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第3話 天邪鬼

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 布団を敷くために机を畳んでしまったので、僕はフロント横の休憩スペースで漢字のドリルを開いた。一瞬、小さい女の子が誰かと話をしている声が聞こえていたけれどそれ以外はクーラーも効いているし、静かになったし、快適だ。

「何してるの?」

 まだ一ページも終わらないところで後ろから声を掛けられ、僕はドリルから顔を上げる羽目になった。紗友さんだった。キリッとした切れ長の目が僕を見ている。

「学校の宿題ですけど」

 本当は邪魔してほしくなかったし、黙って宿題を進めたかったけれど無視をするのもどうかと思って僕は答えた。

「子供は良いわね、呑気で」

 僕の横に回ってきて紗友さんが鼻で笑う。

「代わりにやりますか?」

 ちょっとムッとして言ってしまった。宿題だって結構大変なんだぞ? 量も多いし、ズル出来ないし。

「生意気ね。それをやって天乃くんのそばに居られるのならやるわよ」

 僕とは違って、かなり落ち着いた様子で紗友さんは言った。それが大人との差を見せつけられた気がして、なんだか悔しくて僕は意地悪なことを言いたくなった。

「どうして天乃先生のことが好きなんですか?」

 こんな質問をされれば紗友さんだって慌てるだろうと思った。なのに

「いつも悲しそうだから」
「え?」
「そばに居てあげたくなるの」

 意外と簡単に答えてくれてびっくりした。聞いてどうするのか、というのは考えていなかった。もう言えることがない。そんな僕を見て、紗友さんはまた鼻で笑って「じゃ、宿題頑張って」と去っていってしまった。

 ――先生はいつも悲しそうだろうか?

 再び漢字のドリルと向き合いながら考えてみたけれど、僕には分からなかった。それで結局、僕が起きている間に先生たちは帰ってこなくて、僕は先に川の字に並んだ布団の左端に入って眠ってしまった。
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