天乃ジャック先生は放課後あやかしポリス

純鈍

文字の大きさ
上 下
83 / 87
第3話 天邪鬼

30

しおりを挟む
 ◆ ◆ ◆

 次の日、僕らは寮に帰ることになった。問題も解決したし、夏休みでも学校に行かないといけない日が先生にはあるからだ。

「もう帰るの?」

 見送ってくれたのは紗友さんだった。むすっとした顔でホウキを持ってエントランスに立っている。

「また来るよ」
「天乃くん、私との結婚は?」

 忘れたの? という視線が先生に刺さる。

「紗友、俺は人間じゃない」
「分かってる」

 心が見えない僕でも紗友さんが決心しているのが分かった。

「俺はお前とは一緒に生きてやれない」
「天乃くん……」

 先生が背中を向けて歩き出すと紗友さんはとても悲しそうな顔をした。そんな彼女の心を見たのか、ピタリと先生の足が止まる。

「お前には生きる自由があるじゃないか。自分と生きられる人間を探せ。都会に来たければ来ればいい。家の仕事が、なんて考えずに自分の想いで出てくればいい。明代さんはお前の夢を止めたりするような心の狭い人じゃないよ」

 一瞬だけ振り向いて、先生はまた歩き出した。

 僕は気付いてしまった。先生の自由という言葉には二通りの意味がある。『自由に何かをして生きられる』と『誰かに生死を決められることなく生きられる自由』の意味だ。

「先輩、罪な男ですね」

 旅館を出て、今まで黙って隣に居た透キヨさんが口を開いた。

「え?」

 先生が、まったく意味が分からないという顔をする。

「あれだと、さらに先輩に惚れてしまうと思うんですよね」
「は?」
「だって、あれじゃ優しすぎますもん。たまには厳しくならないとねぇ」

 透キヨさんが楽しそうにニヤニヤと笑った。目つきが悪いからおまわりさんというより、悪い取引をする人にしか見えない。

「うるさいぞ。恋もしたことないやつが文句を言うな」
「し、したことありますよ」
「ほう、今度話聞かせろよ」
「分かりましたよ。びっくりしても知りませんからね?」

 隣の二人が騒がしい。大人の恋の話はやっぱり分からなくて、僕はずっと山の方を見ていた。

 夏の間、緑に生い茂るこの山も秋になれば赤や黄色に染まり、あのススキも黄金色になる。いつかあそこに先生と亜蘭さんが笑って立てるときがくれば良いな、と思った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

処理中です...