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第1話 悪商人
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「秘密。恋愛以外はないのか?」
さらっとスルーして先生がそう言うと、上がっていた手の半分が下に下がった。今度は残った手の中から選んでいく。
「水野」
窓際の一番前に座る水野さんが選ばれた。
「兄弟姉妹はいますか?」
「弟が一人〝 〟」
一人、という言葉の後になんだか違和感のある空白があった気がした。それに気が付いたのは僕だけだろうか?
「最後だ。吉川」
最後に選ばれたのは男子だった。女子たちから、ちょっとがっかりした雰囲気が漂う。
「先生、妖怪って本当に存在しますか? バケモノとか」
意外な質問にみんなの視線が一気に先生に注がれた。僕を除いて、みんなが気になっているのだろう。僕だけは先生の正体を知っている。あやかしは存在する。
「存在するぞ。この教室にも妖怪がいる。今から、その証拠を見せよう」
——まさか、みんなに正体を明かしてしまうの?
僕の心臓はバクバクと暴れ始めた。
あやかしだとバレたら先生は教師を続けにくくなるんじゃないだろうか? 変な人が先生を探しに来て、研究所に連れて行ってしまうのかも。拘束具の付いた診察ベッドに寝かされる先生の姿が脳裏に浮かぶ。
「掃除用ロッカーに注目だ」
先生の言葉につられるようにみんなの視線が、今度は教室の後ろにある灰色の掃除用ロッカーに移動する。みんながジッと見つめること三秒……
「うわっ!」
急にロッカーがガタガタ左右に揺れ出して、誰かがびっくりして声を上げた。すかさず先生が廊下側の通路を通ってロッカーに近付く。
「ほれ!」
そう言って、先生はロッカーを勢いよく開けた。でも、中には誰もいなくて、薄汚い掃除用具が入っているだけだった。
「もうこの掃除用具入れは大丈夫だが、妖怪は存在する。危ないところには近付いたりするなよ? 何かあったら俺に相談すること」
しっかりロッカーの扉を閉め直して、先生は教壇に戻ってきた。生徒たちの視線は不可思議なことを起こす先生に釘付けだった。ただ、諸江と僕を除いては。
さらっとスルーして先生がそう言うと、上がっていた手の半分が下に下がった。今度は残った手の中から選んでいく。
「水野」
窓際の一番前に座る水野さんが選ばれた。
「兄弟姉妹はいますか?」
「弟が一人〝 〟」
一人、という言葉の後になんだか違和感のある空白があった気がした。それに気が付いたのは僕だけだろうか?
「最後だ。吉川」
最後に選ばれたのは男子だった。女子たちから、ちょっとがっかりした雰囲気が漂う。
「先生、妖怪って本当に存在しますか? バケモノとか」
意外な質問にみんなの視線が一気に先生に注がれた。僕を除いて、みんなが気になっているのだろう。僕だけは先生の正体を知っている。あやかしは存在する。
「存在するぞ。この教室にも妖怪がいる。今から、その証拠を見せよう」
——まさか、みんなに正体を明かしてしまうの?
僕の心臓はバクバクと暴れ始めた。
あやかしだとバレたら先生は教師を続けにくくなるんじゃないだろうか? 変な人が先生を探しに来て、研究所に連れて行ってしまうのかも。拘束具の付いた診察ベッドに寝かされる先生の姿が脳裏に浮かぶ。
「掃除用ロッカーに注目だ」
先生の言葉につられるようにみんなの視線が、今度は教室の後ろにある灰色の掃除用ロッカーに移動する。みんながジッと見つめること三秒……
「うわっ!」
急にロッカーがガタガタ左右に揺れ出して、誰かがびっくりして声を上げた。すかさず先生が廊下側の通路を通ってロッカーに近付く。
「ほれ!」
そう言って、先生はロッカーを勢いよく開けた。でも、中には誰もいなくて、薄汚い掃除用具が入っているだけだった。
「もうこの掃除用具入れは大丈夫だが、妖怪は存在する。危ないところには近付いたりするなよ? 何かあったら俺に相談すること」
しっかりロッカーの扉を閉め直して、先生は教壇に戻ってきた。生徒たちの視線は不可思議なことを起こす先生に釘付けだった。ただ、諸江と僕を除いては。
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