孤狼の子孫は吸血鬼に絆される

純鈍

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透き通る瞳と吸血行為

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 汚れたタオルを氷の入った袋ごと床に落とし、男は俺を元の場所に座らせた。そして、自分は俺の隣に腰を下ろす。

「離してくれ」

 そう口にしながら、思わず、目が泳ぐ。

「ああ、昨日のこと想像しちゃった? 見た目によらず、初心なんだね」

 片手で俺の腕を掴みながら、もう片方の手で俺の頬をするりと撫でる男。

 昨日はぶん殴ったが、一応、この男はいま俺の介抱をしてくれたわけで、恩人を殴るわけにいかないだろう。

「あんた、男も……」

 いけるのか? と恐る恐る尋ねると

「ん? ああ、私は男女どちらでもいいんだ。気持ちよければ、なんだって」

 ニコッと笑う瞳と視線が合った。見ちまった。なんかよりどりみどりって言われてるみてぇでムカつくな。

 ムスッとした顔を向けると、男はふっと息を吐いて、俺にまた少し近付いた。頬を撫でていた手が今度はしっかりと俺の顔を固定するように触れる。

「君、綺麗な瞳してるんだね。私と同じ色なのに、全然虹彩の深みが違う。吸い込まれそうだ」

 間近でジッと見つめられ、不覚にもどきりとしてしまう。

 透き通るような色しやがって、吸い込まれそうなのは、どっちだっての……。

 ああ、心臓がうるせぇ。

 バクバクと何度自分の心臓の爆音を聞いたときだったか、ツーっとまた俺の鼻から血が垂れてきた。

「っ……」

 俺は慌てたが、男は俺のことを離してくれなかった。そのまま、男はこちらに顔を近付けて俺の鼻血を……舐めた。

「っ、おい! 人の鼻血舐めるとか、どんな神経してんだ!」

 控えめに舐めるのではなく、べろっと思いっきり舐められ、俺は大きな声で怒鳴った。

 いや、控えめに舐めていれば良かったわけではないが。

「ああ、すまない、つい」

 俺から少し顔を離して、男は謝ったが、つい、ってなんだ?

 困惑した俺を見て、男がふっと笑う。

「そうか……、君、人間じゃないんだね」 
「なっ!」

 突然の真実をつく言葉に俺は動揺した。

 人にバレないように隠してた意味が……。いや、でも、さっきの強盗を吹っ飛ばしたとき、耳も尻尾も出てなかったはず。なら、どうして、この男には分かったんだ?

「君の血は色んな種族がブレンドされてるからか野性味があって格別に美味しい」

 そう言いながら、男はまた俺の鼻血をひと舐めし、「うーん、メインは狼かな?」と呟いた。

「な、なななな、なん……」

 おかげで鼻血は止まったようだが、動揺が隠せない。いつの間にか、奴の手が俺の腰に回っていて完全に逃げるタイミングも隙も無くした。

「私は吸血鬼なんだ。正気の相手に打ち明けるのは君が初めてだよ」
「まじか……」

 吸血鬼ってまじでこの世界に存在してたのか、と男のことをジロジロと見てしまう。

 それから気になって、バッと男の胸に耳を当てて心音を確認してしまった。

 血色も悪くねぇし、昼間も普通に外出てたよな、それに心臓も動いてるし、どうなってんだ?

「本当は誰でも私の魅力に惹かれるはずなんだけど、君は……ごめん、ちょっと、もう我慢出来ないや」
「は? お、おい、待て、何やって……っ!」

 急にガバッと抱きしめられたかと思うと、首に刺すような痛みが走った。

「うっ、くっ、勝手に血吸うなよ……ッ」

 いま、俺は明らかに首から血を吸われている。

 腕に力を込めて、引き剥がそうとするが、男はビクともしない。

 男が俺の血を吸う度にピチャッ、じゅるっと水音が立ち、その音がやけにいやらしく聞こえた。

「はっ、はぁ……ッ、熱……」

 ――吸われている場所が熱い……っ。しかも、なんだこれ、熱が全身に広がっていくみてぇだ……。

「んー、これは影響出るんだね」

 やっと身体を離して、自分の唇を舐めながら興味深そうに男は俺の顔を覗き込んだ。

 言っている意味がまったく分からない。

「熱いでしょ? はい、脱いで。あとでランドリーで洗濯してきてあげるから」
「ちょ……、ぁッ」

 俺に抵抗する間も与えず、男は俺の上着と鼻血のついたシャツを少し乱暴に剥ぎ取った。

 ほんと、これ、なんなんだ? なんだか触れられる場所全部がビリビリする。

「ほら、こっちも」
「……ッ」

 身体に上手く力が入らず、勝手に下もすべて剥ぎ取られてしまった。

「な、んか、変だ」

 俺だけ裸にされて、ドサリとベッドに押し倒されてるこの現状って……。
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