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08 共闘作戦!?

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 明里が『軽く』用意したのは三百グラムほどのパスタだった。
 自家製らしいミートソースにマッシュルームとピーマンとトマトを加えたもので、麺は二ミリを超える太いものだった。
 結局昇も少量を茹でてもらい、明里と一緒にテレビ近くのテーブルでの夜食となった。
 明里は火照った体を大きなロングTシャツで包み、左右に括っていた髪は解いてバスタオルで巻いて、頭の上に乗せている。
 エリーが持っていた端末を操作し、テレビに状況を映し出す。日本地図――関東近辺が拡大表示され、昇も明里も画面に視線を移す。
「さっき、調べてみたわ」
 フォークを動かしながら聞く二人に、エリーが話す。
「浅賀くるみ、こと『アルブム・スクミィ』が占有したエリア――ポイントが現在これだけあるわ」
 白い光点が六個、点灯する。
「もうこんなに!? だって、まだ二日でしょ?」
「昇のが、ここ」
 明里の驚きには答えず、エリーは続ける。
 地図上に黄色の光点が三個灯る。
「チアリィ――明里さんのが、これだけね」
 オレンジの光が四点、地図上に点く。
 合計十三個の光点はそれぞれ、近かった。
 特に白いものは昇の黄点を囲むような位置に、線を描いている。
「なるほど――スクミィを狙っていることが容易に想像できるな」
 ヒューが頷く。「明里のエリアを奪ったのも、そのためだろう。明里――」
「怒るよ、ヒュー」
 明里がフォークの先をヒューに向け、ヒューは黙る。
 明里の皿はほぼ空になっていた。
「これから、あの子がどこに行くか、よね」
 昇と明里の最後の一口は、ほぼ同時だった。
 明里が皿を引き上げ、水で簡単に流してからテーブルに戻る。ウェットティッシュで口を拭き、それを昇にも勧めた。
「ふたつ、考えられるわ」
 エリーが言う。
「アルブム・スクミィの狙いが『昇のエリアの包囲』なら、次に狙いそうなポイントへ行って待ち伏せするのがひとつ。
 もうひとつは、占有エリアへ攻め込み、防衛に来るだろう彼女を迎え撃つか」
「――どっちもどっちね」
 薄い色のリップスティックを塗りながら、明里は画面の光点を片目を閉じて追っていた。
「ひとつめは、ポイントが二箇所以上あるから待ち伏せが空振りになるかも。
 ふたつめは、防衛に来ないかも知れないし、さっき昇くんがしてた『塞護措置』済みかも」
 昇は眼鏡を直して明里を見る。
「意外? これでも高校生だよ、ちょっとは考えるって」
 明里はそう言って、昇の唇にもリップスティックを付ける。
「昇くんはどうする?」
「んもっ……ぼ、僕は」
 リップスティックを塗られて、ややオレンジピンク気味の艶をまとった唇を昇は舐める。
「僕は――攻める方がいいと思う……思います」
 昇は、ためらいがちに言った。
「魔力を弱くしたら、浅賀さんが正気に戻るかも知れない――から」
 それで、と三人の注目をあびて昇はやや焦りを見せつつ続ける。
「もし『塞護措置』されてたら他の所に行くか、待ち伏せに切り替える、とか……。エリーはポイントの場所、判るんだよね?」
 エリーが「まあ、ね」と頷くのを見て、明里も首を縦に振る。
「ま、それが妥当なところよね。どこに行くか、手分けするかはともかくとして――」
 明里はそこで、昇に膝がつく場所まで近寄る。
 風呂上がりの熱気の残りと、リンスと明里の体から生まれる甘さのある香りが昇の鼻腔をくすぐり、昇の鼓動と頬の赤みを一瞬で高めた。
「の・ぼ・る、くん――いや、のぞみちゃん、あたしはのぞみちゃんの事が聞きたいなぁ」
 猫のように体を柔らかく曲げ、昇を見上げる位置から明里が言う。
「あたし『女の子モード』ののぞみちゃんと話したいなぁ」
 昇は頬をひくひくと震わせて、笑顔とも狼狽ともとれる表情を見せていた。
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