獅子王の番は雪国の海賊に恋をする

純鈍

文字の大きさ
上 下
8 / 30
雪国の海賊

02

しおりを挟む


「ここって船の上だったりしますか?」

「そうだが?」

 だから何だ?という顔をされた。

「今すぐに進路を変えてください!」

 信じてくれないかも、なんてことを考えている暇はなかった。

「おいおい、礼はねえのか?」

「良いから早く!船の向きを変えるだけでも良いですから!」

「一体何なんだ?────シャラール!おい!シャラール!帆を全部張って:右錨(うびょう)を下ろせ!」

 僕を布団に包んで抱き上げ、名も知らない彼は部屋の扉を開けて大きな声で叫んだ。吹雪いているのか、大量の雪が勢い良く部屋の中に吹き込んでくる。いつの間に朝になったのか、外は明るく見えた。

「正気っすか!?」

 姿の見えない男が驚愕しているのが声音から分かる。

「正気だ!早くやれ!船の向きが変わったら右錨を切り離して捨てろ!────急旋回するからな、かなりの衝撃だぞ?俺に掴まれ」

「掴まれって……」

 外の光の下、彼の顔を見上げて初めて彼の本当の色が分かった。アルカマルの王を彷彿とさせる真っ白な毛並みに黒い模様、雪豹だ。

「何、ぼーっとしてんだ!」

 怒られながら、僕は彼に強く抱き締められた。瞬間、見えない重りに横から押されているような負荷が僕らの身体に掛かり始める。それと同時に船底からゴリゴリという音が聞こえ始めた。

「なんですか?この音」

「氷を削ってんだよ!」

 僕の身体を支えながら、壁に体重を掛け自分の身体も支える彼が苦しそうに答えた。

「キャプテン!砲弾っす!船体ギリギリを通過!」

 男が叫んだ次の瞬間には爆音が辺りに鳴り響いていた。

「何者か分かるか?」

「他のコルサーンっす!」

「あなた方、海賊なんですか?」

 コルサーンとは海賊のことだ。他のということは、この人たちも海賊だということになる。

「だったら悪いか?────シャラール!全速前進!追いつかれるな!まあ、追いつけないと思うがな!」

 何が面白いのか、彼は笑っているようだった。まだ砲弾を撃つ音がする。でも、それは段々と小さくなっていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

子を成せ

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
ミーシェは兄から告げられた言葉に思わず耳を疑った。 「リストにある全員と子を成すか、二年以内にリーファスの子を産むか選べ」 リストに並ぶ番号は全部で十八もあり、その下には追加される可能性がある名前が続いている。これは孕み腹として生きろという命令を下されたに等しかった。もう一つの話だって、譲歩しているわけではない。

処理中です...