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第2話 駄菓子化し
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◆ ◆ ◆
熱い日差しに身体が溶けそうになる。下校中の他の生徒たちに混ざって公園の横を通れば、セミの鳴き声がさらに大きく聞こえた。
放課後、まっすぐ家に帰るのはとても久しぶりのことだった。諸江に夜遊びを強要されることもなく、僕自身、悪いことに足を突っ込んでみたいと思うこともなくなったからだ。
今日、掃除のときに同じ班の田代さんや中野くんが話し掛けてくれた。「ごめんね、諸江が怖くて何も出来なかったんだ」と謝ってくれた。たったそれだけで僕の心はふっと軽くなった。明日、学校に行けば友達がいる。そう思えた。だから、一人の家に帰ってきても僕は全然寂しくなかった。
ピンポーン
まだ明るい夕方、ボロアパートの一階で窓を全開にして古ぼけた扇風機を回していると、急に呼び鈴を鳴らす音が部屋に響いた。おかしいな、と思う。部屋の前に誰かが来れば、台所の窓から足音が先に聞こえるはずだ。でも、今は誰かが部屋に近付いてくる気配がないまま呼び鈴が鳴った気がした。
「気のせいかな……?」
まあ、古いアパートだから呼び鈴も同じくらい古い。たまには誤作動してもおかしくはないだろう、と思って僕は一度無視した。
けれど、呼び鈴はまた鳴った。
「んー? はい、どなたですか?」
ピンポーンと音がして、僕は首をかしげながらも仕方なくドアを開けた。
「あれ?」
開けた先には誰もいなかった。ただ、こっちのアパートと同じような建物が向かいに建っているだけ。それはいつもと同じ光景だ。
――やっぱり呼び鈴がちょっとおかしいだけかな? それともいたずら?
不思議に思って、僕は試しに両手を前に出してみた。見えない何かが手に触れると思ったけれど、何もない。熱い空気をかき混ぜただけだった。
熱い日差しに身体が溶けそうになる。下校中の他の生徒たちに混ざって公園の横を通れば、セミの鳴き声がさらに大きく聞こえた。
放課後、まっすぐ家に帰るのはとても久しぶりのことだった。諸江に夜遊びを強要されることもなく、僕自身、悪いことに足を突っ込んでみたいと思うこともなくなったからだ。
今日、掃除のときに同じ班の田代さんや中野くんが話し掛けてくれた。「ごめんね、諸江が怖くて何も出来なかったんだ」と謝ってくれた。たったそれだけで僕の心はふっと軽くなった。明日、学校に行けば友達がいる。そう思えた。だから、一人の家に帰ってきても僕は全然寂しくなかった。
ピンポーン
まだ明るい夕方、ボロアパートの一階で窓を全開にして古ぼけた扇風機を回していると、急に呼び鈴を鳴らす音が部屋に響いた。おかしいな、と思う。部屋の前に誰かが来れば、台所の窓から足音が先に聞こえるはずだ。でも、今は誰かが部屋に近付いてくる気配がないまま呼び鈴が鳴った気がした。
「気のせいかな……?」
まあ、古いアパートだから呼び鈴も同じくらい古い。たまには誤作動してもおかしくはないだろう、と思って僕は一度無視した。
けれど、呼び鈴はまた鳴った。
「んー? はい、どなたですか?」
ピンポーンと音がして、僕は首をかしげながらも仕方なくドアを開けた。
「あれ?」
開けた先には誰もいなかった。ただ、こっちのアパートと同じような建物が向かいに建っているだけ。それはいつもと同じ光景だ。
――やっぱり呼び鈴がちょっとおかしいだけかな? それともいたずら?
不思議に思って、僕は試しに両手を前に出してみた。見えない何かが手に触れると思ったけれど、何もない。熱い空気をかき混ぜただけだった。
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