孤狼の子孫は吸血鬼に絆される

純鈍

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押してダメなら引いてみろ

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 ◆ ◆ ◆

「……なにも出来なかった……」

 力なく、ラファエルのベッドに仰向けで転がり、汚れた身体のままで両手で顔を隠し、俺はぼやいた。

 まさか、ラファエルが抱かれるほうを選ぶとは思わなかったが、俺のプライドが……。

 動けねぇ。もうまじで当分動けねぇ。なんだ、この高カロリーを一気に消費したような脱力感は。

「ああ、上でも下でも主導権が私にあったから拗ねているんだね、君は」

 一足先にシャワーを浴びに行ったラファエルがどうやら戻ってきたようで、俺の横に上がってきながら、そう口にした。その口調が心底嬉しそうでムカつく。

 俺がうんともすんとも応えないのはそれが理由だ。

「今夜は媚薬を飲まされたってことにしてもいいよ?」
「ああ゛?」

 ラファエルがろくなことを言わねぇもんだから、俺は両手の指の隙間から奴を睨み付けた。

 あのカクテルに媚薬でも入ってたってか? そんなんはどっちでもいい。どっちにしたって俺の機嫌は直らねぇよ。

「……俺は身体からってのは嫌なんだよ」

 また指の隙間を閉じて、殻にこもる。

 この歳で純粋な恋愛に憧れてる、なんて言ったら誰にでも笑われるかもしれねぇけど、身体からの関係は俺は嫌いだ。

 しかも、あんな一方的で、俺のことどう思ってるかも分かんねぇし、男だし……。

「ジョン、それってさ……」

 そう言いながらラファエルの手が俺の手にそっと触れる。


「私のことが別に嫌いではないって言ってるんだよね?」

 ゆっくりと手を取り払われ、透き通るような瞳と視線が合った。

「なっ」

 思ってもなかったことを言われて戸惑う。この男は一体、何を言っているのか。

「心からならいいってことなんだよね?」

 そう追って尋ねられて、頭が混乱する。

 それって屁理屈ってやつか? 身体からではなく、心からなら俺があんたを好きになるとでも? そんなわけないだろ? だって、どこにこの男に惹かれる要素があった?

「は、そんなわけ……、それにあんただって俺にもう興味ねぇみてぇな態度……」

 そこで言葉を切るのは、なんだか、それが俺が他人に嫉妬してるみてぇに思えたからだ。

 身体を起こしながら、ふんっとそっぽを向く。

 だが、その顔をラファエルは顎を掴んで自分のほうに向かせた。

「君、押してダメなら引いてみろ、って言葉、聞いたことある?」
「は?」

 疑問符を頭に浮かべながら、ラファエルの言葉の意味を考えてみた。

「押してダメなら引いてみろ、だ? それくらい、知ってるに決まって……、はぁあああああ? もしかして、わざとだったってことか!?」

 ――俺と距離を置いたのも、俺の前で女とイチャイチャしたのも全部?

 一気にぶわわっと顔が熱くなった。俺はこの男にまんまとやられたってわけだ。

「単純で素直で、本当に可愛いね。ちょっと意地悪、したくなってしまったんだ」

 言葉の途中で笑いを堪えられなくなったみてぇにラファエルは言った。

「あんたなぁ!」

 勢いのままにぶん殴りそうになった俺の手を奴がパッと掴んで引き寄せる。

「私に構ってもらいたかった? 寂しいと思った?」

 そう耳元で囁かれて、思わず、ぐるるっと唸ってしまった。認めたくなかった。自分の中にそんな感情が生まれたこと。必死に抗って、一匹狼に戻りたかった。

 それでも

「ほら、シャワー浴びてきて。なにもしないから、今夜は一緒に寝よう」

 後ろから回ってきた手に頭を撫でられ、俺はまた逆らえなくなった。
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