孤狼の子孫は吸血鬼に絆される

純鈍

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息子の門出

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 ◆ ◆ ◆

【法律によって、イギリスでは狼が狩られた時代があった。一匹だけ生け捕りにされた狼は軍隊で生きた殺人兵器として使用され、戦場で恐れられた。なお、その狼は一人の軍人の命令しか聞かなかったという。その軍人の名はジェラルド・アルダートン――】

 その噂が生まれてから、もう二十年近く経つ。まあ、その軍人が俺の親父で、その狼が俺の父さんってことは今では誰も知らない事実なんだが……。

 イギリスで最後に残された狼が、実は金髪灰眼の人間になって暮らしてるなんて誰も思いはしないだろう。

 俺が物心ついたときに聞いた話だと、俺の母親はどっかから連れて来られた狼に似た大型犬で今は行方が分かってないらしい。

 それで、俺には狼と犬の血しか流れてないんだが、なぜか人間に変化出来る。

 その原理は父さん自身も分からないそうだが、俺や父さんみたいに科学じゃ証明出来ない未知の生き物も、ただ公にしていないだけで世間には他にもたくさん居るだろう。

 で、親父のほうなんだが……

「ジェラルド、今夜、僕の相手してくれます?」
「っ、どこ触ってんだ……。チャールズ、あんた、まだ俺に勃つのか?」
「それはもちろん。まだまだ余裕ですよ」

 はぁ……、キッチンから聞こえてくる会話に溜息が出る。

 五十手前でお盛んなこって。まだ朝だぞ?

「息子の門出の日にそういう会話するか、普通」

 空気なんて全然読んでやらずに俺はキッチンに乱入した。

 俺、まだ居るぞ、って感じなんだが? という顔を向けると親父は気まずそうな顔で視線を逸らし、父さんは親父から離れることなくこっちを見て「ジョンももう大人なんですから、いいじゃないですか」とニコッと笑った。

「よかねぇわ。俺はぜってぇ男同士なんて認めねぇ。ったく……」

 二人を横目に一杯だけ水を飲んで、俺は大きなバックパックを背負った。

 そう、今日は俺がこの家を出ていく日だ。

 こんな何もない田舎から早く出たいって気持ちが一番だが、親のこういう会話を聞きたくないってのも理由の一つにある。

 で、親父のほうなんだが、俺とは全く血が繋がっていない。

 髪の色もアッシュグレーだし、目の色もグリーンで金髪灰眼の俺にはなにも継がれてない。

 だが、一緒に居るのが嫌だと思ったことは一度もない。父さんと共に俺をこの歳まで育ててくれて、感謝してるし、まじで自分の親父だと思ってる。

 ただ、男同士ってのも意味分からねぇし、スラッとして清楚な父さんのほうが母親っぽいのに、抱かれてるのが元軍人の厳つい親父のほうってのがさらに意味が分からねぇ。

「ジョン、うちの仕立屋を継いでくれても良いんですよ?」

 玄関に移動する俺の後に父さんがついてくる。その後ろには親父の姿もある。

「継がねぇって。父さん、今さらなに言ってんだ? 約束したんだから出てって良いだろ?」

 俺は振り返って、文句を言った。父さんは町で立派なスーツの仕立て屋をやっている。

 父さんさえ許してくれれば、もっと早くに家を出たのに、とも思う。

「まったく、その言い方、その性格、誰に似たんですかねぇ」
「うぐっ」

 玄関で少し困ったような言い方をする父さんの横で親父がギクリと息を詰める。

「まあ、二人が似ていて僕は嬉しいですけど」

 そう言いながら、父さんはふふっと柔らかな笑みを浮かべた。

 俺と親父は血が繋がっていないが、明らかに俺の性格は親父の影響を受けている。

 昔から仕事の忙しい父さんに代わって遊んでくれてたのが親父で、一緒に居る時間が長く、それでいて、なんとなく男らしくて格好いいと思って餓鬼の頃に真似し始めたのがきっかけだ。

「ジョン」

 突然、名前を呼ばれたかと思うと、柔らかな笑みを仕舞い込んで、父さんが真剣な顔を俺に向けてきた。

「自分が獣化することを誰かにバレてはいけませんよ? 都会は怖いですからね?」

 父さんの手が俺の髪を優しく整える。親父に似せてセットした俺のオールバックの髪が、父さんはお気に入りのようだ。

「分かってる」

 少しくすぐったいなと思いながら俺は適当に答えた。

「ちゃんと手紙の返事はくださいね」
「分かってるっての」

 父さんの言葉にまた適当に答えて、俺は二人に背を向けた。

 どんだけ過保護なんだよ。もう住む部屋だって決まってるってのに。

「ジョン、困ったらすぐ連絡しろよ?」
「ああ、もうっ、子供じゃねぇんだから、静かに送り出してくれ!」

 今度は親父かよ、と思って、呆れながら振り向くと

「っ……」

 二人にギュッと正面から抱きしめられた。

「いってらっしゃい」
「いってこい」

 優しい声音がくすぐったい。

「いってきます……」

 少しだけ名残惜しくて、俺は小さく呟き、静かに家を出た。

 このあと、とんでもないことに巻き込まれるとは知らずに……。
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