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第1話 悪商人
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◆ ◆ ◆
次の日の放課後、僕は天乃先生から屋上に呼び出された。
「さて、取引といこうか」
いつもは解錠されていない扉を開けて僕が屋上に出た瞬間、先生の声が上の方から聞こえてきた。そして、トンっという音と共に先生は僕の隣に着地し、ニヤリと笑った。どうやら先生は出入り口の上に立って僕を待っていたようだ。昨夜と違って黒い警察官の制服ではなく、グレーのスーツを着ている。
「取引ってなんですか?」
思わず分かりやすく嫌そうな顔をしてしまう。そんな僕の前に出てきて、先生は僕の肩を両手でがしっと掴み、口を開いた。
「俺がお前を一人にしないと約束するから、お前は俺を手伝え。お前の能力は使える」
一瞬、僕の目は点になった。そして、自然とため息が出た。
「またそれですか、大きなお世話です」
先生の腕を両手で払いのけて僕は後ろを向いた。屋上から中に戻ろうとしたのだ。
僕はもう大丈夫だし、先生は僕の能力が欲しいだけじゃないか。
「新海~、助けてやったじゃないか~」
すがりつくように後ろから先生に抱きつかれて、柔道の授業をもっとちゃんと受けておけば良かったと僕は頭の中で考えた。そうすれば先生を背負い投げで投げられたのに、と。
「めちゃくちゃ卑怯じゃないですか」
――良い大人だと思ったのに、結局、悪いあやかしをたくさん捕まえてお金をもらいたいだけじゃないですか。
「そんなこと言うなよ。毎日楽しいぞ?」
「先生、危ないところには近付くなって言ったじゃないですか。それなのに、僕に手伝わせるんですか?」
「それは俺がいないときは、って意味だ」
――呆れた。この人、大人なのにとても屁理屈を言うじゃないか。
「はぁ……」
僕がまた深くため息を吐くと視界がくるりと後ろを向いた。先生が無理矢理、僕の身体を自分の方に向けたのだ。僕の視界に先生の顔が映り込む。
「俺がいればお前を守ってやれる」
先生は笑っていなかった。とても真剣な表情をして僕を見ていた。思わず、自分がムッとしていたことを忘れてしまう。
「……じゃあ、僕が気になってること教えてもらえますか?」
ずっと気になっていることがあって落ち着かなかったのだ。それを解消してくれれば、先生との取引を考えなくもない。少なくとも今の先生はふざけていないみたいだから。
次の日の放課後、僕は天乃先生から屋上に呼び出された。
「さて、取引といこうか」
いつもは解錠されていない扉を開けて僕が屋上に出た瞬間、先生の声が上の方から聞こえてきた。そして、トンっという音と共に先生は僕の隣に着地し、ニヤリと笑った。どうやら先生は出入り口の上に立って僕を待っていたようだ。昨夜と違って黒い警察官の制服ではなく、グレーのスーツを着ている。
「取引ってなんですか?」
思わず分かりやすく嫌そうな顔をしてしまう。そんな僕の前に出てきて、先生は僕の肩を両手でがしっと掴み、口を開いた。
「俺がお前を一人にしないと約束するから、お前は俺を手伝え。お前の能力は使える」
一瞬、僕の目は点になった。そして、自然とため息が出た。
「またそれですか、大きなお世話です」
先生の腕を両手で払いのけて僕は後ろを向いた。屋上から中に戻ろうとしたのだ。
僕はもう大丈夫だし、先生は僕の能力が欲しいだけじゃないか。
「新海~、助けてやったじゃないか~」
すがりつくように後ろから先生に抱きつかれて、柔道の授業をもっとちゃんと受けておけば良かったと僕は頭の中で考えた。そうすれば先生を背負い投げで投げられたのに、と。
「めちゃくちゃ卑怯じゃないですか」
――良い大人だと思ったのに、結局、悪いあやかしをたくさん捕まえてお金をもらいたいだけじゃないですか。
「そんなこと言うなよ。毎日楽しいぞ?」
「先生、危ないところには近付くなって言ったじゃないですか。それなのに、僕に手伝わせるんですか?」
「それは俺がいないときは、って意味だ」
――呆れた。この人、大人なのにとても屁理屈を言うじゃないか。
「はぁ……」
僕がまた深くため息を吐くと視界がくるりと後ろを向いた。先生が無理矢理、僕の身体を自分の方に向けたのだ。僕の視界に先生の顔が映り込む。
「俺がいればお前を守ってやれる」
先生は笑っていなかった。とても真剣な表情をして僕を見ていた。思わず、自分がムッとしていたことを忘れてしまう。
「……じゃあ、僕が気になってること教えてもらえますか?」
ずっと気になっていることがあって落ち着かなかったのだ。それを解消してくれれば、先生との取引を考えなくもない。少なくとも今の先生はふざけていないみたいだから。
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