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第3章 北の大国フェーブル
第119話 それぞれの道へ(後編)
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離れていく三人と一匹が見えなくなるまで見送った後、シュウィツア一行は街に入り小休憩をとることにした。
馬車を止めた街の中心部には噴水があり、その中心に若い女性の銅像が建てられていた。
「この銅像、確かシュウィツアを入ってすぐのところににもありましたわね」
ヴィオレッタが気づいて言った。
「ああ、『救国の乙女像』ですね。この像が国中に広まったのは、祖父が王太子になってすぐのことです。なんでも毒殺された王太子の婚約者が、王宮に毒物を持ち込んだ反逆者たちの罪を死してなお暴いてみせたという逸話からきているそうです。あ、ここで言われる王太子とは祖父ではなく祖父の兄だったらしいのですけどね」
ユーベルが説明した。
「ええ、ノルドベルク家由来の女性と言われております。ユーベル様達の御家ではなく、その前の一度断絶したほうのノルドベルクです」
エルダー卿が補足した。
「なんだか、この像、あの方にとても良く似ているような……」
ヴィオレッタがつぶやいた。
「あの方、とは?」
ユーベルが尋ねる。
「ウルマノフ様達と一緒に私たちを助けてくださった、ユーベル様と同じ髪色の……」
「ロゼさんですか、確かに」
二人の会話を聞いてエルダー卿が首を傾げた。
「フェーブル王宮でいきなり精霊に変わった者たちがいただろう。いやあ、僕もびっくりしたんだけどね。その中にいた僕と同じ髪色をした女性がロゼさんで、不思議な術で僕たちの危機一髪の状況を助けてくれたんだよ」
ロゼ、という名の存在がわからないエルダー卿にユーベルが説明した。
「ああ、四大精霊の。精霊と言えば、私の姉はこの像のモデルとなった女性に昔仕えていましてね。救国の乙女の逸話を私によく語ってくれました。その話にも精霊やしゃべる猫が登場しましてね、子供の私のために脚色して話してくれていたのだと、大人になってからは思っていたのですけどね」
エルダー卿は像を見上げながら懐かし気に目を細めた。
「僕も祖母からよく聞かされていましたよ。確かになぜか精霊や黒猫が登場するのですよね。僕も同じように大人になってからはそう思っていたのですけど、今回の件で祖母たちの話はあながち嘘ではなかったのかもと……」
ユーベルも懐かしげに言った。
エルダー卿は再び首を傾げた。
「起こりえないことも起こりえる、だったかな、ウルマノフ殿が言っていたのは? とにかくよくしゃべる猫だったな」
「サフィニアに抱かれている姿は本当に人形のようでかわいかったのですけどね」
ユーベルとヴィオレッタが黒猫クロについて語りながら微笑み合った。
「……? えっと、黒猫が……?」
「君も聞いただろ、フェーブル王への謁見の時にサフィニアに抱かれた猫が時々チャチャいれていたのを」
「え、あれは令嬢がしゃべっていたのではなかったのですか?」
「やはりそう見えたのか」
ふつうはそう思うよな。
そうユーベルは笑った。
「それにしても、銅像とそっくりな女人と黒猫、あの者たちが本当に『救国の乙女』に関係した存在なら、ヴィオレッタ様を助けようとしたのもうなづけます。ユーベル様と同じく、ヴィオレッタ様が王家の血を引くものと見抜いて救おうとしたのかもしれません」
エルダー卿の頭の中では、ロゼたちは「国の守り神」的な存在にまで昇華したようだ。
「ユーベル様にも本当にどうお礼を申し上げればいいか」
ヴィオレッタはユーベルに言った。
「えっ、いや、そんな……」
「ブラウシュテルン公爵であるとともにシュウィツア王家の血を引く者としても恥ずかしくないように努力いたしますので」
恭しく頭を下げるヴィオレッタを見てユーベルは複雑な顔をした。
もちろん動機として自分と同じ王家の血を引く者に対しての助力というものもあったが、それ以上の感情について何も気づいてもらえないのは、少し寂しいものがある。
エルダー卿はユーベルの表情を見て少し複雑な思いがした。
あの会談の時には、ユーベルがヴィオレッタの力になろうと彼女にかかわった一連の行為は、あくまでシュウィツア王家の血を引く存在への助力とした方が両国の関係がこじれずに済むと思い、それを強く主張した。
何しろあの当時はまだヴィオレッタは王太子の婚約者だったのだから。
しかし、その縛りが外れた今、肝心のヴィオレッタがその解釈のままではユーベルもさぞ苦労するだろう。前途多難だ。
がんばってください、と、心の中でひそかにエーデル卿は応援するのであった。
【作者あいさつ】
次で完結です。
ここまで読んでくださった方々、ありがとうございました。
続けてアップいたします。
馬車を止めた街の中心部には噴水があり、その中心に若い女性の銅像が建てられていた。
「この銅像、確かシュウィツアを入ってすぐのところににもありましたわね」
ヴィオレッタが気づいて言った。
「ああ、『救国の乙女像』ですね。この像が国中に広まったのは、祖父が王太子になってすぐのことです。なんでも毒殺された王太子の婚約者が、王宮に毒物を持ち込んだ反逆者たちの罪を死してなお暴いてみせたという逸話からきているそうです。あ、ここで言われる王太子とは祖父ではなく祖父の兄だったらしいのですけどね」
ユーベルが説明した。
「ええ、ノルドベルク家由来の女性と言われております。ユーベル様達の御家ではなく、その前の一度断絶したほうのノルドベルクです」
エルダー卿が補足した。
「なんだか、この像、あの方にとても良く似ているような……」
ヴィオレッタがつぶやいた。
「あの方、とは?」
ユーベルが尋ねる。
「ウルマノフ様達と一緒に私たちを助けてくださった、ユーベル様と同じ髪色の……」
「ロゼさんですか、確かに」
二人の会話を聞いてエルダー卿が首を傾げた。
「フェーブル王宮でいきなり精霊に変わった者たちがいただろう。いやあ、僕もびっくりしたんだけどね。その中にいた僕と同じ髪色をした女性がロゼさんで、不思議な術で僕たちの危機一髪の状況を助けてくれたんだよ」
ロゼ、という名の存在がわからないエルダー卿にユーベルが説明した。
「ああ、四大精霊の。精霊と言えば、私の姉はこの像のモデルとなった女性に昔仕えていましてね。救国の乙女の逸話を私によく語ってくれました。その話にも精霊やしゃべる猫が登場しましてね、子供の私のために脚色して話してくれていたのだと、大人になってからは思っていたのですけどね」
エルダー卿は像を見上げながら懐かし気に目を細めた。
「僕も祖母からよく聞かされていましたよ。確かになぜか精霊や黒猫が登場するのですよね。僕も同じように大人になってからはそう思っていたのですけど、今回の件で祖母たちの話はあながち嘘ではなかったのかもと……」
ユーベルも懐かしげに言った。
エルダー卿は再び首を傾げた。
「起こりえないことも起こりえる、だったかな、ウルマノフ殿が言っていたのは? とにかくよくしゃべる猫だったな」
「サフィニアに抱かれている姿は本当に人形のようでかわいかったのですけどね」
ユーベルとヴィオレッタが黒猫クロについて語りながら微笑み合った。
「……? えっと、黒猫が……?」
「君も聞いただろ、フェーブル王への謁見の時にサフィニアに抱かれた猫が時々チャチャいれていたのを」
「え、あれは令嬢がしゃべっていたのではなかったのですか?」
「やはりそう見えたのか」
ふつうはそう思うよな。
そうユーベルは笑った。
「それにしても、銅像とそっくりな女人と黒猫、あの者たちが本当に『救国の乙女』に関係した存在なら、ヴィオレッタ様を助けようとしたのもうなづけます。ユーベル様と同じく、ヴィオレッタ様が王家の血を引くものと見抜いて救おうとしたのかもしれません」
エルダー卿の頭の中では、ロゼたちは「国の守り神」的な存在にまで昇華したようだ。
「ユーベル様にも本当にどうお礼を申し上げればいいか」
ヴィオレッタはユーベルに言った。
「えっ、いや、そんな……」
「ブラウシュテルン公爵であるとともにシュウィツア王家の血を引く者としても恥ずかしくないように努力いたしますので」
恭しく頭を下げるヴィオレッタを見てユーベルは複雑な顔をした。
もちろん動機として自分と同じ王家の血を引く者に対しての助力というものもあったが、それ以上の感情について何も気づいてもらえないのは、少し寂しいものがある。
エルダー卿はユーベルの表情を見て少し複雑な思いがした。
あの会談の時には、ユーベルがヴィオレッタの力になろうと彼女にかかわった一連の行為は、あくまでシュウィツア王家の血を引く存在への助力とした方が両国の関係がこじれずに済むと思い、それを強く主張した。
何しろあの当時はまだヴィオレッタは王太子の婚約者だったのだから。
しかし、その縛りが外れた今、肝心のヴィオレッタがその解釈のままではユーベルもさぞ苦労するだろう。前途多難だ。
がんばってください、と、心の中でひそかにエーデル卿は応援するのであった。
【作者あいさつ】
次で完結です。
ここまで読んでくださった方々、ありがとうございました。
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