2 / 30
01 魔法少女!?
1-2
しおりを挟む
「えっ?」
その渦の中心から、モコモコとした何かが出てこようとしていた。
昇は距離を取ろうと一歩下がるが、反対側の壁がそれを阻む。昇が見ている内にその何かはじわじわと姿を現してきた。
ぽっよよん、としか形容のしようがない音を響かせて、どこか不格好な縫いぐるみのような姿が露わになった。淡い栗色の、丸い頭部に左右に垂れるゆるやかに波打った耳と、同じく丸い胴体には短い手足と尻尾が付いている。
胴体はやや濃い橙の、ハート形の模様が描かれていた。
その空中に浮かぶ縫いぐるみの背後で、壁が元通りの様相に戻る。
縫いぐるみは昇の姿を見て口を開いた。
やや高い、若い女性の声が縫いぐるみから発せられる。
「完っ璧じゃない! やっぱり、私の見立ては間違っていなかったようねっ。ねえ、あなたには少しの間悪いけど、私の手伝いをしてほしいのよ。もちろん報酬はあるし、あなたの資質が私の見込んだ通りならきっと大丈夫よ!」
そこまで言って、ゆるゆると高度を下げながら続ける。
「それにそのスーツには女の子らしくなる手助けをする機能を付けてるわ。だからまだまだなその胸も、腰も――」
早口気味に、昇が口を挟む間を与えずに喋り続けていたのがぴたりと止まる。
縫いぐるみの目が、昇の股間を凝視していた。
「って、えええっ? あなた男!? まさか浅賀くるみ――じゃない、わよね?」
と、昇を見上げて訝しげに言う。
昇は呆気にとられた表情で頷いて、フルネームを告げた。
「比嘉、昇だけど……あの、君は? これは一体、何? 君がやったの?」
縫いぐるみは便座の蓋に降り立つと、昇の全身を何度も見回して短い腕を組んだ。
「一度に訊かないのっ」
やや怒りを滲ませた声で言う勢いに、昇は気圧されて「ご、ごめんなさい……」と呟く。
「びっくりするわよ、もう。私の調査が間違ってたのかと思ったじゃない。
私は……そうね、ローズマリー・エリノーラ・テリーサ・アンジェリア・ウォーキンショー」
「……え?」
「仮名よ。私たちの発音じゃ通じないって解ってるからね。
――エリーでいいわ」
そう名乗った縫いぐるみ――エリーは、昇をじとりと睨み上げたまま、それでも口調はやや軽くなってきていた。
「それで、昇だったっけ? どうして君がそれを装着してるの?」
「え、あっ、いや、それはその――ぐ、偶然」
エリーに相変わらず圧される格好の昇はどもりながら答える。
「偶然~?」
エリーは昇の姿を子細に観続けていた。
「ちょっ……そんな、見ないでよ」
「あのねぇ、そのスーツは私が浅賀くるみに、って用意したものなのよ? もともと私のものなわけ。わかる?」
昇はおずおずと頷いて、自分の身にまとっているものを見直す。
「じゃあこれ、浅賀さんのじゃないんだ……」
と、落胆の色を瞳に浮かべながら赤面するのを見てエリーが何か得心したようなにやりとした笑みを浮かべた。
「ほほ~ぉ、君は浅賀くるみの物だと思って、こんな所に持ち出してきたんだ。
何するつもりだったのかなぁ? そんなところ大きくして」
そこで言葉を切り、たっぷりと溜めた上でぼそりと言う。
「ヘンタイ」
「ちっ、ちがあぁぁぁ……っ」
昇は杖を支えにして崩れ落ちそうになるところを踏みとどまった。
言い放ったエリーはしかしそこで冷静な調子になり、
「ま、いいわ。しちゃったものはもう仕方ないしね」
と昇に向かってにっこりと微笑んで見せた。
「じゃあ昇、君が私の『協力者』になって戦ってね」
買い物の手伝いを誘うように軽く、さらっと言う。
「た、戦う、って……?」
昇の質問には答えず、エリーは背後を振り返る。
「早速来たようね。
ま、そのためにこっちも用意してたんだし」
エリーは鋭さを増した空気で昇を促す。
「さ、行くわよっ。やり方はそこで教えてあげるわ」
そう言ってふわりと浮くと、エリーは無造作に個室の扉を開けてトイレの奥へ向かった。
「ちょ、ちょっと待って……この格好で行く、の?」
昇は個室から顔だけ出して言う。
奥にある窓を目指して飛んでいたエリーは昇に向き直って声を荒げた。
「当ったり前でしょ。早く来てよ!
それとも何? 動けないの?」
「だってこんな、女子の……」
ぼそぼそと小声になる。エリーは昇のもとに戻り、白手袋の腕を引いた。
「大丈夫、女の子に見えるわっ」
「そういう問題じゃなくって……」
エリーに、この縫いぐるみのような体のどこから出ているのか不思議なくらいの力で引っ張られ、昇はまろびそうになるのを杖で補って進む。
「あ、あの、僕の荷物は? 服は消えちゃってるし……」
「あーもう、面倒くさいなあ。後で説明してあげるからとにかくついて来なさい、変態少年!」
「へ、変態じゃないよぉ」
トイレの窓を開け放ったエリーが外へ飛び出した。
腕を取られたままの昇も窓の外――三階の高さの空中に出さされる。
昇はただ落ちる感覚に、声を上げていた。
「ぅわあああぁぁぁっ!!!」
その渦の中心から、モコモコとした何かが出てこようとしていた。
昇は距離を取ろうと一歩下がるが、反対側の壁がそれを阻む。昇が見ている内にその何かはじわじわと姿を現してきた。
ぽっよよん、としか形容のしようがない音を響かせて、どこか不格好な縫いぐるみのような姿が露わになった。淡い栗色の、丸い頭部に左右に垂れるゆるやかに波打った耳と、同じく丸い胴体には短い手足と尻尾が付いている。
胴体はやや濃い橙の、ハート形の模様が描かれていた。
その空中に浮かぶ縫いぐるみの背後で、壁が元通りの様相に戻る。
縫いぐるみは昇の姿を見て口を開いた。
やや高い、若い女性の声が縫いぐるみから発せられる。
「完っ璧じゃない! やっぱり、私の見立ては間違っていなかったようねっ。ねえ、あなたには少しの間悪いけど、私の手伝いをしてほしいのよ。もちろん報酬はあるし、あなたの資質が私の見込んだ通りならきっと大丈夫よ!」
そこまで言って、ゆるゆると高度を下げながら続ける。
「それにそのスーツには女の子らしくなる手助けをする機能を付けてるわ。だからまだまだなその胸も、腰も――」
早口気味に、昇が口を挟む間を与えずに喋り続けていたのがぴたりと止まる。
縫いぐるみの目が、昇の股間を凝視していた。
「って、えええっ? あなた男!? まさか浅賀くるみ――じゃない、わよね?」
と、昇を見上げて訝しげに言う。
昇は呆気にとられた表情で頷いて、フルネームを告げた。
「比嘉、昇だけど……あの、君は? これは一体、何? 君がやったの?」
縫いぐるみは便座の蓋に降り立つと、昇の全身を何度も見回して短い腕を組んだ。
「一度に訊かないのっ」
やや怒りを滲ませた声で言う勢いに、昇は気圧されて「ご、ごめんなさい……」と呟く。
「びっくりするわよ、もう。私の調査が間違ってたのかと思ったじゃない。
私は……そうね、ローズマリー・エリノーラ・テリーサ・アンジェリア・ウォーキンショー」
「……え?」
「仮名よ。私たちの発音じゃ通じないって解ってるからね。
――エリーでいいわ」
そう名乗った縫いぐるみ――エリーは、昇をじとりと睨み上げたまま、それでも口調はやや軽くなってきていた。
「それで、昇だったっけ? どうして君がそれを装着してるの?」
「え、あっ、いや、それはその――ぐ、偶然」
エリーに相変わらず圧される格好の昇はどもりながら答える。
「偶然~?」
エリーは昇の姿を子細に観続けていた。
「ちょっ……そんな、見ないでよ」
「あのねぇ、そのスーツは私が浅賀くるみに、って用意したものなのよ? もともと私のものなわけ。わかる?」
昇はおずおずと頷いて、自分の身にまとっているものを見直す。
「じゃあこれ、浅賀さんのじゃないんだ……」
と、落胆の色を瞳に浮かべながら赤面するのを見てエリーが何か得心したようなにやりとした笑みを浮かべた。
「ほほ~ぉ、君は浅賀くるみの物だと思って、こんな所に持ち出してきたんだ。
何するつもりだったのかなぁ? そんなところ大きくして」
そこで言葉を切り、たっぷりと溜めた上でぼそりと言う。
「ヘンタイ」
「ちっ、ちがあぁぁぁ……っ」
昇は杖を支えにして崩れ落ちそうになるところを踏みとどまった。
言い放ったエリーはしかしそこで冷静な調子になり、
「ま、いいわ。しちゃったものはもう仕方ないしね」
と昇に向かってにっこりと微笑んで見せた。
「じゃあ昇、君が私の『協力者』になって戦ってね」
買い物の手伝いを誘うように軽く、さらっと言う。
「た、戦う、って……?」
昇の質問には答えず、エリーは背後を振り返る。
「早速来たようね。
ま、そのためにこっちも用意してたんだし」
エリーは鋭さを増した空気で昇を促す。
「さ、行くわよっ。やり方はそこで教えてあげるわ」
そう言ってふわりと浮くと、エリーは無造作に個室の扉を開けてトイレの奥へ向かった。
「ちょ、ちょっと待って……この格好で行く、の?」
昇は個室から顔だけ出して言う。
奥にある窓を目指して飛んでいたエリーは昇に向き直って声を荒げた。
「当ったり前でしょ。早く来てよ!
それとも何? 動けないの?」
「だってこんな、女子の……」
ぼそぼそと小声になる。エリーは昇のもとに戻り、白手袋の腕を引いた。
「大丈夫、女の子に見えるわっ」
「そういう問題じゃなくって……」
エリーに、この縫いぐるみのような体のどこから出ているのか不思議なくらいの力で引っ張られ、昇はまろびそうになるのを杖で補って進む。
「あ、あの、僕の荷物は? 服は消えちゃってるし……」
「あーもう、面倒くさいなあ。後で説明してあげるからとにかくついて来なさい、変態少年!」
「へ、変態じゃないよぉ」
トイレの窓を開け放ったエリーが外へ飛び出した。
腕を取られたままの昇も窓の外――三階の高さの空中に出さされる。
昇はただ落ちる感覚に、声を上げていた。
「ぅわあああぁぁぁっ!!!」
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男
湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。
何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。
お兄ちゃんは今日からいもうと!
沼米 さくら
ライト文芸
大倉京介、十八歳、高卒。女子小学生始めました。
親の再婚で新しくできた妹。けれど、彼女のせいで僕は、体はそのまま、他者から「女子小学生」と認識されるようになってしまった。
トイレに行けないからおもらししちゃったり、おむつをさせられたり、友達を作ったり。
身の回りで少しずつ不可思議な出来事が巻き起こっていくなか、僕は少女に染まっていく。
果たして男に戻る日はやってくるのだろうか。
強制女児女装万歳。
毎週木曜と日曜更新です。
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
二十歳の同人女子と十七歳の女装男子
クナリ
恋愛
同人誌でマンガを描いている三織は、二十歳の大学生。
ある日、一人の男子高校生と出会い、危ないところを助けられる。
後日、友人と一緒にある女装コンカフェに行ってみると、そこにはあの男子高校生、壮弥が女装して働いていた。
しかも彼は、三織のマンガのファンだという。
思わぬ出会いをした同人作家と読者だったが、三織を大切にしながら世話を焼いてくれる壮弥に、「女装していても男は男。安全のため、警戒を緩めてはいけません」と忠告されつつも、だんだんと三織は心を惹かれていく。
自己評価の低い三織は、壮弥の迷惑になるからと具体的な行動まではなかなか起こせずにいたが、やがて二人の関係はただの作家と読者のものとは変わっていった。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
☆男女逆転パラレルワールド
みさお
恋愛
この世界は、ちょっとおかしい。いつのまにか、僕は男女が逆転した世界に来てしまったのだ。
でも今では、だいぶ慣れてきた。スカートだってスースーするのが、気になって仕方なかったのに、今ではズボンより落ち着く。服や下着も、カワイイものに目がいくようになった。
今では、女子の学ランや男子のセーラー服がむしろ自然に感じるようになった。
女子が学ランを着ているとカッコイイし、男子のセーラー服もカワイイ。
可愛いミニスカの男子なんか、同性でも見取れてしまう。
タイトスカートにハイヒール。
この世界での社会人男性の一般的な姿だが、これも最近では違和感を感じなくなってきた。
ミニスカや、ワンピース水着の男性アイドルも、カワイイ。
ドラマ やCM も、カッコイイ女子とカワイイ男子の組み合わせがほとんどだ。
僕は身も心も、この逆転世界になじんでいく・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる