6 / 30
02 接近遭遇!?
2-3
しおりを挟む
昇の自転車はごく普通のシティサイクルであるため山道を登るには難しく、また昇自身も体力や運動能力が秀でているわけでもないため、展望広場まで途中から結局自転車を押して歩くことになっていた。
前カゴにおさまったエリーが「ほぉら、変身した方が早かったんじゃないのぉ」と小声で文句を言っているのを無視して、昇が夕刻訪れた祠につながっている展望スペースへと到着したのは、マンションを出てから二十分後のことだった。
照明は変わらず灯っているものの、昇たちの他に人の姿はない。
「間に合ったようね。さ、変身して」
自転車のカゴから、エリーが指示する。
「どうしても?」
「杖を起動させる必要があるのよ。ほら、早く」
そこまで促され、昇はそれでも渋々といった様子でポケットから石を取り出す。
「す……スクミィ・マナ・チャーム・アレイング……っ」
おずおずと昇がそう言うと、石が澄んだ水面のような輝きを放ちはじめた。
昇が驚いた様子で石から手を離すが、石はふわりと浮いて更にその蒼光を強くする。
色味を濃くし、紺色に近くなってきたところで光が昇を包んだ。
「う……わあぁっ!?」
昇の服が消えていた。
光の中、裸になった昇にするすると淡い水色の帯が巻き付く。
乗り気ではなかったはずの昇が、この石の力に依るものか穏やかな表情で目を閉じ、光に身を委ねていた。
頭に帽子とゴーグルが現れ、髪が広がる。
伸ばした手脚には白い手袋とニーソックスがぴったりと装き、丸っこい厚底の靴に足が収まる。
起伏のない体に紺色のスクール水着が着せられる。
昇がゆっくりと目を開けて笑顔でウインクをひとつする。
石から杖部分が伸び、水流が環を描く。
その杖を昇が右手で掴み、くるりと回して両手で構えたところで光は消え、周囲は鈍い明かりが照らす展望広場に戻った。
「うっ……わあぁ」
昇は赤面してしゃがみこむ。
「何してるのよ、昇、立って」
「やっぱりこれ、ちょっと……」
そう言いながらも昇は膝を伸ばす。
立ち上がったものの、昇は随分と腰の退けた姿勢でいる。
「ちょっ……なに、やっぱり『ヘンタイ』って呼ばれたいの?」
「違うよぉ」
昇の股間が、やや脹らんでいた。
杖を持った両手で隠しつつ、昇はエリーに尋ねる。
「それで、忘れてたことって何?」
エリーは少しの時間、昇に白い目を送っていたが、「ま、いいわ」と肩をすくめて山道へ向かった。
祠へは、展望広場の奥から細い道を通って行けるようになっていて、照明が遠く暗くなる中をためらいなくエリーは進む。
数秒遅れて昇が追った先に、小振りで簡単なつくりの鳥居があった。
「この先ね」
エリーが先に、鳥居をくぐる。
昇は小声で「失礼します……」と呟きながらエリーに続いた。
鳥居からほんの十数歩ほど歩いたところに、それはあった。
木製の、拵えの丁寧さを伺える祠だった。どこか静謐な雰囲気をまとっているようにも見える。
観音開きになっている正面の扉を、エリーは子細に観察していた。
「この中ね。昇、開けて」
「ダメだよ。ここは触ってはいけないって、小さいときから言われてるんだ」
「なるほどね」
エリーは何か解ったような面持ちで数度頷く。
「開けて」
再度、昇にさっきより強めに言う。
「昇がやらなかったら私が蹴破るよ。罰当たりにはならないから、ほら」
「う、うぅ……」
昇はおずおず、恐る恐る右手を扉に近づける。
取っ手に昇の手が触れる寸前に扉が勢いよく開いた。
「わあぁっ!」
中から奔流のように、夏場だというのにひどく温度の低い空気が溢れ出した。風圧に押されるように昇が一歩下がってのけぞる。
「すごい――予測はしていたけど、それ以上だわ……やった」
エリーが、小さく腕を曲げていた。
「昇。いい? 言うとおりにやってね」
冷風はなぜか吹き抜けたのち解散することなく、周囲に漂っていた。
エリーの真剣な声に、昇も頷いて姿勢を整える。
股間のふくらみも、おさまっていた。
「杖の先を、その中に」
エリーが言い、昇はもう一度「失礼します」と言ってから杖の先端――水環を祠の中に差し入れる。
水環を結んでいる石がほのかに光りはじめた。
「続けて。
――『エクシキューター・スクミィ、オクパーティオ・ヒーク・コーラー、エッセ』
エリーの言葉に合わせて昇が唱えると、石からの光はさらに強さを増した。見る見る内に祠内部全体を青白く染め、溢れ漏れんばかりになった瞬間、しゅんっ、と消えた。
杖が小刻みに震え、その振動が昇に伝わる。
「っ……わわっ」
昇は杖をぎゅっと握りしめる。
振動はすぐに収まった。
エリーが、祠の様子をしばらく観察してから昇に振り返った。
「もう抜いてもいいわよ」
昇は安堵の息をこぼし、杖を、祠にぶつけないようにそろりと抜き出して丁寧に扉を閉めた。
抜ききったところで石が再び、ぬるりとした光を発しはじめる。
「ん? あ……ふわぁあ、っ!?」
昇が声を上げてやや仰け反る。
「どうしたの、昇?」
「なんだか体に熱いのが……ああぁっ」
光が石から杖を伝って、昇の手に絡みかかっていた。杖を持っていた左腕を駆け上り、鎖骨を通って水着状の衣装の胸元から下腹部に向かって、昇の身体を這ってゆく。
「んあ……っふ、ぁぁあ」
昇が股間の奥を押さえ、地面に膝をついた。
「何か、入って……んんんっ」
「ははぁ、なるほどね」
エリーは微笑んでいた。
「昇、拒まないで受け入れて」
と、身を屈めようとしている昇の腰を軽く叩く。
「んはぁ……っ!」
昇がびくん、と跳ねるように背筋を伸ばした。やや焦点の定まっていない瞳に半開きの口から悩ましげな吐息が漏れる。
糸が切れたように、昇はうつ伏せになって倒れた。
「あらあら、初めてで刺激がきつかったかしら?」
口に片手を当てた、ほくそ笑むポーズでエリーが言う。
しばらくしてから、昇が上体を少しだけ起こして正面にいたエリーを見上げた。
「な、何だったの今の……」
「そうねぇ。まあ、今夜のところはお疲れさま。変身解いて帰りましょう」
エリーは昇の質問には答えず、どこか嬉しそうな微笑みを浮かべていた。
前カゴにおさまったエリーが「ほぉら、変身した方が早かったんじゃないのぉ」と小声で文句を言っているのを無視して、昇が夕刻訪れた祠につながっている展望スペースへと到着したのは、マンションを出てから二十分後のことだった。
照明は変わらず灯っているものの、昇たちの他に人の姿はない。
「間に合ったようね。さ、変身して」
自転車のカゴから、エリーが指示する。
「どうしても?」
「杖を起動させる必要があるのよ。ほら、早く」
そこまで促され、昇はそれでも渋々といった様子でポケットから石を取り出す。
「す……スクミィ・マナ・チャーム・アレイング……っ」
おずおずと昇がそう言うと、石が澄んだ水面のような輝きを放ちはじめた。
昇が驚いた様子で石から手を離すが、石はふわりと浮いて更にその蒼光を強くする。
色味を濃くし、紺色に近くなってきたところで光が昇を包んだ。
「う……わあぁっ!?」
昇の服が消えていた。
光の中、裸になった昇にするすると淡い水色の帯が巻き付く。
乗り気ではなかったはずの昇が、この石の力に依るものか穏やかな表情で目を閉じ、光に身を委ねていた。
頭に帽子とゴーグルが現れ、髪が広がる。
伸ばした手脚には白い手袋とニーソックスがぴったりと装き、丸っこい厚底の靴に足が収まる。
起伏のない体に紺色のスクール水着が着せられる。
昇がゆっくりと目を開けて笑顔でウインクをひとつする。
石から杖部分が伸び、水流が環を描く。
その杖を昇が右手で掴み、くるりと回して両手で構えたところで光は消え、周囲は鈍い明かりが照らす展望広場に戻った。
「うっ……わあぁ」
昇は赤面してしゃがみこむ。
「何してるのよ、昇、立って」
「やっぱりこれ、ちょっと……」
そう言いながらも昇は膝を伸ばす。
立ち上がったものの、昇は随分と腰の退けた姿勢でいる。
「ちょっ……なに、やっぱり『ヘンタイ』って呼ばれたいの?」
「違うよぉ」
昇の股間が、やや脹らんでいた。
杖を持った両手で隠しつつ、昇はエリーに尋ねる。
「それで、忘れてたことって何?」
エリーは少しの時間、昇に白い目を送っていたが、「ま、いいわ」と肩をすくめて山道へ向かった。
祠へは、展望広場の奥から細い道を通って行けるようになっていて、照明が遠く暗くなる中をためらいなくエリーは進む。
数秒遅れて昇が追った先に、小振りで簡単なつくりの鳥居があった。
「この先ね」
エリーが先に、鳥居をくぐる。
昇は小声で「失礼します……」と呟きながらエリーに続いた。
鳥居からほんの十数歩ほど歩いたところに、それはあった。
木製の、拵えの丁寧さを伺える祠だった。どこか静謐な雰囲気をまとっているようにも見える。
観音開きになっている正面の扉を、エリーは子細に観察していた。
「この中ね。昇、開けて」
「ダメだよ。ここは触ってはいけないって、小さいときから言われてるんだ」
「なるほどね」
エリーは何か解ったような面持ちで数度頷く。
「開けて」
再度、昇にさっきより強めに言う。
「昇がやらなかったら私が蹴破るよ。罰当たりにはならないから、ほら」
「う、うぅ……」
昇はおずおず、恐る恐る右手を扉に近づける。
取っ手に昇の手が触れる寸前に扉が勢いよく開いた。
「わあぁっ!」
中から奔流のように、夏場だというのにひどく温度の低い空気が溢れ出した。風圧に押されるように昇が一歩下がってのけぞる。
「すごい――予測はしていたけど、それ以上だわ……やった」
エリーが、小さく腕を曲げていた。
「昇。いい? 言うとおりにやってね」
冷風はなぜか吹き抜けたのち解散することなく、周囲に漂っていた。
エリーの真剣な声に、昇も頷いて姿勢を整える。
股間のふくらみも、おさまっていた。
「杖の先を、その中に」
エリーが言い、昇はもう一度「失礼します」と言ってから杖の先端――水環を祠の中に差し入れる。
水環を結んでいる石がほのかに光りはじめた。
「続けて。
――『エクシキューター・スクミィ、オクパーティオ・ヒーク・コーラー、エッセ』
エリーの言葉に合わせて昇が唱えると、石からの光はさらに強さを増した。見る見る内に祠内部全体を青白く染め、溢れ漏れんばかりになった瞬間、しゅんっ、と消えた。
杖が小刻みに震え、その振動が昇に伝わる。
「っ……わわっ」
昇は杖をぎゅっと握りしめる。
振動はすぐに収まった。
エリーが、祠の様子をしばらく観察してから昇に振り返った。
「もう抜いてもいいわよ」
昇は安堵の息をこぼし、杖を、祠にぶつけないようにそろりと抜き出して丁寧に扉を閉めた。
抜ききったところで石が再び、ぬるりとした光を発しはじめる。
「ん? あ……ふわぁあ、っ!?」
昇が声を上げてやや仰け反る。
「どうしたの、昇?」
「なんだか体に熱いのが……ああぁっ」
光が石から杖を伝って、昇の手に絡みかかっていた。杖を持っていた左腕を駆け上り、鎖骨を通って水着状の衣装の胸元から下腹部に向かって、昇の身体を這ってゆく。
「んあ……っふ、ぁぁあ」
昇が股間の奥を押さえ、地面に膝をついた。
「何か、入って……んんんっ」
「ははぁ、なるほどね」
エリーは微笑んでいた。
「昇、拒まないで受け入れて」
と、身を屈めようとしている昇の腰を軽く叩く。
「んはぁ……っ!」
昇がびくん、と跳ねるように背筋を伸ばした。やや焦点の定まっていない瞳に半開きの口から悩ましげな吐息が漏れる。
糸が切れたように、昇はうつ伏せになって倒れた。
「あらあら、初めてで刺激がきつかったかしら?」
口に片手を当てた、ほくそ笑むポーズでエリーが言う。
しばらくしてから、昇が上体を少しだけ起こして正面にいたエリーを見上げた。
「な、何だったの今の……」
「そうねぇ。まあ、今夜のところはお疲れさま。変身解いて帰りましょう」
エリーは昇の質問には答えず、どこか嬉しそうな微笑みを浮かべていた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男
湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。
何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。
お兄ちゃんは今日からいもうと!
沼米 さくら
ライト文芸
大倉京介、十八歳、高卒。女子小学生始めました。
親の再婚で新しくできた妹。けれど、彼女のせいで僕は、体はそのまま、他者から「女子小学生」と認識されるようになってしまった。
トイレに行けないからおもらししちゃったり、おむつをさせられたり、友達を作ったり。
身の回りで少しずつ不可思議な出来事が巻き起こっていくなか、僕は少女に染まっていく。
果たして男に戻る日はやってくるのだろうか。
強制女児女装万歳。
毎週木曜と日曜更新です。
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
二十歳の同人女子と十七歳の女装男子
クナリ
恋愛
同人誌でマンガを描いている三織は、二十歳の大学生。
ある日、一人の男子高校生と出会い、危ないところを助けられる。
後日、友人と一緒にある女装コンカフェに行ってみると、そこにはあの男子高校生、壮弥が女装して働いていた。
しかも彼は、三織のマンガのファンだという。
思わぬ出会いをした同人作家と読者だったが、三織を大切にしながら世話を焼いてくれる壮弥に、「女装していても男は男。安全のため、警戒を緩めてはいけません」と忠告されつつも、だんだんと三織は心を惹かれていく。
自己評価の低い三織は、壮弥の迷惑になるからと具体的な行動まではなかなか起こせずにいたが、やがて二人の関係はただの作家と読者のものとは変わっていった。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
☆男女逆転パラレルワールド
みさお
恋愛
この世界は、ちょっとおかしい。いつのまにか、僕は男女が逆転した世界に来てしまったのだ。
でも今では、だいぶ慣れてきた。スカートだってスースーするのが、気になって仕方なかったのに、今ではズボンより落ち着く。服や下着も、カワイイものに目がいくようになった。
今では、女子の学ランや男子のセーラー服がむしろ自然に感じるようになった。
女子が学ランを着ているとカッコイイし、男子のセーラー服もカワイイ。
可愛いミニスカの男子なんか、同性でも見取れてしまう。
タイトスカートにハイヒール。
この世界での社会人男性の一般的な姿だが、これも最近では違和感を感じなくなってきた。
ミニスカや、ワンピース水着の男性アイドルも、カワイイ。
ドラマ やCM も、カッコイイ女子とカワイイ男子の組み合わせがほとんどだ。
僕は身も心も、この逆転世界になじんでいく・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる