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第3話 天邪鬼
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◆ ◆ ◆
次の日、僕らは寮に帰ることになった。問題も解決したし、夏休みでも学校に行かないといけない日が先生にはあるからだ。
「もう帰るの?」
見送ってくれたのは紗友さんだった。むすっとした顔でホウキを持ってエントランスに立っている。
「また来るよ」
「天乃くん、私との結婚は?」
忘れたの? という視線が先生に刺さる。
「紗友、俺は人間じゃない」
「分かってる」
心が見えない僕でも紗友さんが決心しているのが分かった。
「俺はお前とは一緒に生きてやれない」
「天乃くん……」
先生が背中を向けて歩き出すと紗友さんはとても悲しそうな顔をした。そんな彼女の心を見たのか、ピタリと先生の足が止まる。
「お前には生きる自由があるじゃないか。自分と生きられる人間を探せ。都会に来たければ来ればいい。家の仕事が、なんて考えずに自分の想いで出てくればいい。明代さんはお前の夢を止めたりするような心の狭い人じゃないよ」
一瞬だけ振り向いて、先生はまた歩き出した。
僕は気付いてしまった。先生の自由という言葉には二通りの意味がある。『自由に何かをして生きられる』と『誰かに生死を決められることなく生きられる自由』の意味だ。
「先輩、罪な男ですね」
旅館を出て、今まで黙って隣に居た透キヨさんが口を開いた。
「え?」
先生が、まったく意味が分からないという顔をする。
「あれだと、さらに先輩に惚れてしまうと思うんですよね」
「は?」
「だって、あれじゃ優しすぎますもん。たまには厳しくならないとねぇ」
透キヨさんが楽しそうにニヤニヤと笑った。目つきが悪いからおまわりさんというより、悪い取引をする人にしか見えない。
「うるさいぞ。恋もしたことないやつが文句を言うな」
「し、したことありますよ」
「ほう、今度話聞かせろよ」
「分かりましたよ。びっくりしても知りませんからね?」
隣の二人が騒がしい。大人の恋の話はやっぱり分からなくて、僕はずっと山の方を見ていた。
夏の間、緑に生い茂るこの山も秋になれば赤や黄色に染まり、あのススキも黄金色になる。いつかあそこに先生と亜蘭さんが笑って立てるときがくれば良いな、と思った。
次の日、僕らは寮に帰ることになった。問題も解決したし、夏休みでも学校に行かないといけない日が先生にはあるからだ。
「もう帰るの?」
見送ってくれたのは紗友さんだった。むすっとした顔でホウキを持ってエントランスに立っている。
「また来るよ」
「天乃くん、私との結婚は?」
忘れたの? という視線が先生に刺さる。
「紗友、俺は人間じゃない」
「分かってる」
心が見えない僕でも紗友さんが決心しているのが分かった。
「俺はお前とは一緒に生きてやれない」
「天乃くん……」
先生が背中を向けて歩き出すと紗友さんはとても悲しそうな顔をした。そんな彼女の心を見たのか、ピタリと先生の足が止まる。
「お前には生きる自由があるじゃないか。自分と生きられる人間を探せ。都会に来たければ来ればいい。家の仕事が、なんて考えずに自分の想いで出てくればいい。明代さんはお前の夢を止めたりするような心の狭い人じゃないよ」
一瞬だけ振り向いて、先生はまた歩き出した。
僕は気付いてしまった。先生の自由という言葉には二通りの意味がある。『自由に何かをして生きられる』と『誰かに生死を決められることなく生きられる自由』の意味だ。
「先輩、罪な男ですね」
旅館を出て、今まで黙って隣に居た透キヨさんが口を開いた。
「え?」
先生が、まったく意味が分からないという顔をする。
「あれだと、さらに先輩に惚れてしまうと思うんですよね」
「は?」
「だって、あれじゃ優しすぎますもん。たまには厳しくならないとねぇ」
透キヨさんが楽しそうにニヤニヤと笑った。目つきが悪いからおまわりさんというより、悪い取引をする人にしか見えない。
「うるさいぞ。恋もしたことないやつが文句を言うな」
「し、したことありますよ」
「ほう、今度話聞かせろよ」
「分かりましたよ。びっくりしても知りませんからね?」
隣の二人が騒がしい。大人の恋の話はやっぱり分からなくて、僕はずっと山の方を見ていた。
夏の間、緑に生い茂るこの山も秋になれば赤や黄色に染まり、あのススキも黄金色になる。いつかあそこに先生と亜蘭さんが笑って立てるときがくれば良いな、と思った。
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