えた。

「キャプテン!砲弾っす!船体ギリギリを通過!」

 男が叫んだ次の瞬間には爆音が辺りに鳴り響いていた。

「何者か分かるか?」

「他のコルサーンっす!」

「あなた方、海賊なんですか?」

 コルサーンとは海賊のことだ。他のということは、この人たちも海賊だということになる。

「だったら悪いか?────シャラール!全速前進!追いつかれるな!まあ、追いつけないと思うがな!」

 何が面白いのか、彼は笑っているようだった。まだ砲弾を撃つ音がする。でも、それは段々と小さくなっていった。
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