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第1話 悪商人
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◆ ◆ ◆
同じ週の金曜日の夜、先生は僕の住んでいるボロアパートにやってきた。週末になると僕の母親は住み込みで働いている旅館から一時的に帰ってくることがある。そんな母が帰ってきたタイミングを見計らって先生は話をしにきたのだ。
「智也くん、ちょっと成績が良くないんですよね」
先生は開口一番にそう言った。僕はとても恥ずかしかった。
「でも、先生、成績表では別に……」
僕の母親は不思議そうな、それでいて困ったような顔をしながら口をもごもごと動かした。実のところ、僕の成績はそれほど悪くはない。真ん中より少し上くらいだ。
「いえ、今ですね、リアルタイムで成績が下がってるんです。なので、私が直接学校以外でも智也くんに勉強を教えたくてですね。暫く、合宿をお許しいただけないかと思いまして」
さすが心を見るのが得意な先生の口からは、どんどん上手い言葉が出てくる。
「でも……」
母さんも戸惑いながら押され気味だ。
「お許しいただけますよね? 心配しないですよね?」
「はい。……あれ?」
母親はあっさり答えてしまっていた。
――先生、今能力使ったでしょう?
僕の視線を受けて、先生はなんの悪びれもなくニコッと笑った。
「ありがとうございます。お母様がおうちに帰って来られることがありましたら、智也くんに一時帰宅するように言いますので私にご連絡ください」
そう言って僕の母親と電話番号を交換し、先生は僕を外に連れ出した。
向かったのは、あのカーブミラーがある十字路で僕はまた警察署に行くのかと思った。でも、先生の合い言葉みたいなのが今度は少し変わっていた。
「魔境の鏡よ、悪しき者には制裁を、貧しき者には救済を」
カーブミラーを見上げながら先生が一度だけ唱えると鏡がキラッと光って僕の目の前がまぶしくなった。先生の声が聞こえてくる。
「ここがお前の新しい家だ。ようこそ、あやかしポリス寮ミスミ荘へ」
チカチカする視界の中に見えてきたのは薄暗闇に浮かび上がる黒くて大きな木造の洋館だった。
同じ週の金曜日の夜、先生は僕の住んでいるボロアパートにやってきた。週末になると僕の母親は住み込みで働いている旅館から一時的に帰ってくることがある。そんな母が帰ってきたタイミングを見計らって先生は話をしにきたのだ。
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先生は開口一番にそう言った。僕はとても恥ずかしかった。
「でも、先生、成績表では別に……」
僕の母親は不思議そうな、それでいて困ったような顔をしながら口をもごもごと動かした。実のところ、僕の成績はそれほど悪くはない。真ん中より少し上くらいだ。
「いえ、今ですね、リアルタイムで成績が下がってるんです。なので、私が直接学校以外でも智也くんに勉強を教えたくてですね。暫く、合宿をお許しいただけないかと思いまして」
さすが心を見るのが得意な先生の口からは、どんどん上手い言葉が出てくる。
「でも……」
母さんも戸惑いながら押され気味だ。
「お許しいただけますよね? 心配しないですよね?」
「はい。……あれ?」
母親はあっさり答えてしまっていた。
――先生、今能力使ったでしょう?
僕の視線を受けて、先生はなんの悪びれもなくニコッと笑った。
「ありがとうございます。お母様がおうちに帰って来られることがありましたら、智也くんに一時帰宅するように言いますので私にご連絡ください」
そう言って僕の母親と電話番号を交換し、先生は僕を外に連れ出した。
向かったのは、あのカーブミラーがある十字路で僕はまた警察署に行くのかと思った。でも、先生の合い言葉みたいなのが今度は少し変わっていた。
「魔境の鏡よ、悪しき者には制裁を、貧しき者には救済を」
カーブミラーを見上げながら先生が一度だけ唱えると鏡がキラッと光って僕の目の前がまぶしくなった。先生の声が聞こえてくる。
「ここがお前の新しい家だ。ようこそ、あやかしポリス寮ミスミ荘へ」
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