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第2話 駄菓子化し
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しおりを挟む「そうだよ、兄さん。僕からのプレゼント受け取ってくれた?」
下に居る亜蘭と呼ばれた人は先生に向かってニコニコと手を振っている。いや、待てよ? 今、あの人は先生のことを兄さんと言った。ということは、あの人が透キヨさんの言っていた〝先生の弟さん〟?
「プレゼント?」
全然身に覚えがない、という風に先生が顔を顰めた。
「子供たちの苦しむ顔さ」
ニコニコと笑ったままで亜蘭さんは嬉しそうに言った。純粋無垢な笑顔と発言の内容が合っていない。笑っているのに彼の中には大きな闇がある気がした。
「悪商人のことも駄菓子化しのことも、お前だったのか!」
先生が下に向かって大声で怒鳴る。誰も他の病室から顔を出さないのは、クーラーを効かせるためにしっかりと窓とドアを閉めているからだろう。
「うん、嬉しかったでしょう? 笑ってよ、兄さん。また、二人で笑おうよ。兄さんのために、ずっと準備してきたんだよ?」
まるで自分のしたことが、すべて正しかったという風に亜蘭さんが声を弾ませる。この人は、僕のクラスメイトである遠藤を操って悪商人に遭遇させ、彼女の両目を奪った。それだけじゃなくて、人間である駄菓子屋のおじさんと悪いあやかしの駄菓子化しを結託させて子供たちから生気を奪った。たくさんの子供たちを苦しめたんだ。
「嬉しいわけないだろう! お前、自分が何をしたか分かってるのか!?」
怒った先生の顔は鬼のようだった。僕に怒ったのとは比べものにならない。心を見る能力を持っていない僕にも分かる。先生は本当に心の底から怒っているんだ。
「どうして……? 足りない。足りないんだね……!」
僕には分かったのに、亜蘭さんには分からなかったのだろうか、ショックを受けたような顔をして逃げるように駆け出していってしまった。
「待て、逃げるな!」
先生は病室を飛び出して亜蘭さんの後を急いで追ったけれど、下についたときにはもう姿はなかったそうだ。
「まさか、あいつの仕業だったなんて……」
病室に帰ってきた先生は悲しそうな顔をして呟いた。
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