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第3話 天邪鬼
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「いいか? 父ちゃんと母ちゃんはな自分の国の外がどうなっているのか知りたくて、ずっと前に海を渡ってきたんだ。大きな船に乗って、大変だったんだぞ。前を行っていた別の船が転覆したときはもうダメかと思った。長旅で水も食料も底を尽きかけたときに、やっとここ、日本という国に辿り着いた」
船を表現しているのか、父親は手をすーっと畳の上に滑らせた。
僕らの生きている今の時代では他の国に行くのはとても簡単になったけれど、昔は船しかなくて、しかもその旅はとても危険で航海に出るのは命がけだったと図書館にあった本で読んだことがある。先生たちのお父さんたちはとても凄いことを成し遂げたんだ。
「日本の役人に自分たちの技術を教える代わりに助けてもらって、ここの生活を手に入れた。最初は言葉も通じなくて苦労したが、今ではなんのそのだ。何年かして、蘭生が産まれて、また何年かして亜蘭が産まれた。俺は幸せだよ」
父親はそう言って僕と亜蘭さんをぎゅっと抱きしめた。僕は〝蘭生〟という先生が隠していた名前を知った。
「私もよ」
少し離れた台所のような場所で母親が嬉しそうに笑う。
「俺もだ」
僕も笑った。
「ぼ、僕も!」
自分だけ仲間はずれになってしまうと思ったのか、亜蘭さんも慌てて元気に言った。
家族は幸せを感じていた。でも、外に出ると異様なものを見るような目を向けられることが多かった。
「碧い瞳のバケモノ」
ある日、僕が亜蘭さんと母親と手を繋いで歩いていたとき、通り過ぎ様、そんなことを言われた。
「……っ」
「亜蘭、気にしないのよ」
むっとした顔で何かを言い返そうとした亜蘭さんを母親はなだめた。先生としての僕もじっと堪えていた。
船を表現しているのか、父親は手をすーっと畳の上に滑らせた。
僕らの生きている今の時代では他の国に行くのはとても簡単になったけれど、昔は船しかなくて、しかもその旅はとても危険で航海に出るのは命がけだったと図書館にあった本で読んだことがある。先生たちのお父さんたちはとても凄いことを成し遂げたんだ。
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少し離れた台所のような場所で母親が嬉しそうに笑う。
「俺もだ」
僕も笑った。
「ぼ、僕も!」
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「……っ」
「亜蘭、気にしないのよ」
むっとした顔で何かを言い返そうとした亜蘭さんを母親はなだめた。先生としての僕もじっと堪えていた。
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