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5 ドライブしたのは収録? デート?
5-5 ピンチ!
しおりを挟むマンションに近付いてきたところで、僕は絶句した。
「あいつ……っ」
入り口に、妹がいた。
『荷物多い』と言っていたとおり、大きなトランクに軽く腰掛けるようにして、さらに足元にバッグを二個従えていた。
僕と変わらないくらいの背丈で、短めのジャンスカから出した脚をふらふらと振っている。時折スマホに目をやって、周りを見回す。
実家で見てたのと同じ、ポニーテール。
ちょっと離れたところで車を止めてもらったのが幸いしたか、気付かれた様子はない。
駅で待ってるとか言ってたのに。
僕に対する嫌がらせか。
本人は『抜き打ち検査や』とか思ってそうだ。『どうせヘンなモン置いてたりしとるっちゃろ、隠す前に親に晒しちゃるけん』とか言いそうで、僕をどこか軽蔑したような口調が脳内再生される。
「あの子が妹さん?」
僕はため息とともに頷く。
「なんでここにいるんだよ……ったく」
文句がこぼれる。
「可愛らしいね。
――ちょっと、キツそうにも見えるけど」
朋美さんが僕を見る。
もちろんまだ、女子の装いのままだ。
「どうする?」
聞かれて、考える。
「あいつを無視して部屋に急ぐ、とか」
バッグの中の鍵を確かめる。
「すれ違うときにバレなかったらそれでいけるかな?
それか、アタシが行こうか? 鍵借りて」
それはありがたい、けど、
「僕が着替えなきゃ」
「あ、そっかぁ」
朋美さんが苦笑する。一緒になって考えてくれてるのが嬉しい。
「じゃあアタシがあの子に話しかけるからさ、その間に通っちゃえば?」
朋美さんはカーナビの地図を細かいところまで拡大して、一本違う道沿いにある建物を見ていた。
「さっと通ったら樹くんってバレないよ。
――でも、その前にメイク直して」
言われて、コンパクトで確認しながら浮いたファンデを押さえる。
「よっし、行ってみようっ」
朋美さんが車を発進させる。
一旦マンションを通り過ぎて――妹が注目してきた感じはなかった――少し走って、曲がって、回り込むところで僕が車を降りる。
「ビクビクしちゃダメだよ」
と手を握ってくれて、深呼吸する。
僕がこっそりマンションに近付いていって、入り口から見えにくい位置で入り口をうかがいながら待っていると――朋美さんの車が戻ってきた。
今度はマンションの前で停まって、窓を開けた朋美さんが妹に声をかける。
「すみませーん、三丁目二番地ってこのへんですかぁ?」
妹は話しかけられたことに戸惑い、さらに朋美さんの見た目に驚いた様子だった。
今だ。
僕は早足で入り口に――朋美さんと妹が話しているのとは違う角度から接近する。
さっと歩いてその脇を通り抜け――
「あっ、すみませんっ」
妹の声。
妹は行く手をふさぐわけではないけど、間髪入れずに話を続ける。
「ここの方ですか? 私、ついさっきここに着いたばかりで全然この辺りのこと知らないんですけど、三丁目二番地ってどこの方向ですか?」
標準語のイントネーションを意識した口調で言う。
――そうだった。
こういう奴だ。
うっかりしていた。
世話焼きで、困った人を放っておけないで、自分で解決できそうになかったら周りも巻き込む。
呼び止められた僕もつい、足を止めてしまった。
朋美さんと目が合う。
『行っちゃって』と言ってきているように見える。
僕は動揺が顔に出ないようにと内心言い聞かせながら、妹とは目を合わせないように、顔を見られすぎないように俯き気味にして、答える。
「ごめんなさい、あたしも最近越してきたばかりだから」
女の子モードの声で言う。
「そうですか……すみません。
お姉さん、ちょっと待ってくださいねっ」
妹はテキパキと僕と朋美さんに言って、持っていたスマホに手早く指を走らせる。
「ここ、兄が住んでるところなので――兄はまだ帰ってきてないみたいですけど、ちょっと聞いてみますねっ」
と、スマホを操作する。
僕のバッグから、着信音が聞こえはじめた。
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