13 / 20
男じゃなくたって別に
しおりを挟む
◆ ◆ ◆
次の日、夜八時頃、レジカウンターの中を片付けながらぼんやりと考えていた。
ラファエルは俺を一連の事件の犯人だと思って、ちょっかいをかけてくるのか? 俺のことが気になるって言ってたのは、そういうことか? 疑ってどうする? 俺を殺す気か?
思考に飲まれそうになったときだった。
チリリン
扉が開き、店のベルが鳴った。
「こんばんは」
人当たりの良さそうな笑みを浮かべて店に入ってきたのは、黒い細身のコートを着たセクシーな女性だった。ブロンドの髪がさらりと揺れる。
「どうも、いらっしゃいませ」
この店に来るのは大抵、ダニエルの昔からの友人とか、そこらへんの柄の悪いやつとか、昼間は学生が来たりするが、まあ、取り敢えず、夜に綺麗な女性が一人で来るのは珍しい。
俺もどう接していいのか、正直、戸惑いを隠すのに必死だ。
「あの、ワインは置いてるかしら?」
どこにあるか分からないワインを探して、女性がキョロキョロと店内を見回す。
なるほど、近くの酒専門店は早めに閉まっちまうから、しょうがなく来たって感じか。
「赤ですか? 白ですか? あまり高いのはないんですけど」
カウンターから出ながら、俺は丁寧な口調で言った。女性を怖がらせたくないからな。
ただ、この店はローカルショップだからな、そんなに高い酒は置いてない。安酒ばっかだ。
「出来れば赤が欲しいのだけれど」
小首を傾げながら言われると思わずたじろぎそうになった。
「ゴホンッ……赤だと、うちで一番高いのはこれですが」
咳払いをして、酒の棚からうちで一番高価なワインを取り出し、女性に見えないように自分の服の袖でホコリを拭った。高いから、ずっと買われずに置かれてたんだ。
「ありがとう。それにするわ」
「……っ」
輝くような笑顔に心臓を射貫かれる。
そうだ、別に男のあいつに構ってもらえなくたって良いじゃねぇか。いや、構ってもらいてぇとか、そういうんじゃなくて、ひとまず、この会計が終わったら、彼女に声を掛けてみよう。
そう思っていたんだが、ちょうど会計が終わる頃にまた店のベルが鳴った。
来客だ。ワインの入った紙袋を女性に手渡しながら、俺は扉のほうに視線を向ける。
「ちゃんと買い物出来た? 子猫ちゃん」
聞き覚えのある声に派手な赤いシャツと無造作な癖のある黒髪……の男。
「ラ、ファエル……」
反射的に顔が強張る。なんもねぇ顔しねぇと余計に怪しまれるってのに。
「あら? 知り合い?」
興味津々な様子で女性が俺とラファエルの顔を交互に見た。
「ん? お隣さん」
さらっと答えながら、ラファエルはワインの入った紙袋を女性から受け取り、自然な動作で彼女の腰に手を回した。
「あ、そうなのね。本当にありがとう、お隣さん」
「い、いや」
彼女から丁寧に礼を言われたが、そう答える以外に俺に出来ることはなかった。
「さあ、行こう。長居は不要だよ」
ラファエルなんざ、俺に一切興味がねぇみてぇな顔と態度で一度だって俺と目が合わず、そのまま女性を連れて店から出て行った。
「はぁあああぁ……」
――か、監視してやがんのか……!? つーか、またブロンドかよ……。
再び静かになった店内で、俺は大きく溜息を吐き、心の中でぼやいた。
次の日、夜八時頃、レジカウンターの中を片付けながらぼんやりと考えていた。
ラファエルは俺を一連の事件の犯人だと思って、ちょっかいをかけてくるのか? 俺のことが気になるって言ってたのは、そういうことか? 疑ってどうする? 俺を殺す気か?
思考に飲まれそうになったときだった。
チリリン
扉が開き、店のベルが鳴った。
「こんばんは」
人当たりの良さそうな笑みを浮かべて店に入ってきたのは、黒い細身のコートを着たセクシーな女性だった。ブロンドの髪がさらりと揺れる。
「どうも、いらっしゃいませ」
この店に来るのは大抵、ダニエルの昔からの友人とか、そこらへんの柄の悪いやつとか、昼間は学生が来たりするが、まあ、取り敢えず、夜に綺麗な女性が一人で来るのは珍しい。
俺もどう接していいのか、正直、戸惑いを隠すのに必死だ。
「あの、ワインは置いてるかしら?」
どこにあるか分からないワインを探して、女性がキョロキョロと店内を見回す。
なるほど、近くの酒専門店は早めに閉まっちまうから、しょうがなく来たって感じか。
「赤ですか? 白ですか? あまり高いのはないんですけど」
カウンターから出ながら、俺は丁寧な口調で言った。女性を怖がらせたくないからな。
ただ、この店はローカルショップだからな、そんなに高い酒は置いてない。安酒ばっかだ。
「出来れば赤が欲しいのだけれど」
小首を傾げながら言われると思わずたじろぎそうになった。
「ゴホンッ……赤だと、うちで一番高いのはこれですが」
咳払いをして、酒の棚からうちで一番高価なワインを取り出し、女性に見えないように自分の服の袖でホコリを拭った。高いから、ずっと買われずに置かれてたんだ。
「ありがとう。それにするわ」
「……っ」
輝くような笑顔に心臓を射貫かれる。
そうだ、別に男のあいつに構ってもらえなくたって良いじゃねぇか。いや、構ってもらいてぇとか、そういうんじゃなくて、ひとまず、この会計が終わったら、彼女に声を掛けてみよう。
そう思っていたんだが、ちょうど会計が終わる頃にまた店のベルが鳴った。
来客だ。ワインの入った紙袋を女性に手渡しながら、俺は扉のほうに視線を向ける。
「ちゃんと買い物出来た? 子猫ちゃん」
聞き覚えのある声に派手な赤いシャツと無造作な癖のある黒髪……の男。
「ラ、ファエル……」
反射的に顔が強張る。なんもねぇ顔しねぇと余計に怪しまれるってのに。
「あら? 知り合い?」
興味津々な様子で女性が俺とラファエルの顔を交互に見た。
「ん? お隣さん」
さらっと答えながら、ラファエルはワインの入った紙袋を女性から受け取り、自然な動作で彼女の腰に手を回した。
「あ、そうなのね。本当にありがとう、お隣さん」
「い、いや」
彼女から丁寧に礼を言われたが、そう答える以外に俺に出来ることはなかった。
「さあ、行こう。長居は不要だよ」
ラファエルなんざ、俺に一切興味がねぇみてぇな顔と態度で一度だって俺と目が合わず、そのまま女性を連れて店から出て行った。
「はぁあああぁ……」
――か、監視してやがんのか……!? つーか、またブロンドかよ……。
再び静かになった店内で、俺は大きく溜息を吐き、心の中でぼやいた。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説



【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・話の流れが遅い
・作者が話の進行悩み過ぎてる

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)


禁断の祈祷室
土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。
アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。
それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。
救済のために神は神官を抱くのか。
それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。
神×神官の許された神秘的な夜の話。
※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる