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隣の住人と声
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◆ ◆ ◆
鈍行列車に乗って、大都市まで出て、目的地であるアパートに辿り着いたのは日付が変わった後だった。
ちゃんとアパートを借りる契約が通っていて本当に良かったと思う。
部屋は狭いが、簡易的なキッチンスペースがついていて、シャワーもある。質素ではあるが、ベッドも先に部屋に入れてあった。
「あぁぁあ……、疲れた……」
崩れるようにベッドに倒れ込む。
寝心地はイマイチだが、この先、上手く金が稼げるようになれば、新調することも出来るだろう。
今日はこのまま眠って、明日の朝、いや、もう今日の朝か、目覚めたらシャワーを浴びよう。瞼が重い。水に沈むように意識が遠退いていく。
「……ンッ、……ぁんっ」
――は?
突然、ある音が聞こえてきて、俺はパッと目を見開いた。
人の声だ。女の声。
「……あ、んっ、んんっ……」
気のせいじゃない。聞こえる、隣の部屋から確実に女の喘ぎ声が聞こえる。
「まじかよ……」
俺はベッドの上で文字通り頭を抱えた。
こんなに音が聞こえるのに、こんな遅い時間に何してくれてんだよ。いや、俺の耳が良いのがいけないのか?
「あんっ、や、ン、あんっ!」
にしても、声でかすぎるだろ。というか、どんどんでかくなっていってる気がする。
このままじゃ眠れねぇ。
試しに耳に布を詰めてみた。俺のルーツは犬と狼だから、耳が良すぎてダメだった。
とりあえず、今日は我慢するか……、と思っていたが一向に終わる気配がない。
それに、なんか女が一人じゃねえ気がするんだが?
「仕方ねぇな……」
重い身体を動かして、俺は部屋から出て、隣の部屋の前に立った。
そして、コンコンというか、ゴンゴンと扉を強めに叩く。それから
「隣のもんなんだが!」
怒っているぞ、という思いも込めて、少し大きい声で呼び掛けた。
「はいはい、どうしたの?」
間を置いて、扉を開けたのは白いバスローブを着たボサボサ頭の男だった。
少し長めの癖のある黒い髪がいままで暴れてましたよ、と言っているようだ。
瞳は髪に隠れて、あまり見えなくて、背は俺とそんなに変わらない。
男の肩越しに部屋の中が見えて、裸の女三人が「ハァイ」と、ベッドの上からこちらに手を振っている。
ブロンド、ブロンド、ブロンド、三人とも俺と同じ金髪だ。
「いや、その……声が……」
これから隣で暮らしていくことになるんだ。
トラブルは極力避けて、まずは静かに落ち着いて注意しようと思って、俺は曖昧に言葉を口にした。
ここまで言えば、大体の奴は察して分かるだろう。気まずくなって、少しは静かになるはずだ。それなのに男は
「もしかして、君も混ざりたいの?」
俺の顔を覗き込んで、そう言った。男は口元に笑みを浮かべている。
「……は?」
突然の予想外の言葉に困惑した。
だが、まだ我慢出来る。ハッキリと断ろう。
「いや、俺は……」
「混ざりたくて来たんじゃないの?」
ああ、ダメだ……。
男にするりと頬を撫でられた瞬間に俺の中でなにかが爆発した。
「声がうっせぇんだよ!」
気が付いたら、俺は男の頬を拳で殴っていた。部屋の中に男が転がる。
驚いたような顔で男は俺のことを見上げていたが、もうマジで知らねぇ、俺はそのまま部屋に帰った。
そのまま、安物のベッドにダイブする。
あー、最悪だ。
いまのは俺が悪いんじゃねぇ。
あいつが俺に触れてきたからいけねぇんだ。これは正当防衛、これは正当防衛だ。
そう思うことにした。
激しい運動をしたからか、音が聞こえなくなったからか、そのあとはぐっすり眠れた。
鈍行列車に乗って、大都市まで出て、目的地であるアパートに辿り着いたのは日付が変わった後だった。
ちゃんとアパートを借りる契約が通っていて本当に良かったと思う。
部屋は狭いが、簡易的なキッチンスペースがついていて、シャワーもある。質素ではあるが、ベッドも先に部屋に入れてあった。
「あぁぁあ……、疲れた……」
崩れるようにベッドに倒れ込む。
寝心地はイマイチだが、この先、上手く金が稼げるようになれば、新調することも出来るだろう。
今日はこのまま眠って、明日の朝、いや、もう今日の朝か、目覚めたらシャワーを浴びよう。瞼が重い。水に沈むように意識が遠退いていく。
「……ンッ、……ぁんっ」
――は?
突然、ある音が聞こえてきて、俺はパッと目を見開いた。
人の声だ。女の声。
「……あ、んっ、んんっ……」
気のせいじゃない。聞こえる、隣の部屋から確実に女の喘ぎ声が聞こえる。
「まじかよ……」
俺はベッドの上で文字通り頭を抱えた。
こんなに音が聞こえるのに、こんな遅い時間に何してくれてんだよ。いや、俺の耳が良いのがいけないのか?
「あんっ、や、ン、あんっ!」
にしても、声でかすぎるだろ。というか、どんどんでかくなっていってる気がする。
このままじゃ眠れねぇ。
試しに耳に布を詰めてみた。俺のルーツは犬と狼だから、耳が良すぎてダメだった。
とりあえず、今日は我慢するか……、と思っていたが一向に終わる気配がない。
それに、なんか女が一人じゃねえ気がするんだが?
「仕方ねぇな……」
重い身体を動かして、俺は部屋から出て、隣の部屋の前に立った。
そして、コンコンというか、ゴンゴンと扉を強めに叩く。それから
「隣のもんなんだが!」
怒っているぞ、という思いも込めて、少し大きい声で呼び掛けた。
「はいはい、どうしたの?」
間を置いて、扉を開けたのは白いバスローブを着たボサボサ頭の男だった。
少し長めの癖のある黒い髪がいままで暴れてましたよ、と言っているようだ。
瞳は髪に隠れて、あまり見えなくて、背は俺とそんなに変わらない。
男の肩越しに部屋の中が見えて、裸の女三人が「ハァイ」と、ベッドの上からこちらに手を振っている。
ブロンド、ブロンド、ブロンド、三人とも俺と同じ金髪だ。
「いや、その……声が……」
これから隣で暮らしていくことになるんだ。
トラブルは極力避けて、まずは静かに落ち着いて注意しようと思って、俺は曖昧に言葉を口にした。
ここまで言えば、大体の奴は察して分かるだろう。気まずくなって、少しは静かになるはずだ。それなのに男は
「もしかして、君も混ざりたいの?」
俺の顔を覗き込んで、そう言った。男は口元に笑みを浮かべている。
「……は?」
突然の予想外の言葉に困惑した。
だが、まだ我慢出来る。ハッキリと断ろう。
「いや、俺は……」
「混ざりたくて来たんじゃないの?」
ああ、ダメだ……。
男にするりと頬を撫でられた瞬間に俺の中でなにかが爆発した。
「声がうっせぇんだよ!」
気が付いたら、俺は男の頬を拳で殴っていた。部屋の中に男が転がる。
驚いたような顔で男は俺のことを見上げていたが、もうマジで知らねぇ、俺はそのまま部屋に帰った。
そのまま、安物のベッドにダイブする。
あー、最悪だ。
いまのは俺が悪いんじゃねぇ。
あいつが俺に触れてきたからいけねぇんだ。これは正当防衛、これは正当防衛だ。
そう思うことにした。
激しい運動をしたからか、音が聞こえなくなったからか、そのあとはぐっすり眠れた。
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