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春の思い出

高校三年 春

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何時間眠ったんだろう。




目を醒まして窓に目をやると外が暗く、夕方以降であることは間違いないなと思った。



ふと俺のベッドに誰か肘をついて眠っている人影が見えた。



あれ?姉貴帰ったんじゃ…



いや、違う…



「えっ…」




あ、哀沢くん!?




待って待って待って待って…



なんで…なんでここにいるの!?



いつから?
いま何時?



時計を見ると18時だった。



起こした方がいいのかなぁ…



久しぶりに見る哀沢くんはやっぱりかっこよくて、ずっと見ていたいと思った。



そういや部屋乾燥してるんだよね。



飲み物買ってきてあげようかな。




ちょうど夕食の時間だし、部屋で食べないで食堂で食べてからついでに夜の検温をして部屋に戻ろう。



せっかく寝てるのに起こしたら悪いもんね。



てか哀沢くん寝起き悪いし。



俺は哀沢くんを起こさないように、哀沢くんが寝てる反対側からベッドを降りて部屋を出た。



面会名簿を確認すると、哀沢くんは13時頃ここに来ていたらしい。



え?5時間も俺を起こさずいたの?



申し訳ないなぁ。


姉貴が連絡したのかな?




俺は食堂に夕食を運んでもらって、夜の検温報告して、ジュースを買って部屋に戻った。



部屋のドアを開けると、哀沢くんが起きたばかりだった。




「あ!哀沢くん起こしちゃった?」




振り返った哀沢くんは俺を見て驚いていた。




「起きたら哀沢くんが寝ててびっくりしたよ。面会名簿見てきたら13時ぐらいに来てたんだね。俺その前までは起きてたんだけど寝ちゃったんだ」



いつも通りの俺みたいに、明るく話した。



ちょっと気まずくて、俺は哀沢くんに近づかずドアの傍で会話を続けた。



すると哀沢くんはこっちに駆け寄り、近づいてきた。



「起こしてくれてよかったのに。哀沢くんの好きなコーラ売り切れてたからココアでもい…」




俺の言葉を遮り、大きな腕で抱きしめる。




力が抜けて床にジュースが落ち、部屋にその音が響いた。





「哀沢くん…?」




沈黙が続いた。




哀沢くんが俺を抱き締める力は変わらない。



どうしたんだろう。



落ち着くなぁ哀沢くんの胸の中。





でもさ、




「俺ね、別に死んでもよかったんだ…」




俺は諦めなきゃいけないんだよね。




「死ぬ前に哀沢くんに抱いてもらえたから。それだけで満足だったから後悔してない」




俺の発言に少し驚いたのか、哀沢くんの力が緩んだ。




昔から死んでもいいって思ってた。



人生退屈だって。



でも…


「でも…今日哀沢くん見ちゃったら、やっぱりダメだぁ。まだ好きだから苦しい」




今は生きて哀沢くんの傍にいたい。




あーあ、




せっかく忘れられそうだと思ったのに。



全然ダメじゃん、涙止まんない。



めんどくさいやつだって嫌われちゃうよ。



「だから放して。頑張って諦めるから。哀沢くんのこと。これ以上好きにさせないで」




俺は哀沢くんの腕から無理やり抜けようと抵抗したけど、哀沢くんは放してくれなかった。







「放したくねぇんだよ」





俺が予想してなかった言葉が返ってきた。






「山田…そのまま黙って俺の話を聞いてくれ」





そして哀沢くんは自分の過去を全て話し始めた。






















「雅彦って…あの有名なモデルの三科雅彦?射殺された?」



「そうだ」






俺と出会った頃にはもう三科雅彦のことが好きだったんだ。




「俺はあいつが死んでからもう誰も好きにならないって誓ったんだ」




そりゃ、そんな過去があったらもう恋愛なんてしたくないって思うかも。



本当に好きだったんだね…彼のこと。




俺はそんな一途な哀沢くんも好き。





「山田がいなくなるかもしれないと思ったら不安で仕方なかった。あいつを失った時の感情と似ている気がした」




そんなこと言って貰えるなんて、生きててよかった。



死ななくてよかった。



「もしまだ山田が俺のことを好きなら、俺のこの気持ちが恋なのかどうか証明するために一緒にいて欲しい」



全然大好きだよ。



これからも好きでいていいなんて、嬉しすぎる。



「俺もちゃんと向き合う。時間かけて、もしこれが恋なんだと気付いたら、その時は山田に告白する。…さすがに身勝手か?」



哀沢くんに好きになってもらえれば、告白してもらって付き合えるってこと!?



そんなの身勝手じゃなくて、むしろ光栄なんだけど…




「じゃあ、お付き合いの仮契約ってことでいい?俺は好きでいていいんだし、哀沢くんが俺を好きになってくれたら、正式に付き合おうね!」



嬉しくて哀沢くんの肩にぎゅうっと腕を回して抱きしめた。



嬉しい、嬉しすぎる。



「もう、めっちゃお金かけて惚れ薬とか開発して好きになってもらう」



「結局金かよ…」




まだ好きでいてもいいなんて。



幸せ。




「じゃあまた、学校でな」



そう言って哀沢くんは病室を出ていった。



俺はしばらくニヤニヤが止まらず、早く退院したくて荷物をまとめ始めた。



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