孤狼の子孫は吸血鬼に絆される

純鈍

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君はガバガバ

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 ◆ ◆ ◆

「ジョン・ブラックウェル……」

 朝からステーキを食いながら、俺はぼそりと呟いた。

 小さくて黒い丸テーブルを挟んで、向こうの椅子には憎き隣人の男が座っている。

 さらに憎いのが俺の着ている服がこの男のもので派手なエメラルドグリーンをしているってことだ。

「もしかして、君の名前? 嬉しいな。ラファエル・ミカエリスだ」

 本当に嬉しそうな顔をしながらラファエルが俺に握手を求めてきた。さっきまで優雅に足を組んで、俺がステーキを食っている姿をジッと見つめているだけだったのに。

「すげぇ名前してんな」

 仕方なく、一瞬だけ握手に応えてやった。すぐにパッと離したが。

 ほんと吸血鬼のくせに大それた天使みてぇな名前してやがる。

「元の名前は忘れてしまったんだ」

 俺の顔を見て、ラファエルはへらっと笑った。

 忘れたから適当につけたってか? 適当に俺の名前つけた俺の親父みてぇなセンスしてんな。俺の姓は、まあ、父さんのほうだ。

「で、君はどこから来たの?」
「クソ田舎」

 知り合ったばかりの信用出来ねぇやつに地元を知られたくねぇから、俺は適当に答えた。間違ったことは言ってない。

「どうして都会に出てきたの? 何かしたいことでもあった?」
「……仕事でも、探そうと思って」

 そう答えてみるが、改めて考えてみると、俺にはさほど立派な目的がないことに気付く。俺は一体、なにがしたいのだろうか、と。

 夢を追って都会に来るやつもいるが、別に俺にはそういうものがあるわけではない。女との出会いを求めて都会に来るやつもいるが、俺も機会があれば可愛い系の女とか綺麗系の女と……。

「なるほど、仕事か。――それにしても、その顔とその性格で童貞とは、へぇ」
「う、うっせぇな、機会がなかったんだよ!」

 突然、核心をついたようなことを言われ、まるで心を読まれたみてぇでひどく動揺した。

「君、すぐ、耳と尻尾出ちゃうもんね」
「うぐぐっ」

 揶揄うようにふっと笑われ、怒りを抑えるために歯を噛み締める。

「ああ、もしかして、君がその歳まで都会に出て来なかったのって、それが理由だったりする? そんなにガバガバでご両親もさぞ大変だっただろうね」
「がっ、ガバガバって言うなっ!」

 語弊あるだろ、その言い方!

 やれやれという仕草がムカつく。

 たしかに人間に自分が狼だとバレると厄介なことになるから、極力、人と接触しないようにしてきたってのはあるが。

「獣化我慢する訓練、お手伝いしようか?」
「余計なお世話だ。あんたに会うまでは上手くいってた」

 テーブルに両肘をつき手を組んで余裕を見せてくるラファエルに、俺は不機嫌全開のムスッとした顔で言ってやった。

 あんたが居なきゃ何も問題ねぇはずだ。

「ふーん。――お肉、美味しい?」

 突然のことだった。なんの脈絡もなくラファエルはそう尋ねながら、ガガッと椅子に座ったまま俺の真横に移動してきた。なんでニヤニヤ笑ってんだ?

「お、おう」

 突然なんだ? と思うが、肉はやわらかくて焼き加減が絶妙で肉汁も溢れ出てすげぇし、赤ワインソースも美味い。料理に関してはなにも文句を言うことはない。

「そっか、それは良かった」

 奴の返答も特に変わったところはない。ここだけ取れば何気ない会話っぽいんだが、なんで横に移動してきたんだ?

 ステーキの最後の一切れを頬張りながら、隣に座るラファエルのことをチラッと見た瞬間だった。

「君は髪を下ろしているほうが似合うよ」

 さらっとセットしてない髪に触れられ、流れる動作で襟足を撫でられた。背筋がゾクゾクする。

「近っ!」

 距離感おかしいだろ、こいつ! と思ったが、しまった、もう遅い。狼の耳と尻尾が出てるのが自分でも分かる。

「ガバガバ」

 悪魔みてぇに意地の悪い笑みを浮かべながらラファエルは手をヒラヒラと振った。

「ふ、ふざけんなっ! 色々世話になったことには礼を言うが、今回のは不可抗力だ! 俺は男は認めない! 帰る!」

 少々乱暴にカトラリーを皿の上に置いて、俺は勢い良く席から立ち上がった。

 完全に馬鹿にされてやがる。奴が肉を準備している間にシャワーを浴びたんだが、ちゃんとセットまでしておけば良かった。そうすれば、髪について言わせる隙を与えることもなかったかもしれない。

「残念だなぁ……、またおいで」
「く、来るかよっ!」

 玄関まで後をついてくるラファエルは本当に残念がってるみてぇな顔しやがって、少しだけ心が揺らぎそうになったが、俺は奴に追いつかれる前に部屋から脱出して自分の部屋に駆け込んだ。

 よし、これで、きっと明日からは平和に……と思ったが、あー、あいつの部屋に服置いてきちまったし、これ、あいつの服だし……。
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