16 / 87
第1話 悪商人
16
しおりを挟む
「見てない。見てないのに……っ」
僕は泣きそうになった。先生の未来は見てなかったのに、警察署でふざけて言ったことが本当のことになってしまった。僕と諸江がそうさせてしまったんだ。
「この馬鹿! 危ないところには近付くなって言っただろうが!」
「っ……!」
大きな声を出されてびくりと身体が跳ねる。
「ごめ、ごめんなさい……」
ポロポロと涙を流しながら僕は先生に謝った。
「諸江に無理矢理連れて来られたのは分かってる。でもな、お前も孤独から逃れるためにわざと自分から来たんだろう? 心が見えなくても俺には分かるぞ?」
「どうして……」
そうだ。その通りだ。僕は一人が嫌だった。家でも学校でも孤独で、いじめっ子にいじめられる日々。危ないことをすれば誰かが気にして構ってくれると思ったんだ。
「悪いあやかしがいるってお前には俺が直接教えただろう? それにもかかわらず、お前はここに来た。みんなにも朝礼で妖怪やバケモノは本当に存在すると教えたが、他の奴らはここに来なかっただろう? 逃げただろう? みんなそうなると思ったんだよ。なのに諸江とお前は……」
あれは先生の作戦だったのか。悪いあやかしのいる場所に生徒たちを近付けさせないために、わざと「本当に妖怪やバケモノは存在する」という新たな噂を僕ら生徒たちの前で作ったんだ。
「まったく……、心配したんだぞ?」
先生は深く息を吐いて僕の顔を覗き込んできた。その表情は本当に僕を心配してくれていたみたいで、とても温かくて申し訳なくなった。
「ごめんなさい……っ」
僕はまた泣きながら謝った。
大人にこんなに真剣に怒られたのも、こんなに真剣に心配してもらったのも久しぶりだった。
「大丈夫、お前は一人じゃないよ」
薄暗い廃工場で先生にもらった言葉は、とても明るく光っていた。
僕は泣きそうになった。先生の未来は見てなかったのに、警察署でふざけて言ったことが本当のことになってしまった。僕と諸江がそうさせてしまったんだ。
「この馬鹿! 危ないところには近付くなって言っただろうが!」
「っ……!」
大きな声を出されてびくりと身体が跳ねる。
「ごめ、ごめんなさい……」
ポロポロと涙を流しながら僕は先生に謝った。
「諸江に無理矢理連れて来られたのは分かってる。でもな、お前も孤独から逃れるためにわざと自分から来たんだろう? 心が見えなくても俺には分かるぞ?」
「どうして……」
そうだ。その通りだ。僕は一人が嫌だった。家でも学校でも孤独で、いじめっ子にいじめられる日々。危ないことをすれば誰かが気にして構ってくれると思ったんだ。
「悪いあやかしがいるってお前には俺が直接教えただろう? それにもかかわらず、お前はここに来た。みんなにも朝礼で妖怪やバケモノは本当に存在すると教えたが、他の奴らはここに来なかっただろう? 逃げただろう? みんなそうなると思ったんだよ。なのに諸江とお前は……」
あれは先生の作戦だったのか。悪いあやかしのいる場所に生徒たちを近付けさせないために、わざと「本当に妖怪やバケモノは存在する」という新たな噂を僕ら生徒たちの前で作ったんだ。
「まったく……、心配したんだぞ?」
先生は深く息を吐いて僕の顔を覗き込んできた。その表情は本当に僕を心配してくれていたみたいで、とても温かくて申し訳なくなった。
「ごめんなさい……っ」
僕はまた泣きながら謝った。
大人にこんなに真剣に怒られたのも、こんなに真剣に心配してもらったのも久しぶりだった。
「大丈夫、お前は一人じゃないよ」
薄暗い廃工場で先生にもらった言葉は、とても明るく光っていた。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説





サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる