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第3章 北の大国フェーブル
第117話 ようやく大団円
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「は、母上……」
突然の母ダリアの罪の暴露に息子のナーレン王太子は衝撃を受けすがるような眼で彼女を見つめた。
「本当にお前は知らなったのか、ナーレンよ?」
国王が改めて息子である王太子に聞いた。
「国王陛下、これは私が単独で行ったもの、実家も息子も関係はありません」
ダリアは国王の言葉にうろたえた。
「しかしそなたが行ったことで一番利益を受けるのは、王太子と実家のリスティッヒ家だ。知らなかったですまされる話ではない」
「それは……」
「知らせてなかったのは本当じゃないかしら。こことは別の世界でね、『無能な味方は有能な敵より恐ろしい』って意味の言葉があるの。自分が楽しくすることしか考えず、相手が不快に思っても平気でそれを口にしてしまうようなバカにこんなとんでもない計画知らせておいたら、どこでボロ出すかわかったものじゃないもの」
ダリア王妃が口ごもっている間をぬって、クロが口をはさんだ。
もちろんそれは彼女を抱いているサフィニアが言ったみたいに周囲には映った。
こうなるともはや腹話術である。
サフィニアももう半分開き直っていた。
国王は思わず吹き出し、確かに、と、ため息をついた。
ダリアもつられて笑って、そのあとうつむいた。
「しかし、実母が反逆罪に問われた今、そなたを王太子のままにしておくことはできん」
国王は意を決したように言った。
「それはどういう意味でしょうか?」
ナーレンは不安げな顔で父王を見た。
「フェーブル南境の駐屯地へ行ってそこで修行しなおせ。そなたの性根がもう少しましになれば、一貴族として生きる道も与えられよう」
「ええっ!」
ナーレンは茫然とした。
フェーブルの南境の東半分は精霊王の御所もあるフェノーレス山地があり天然の要害となっているが、西半分の平野部はミドランドという強国と接しており警戒を怠ることのできない地域である。ゆえに規律は厳しく無骨な兵士が集まる女っ気のないところともいわれている。
「それからリスティッヒ侯爵、そなたらも……」
国王は宰相である王妃の兄にも言った。
「はい、わかっております」
侯爵は沈痛な面持ちでうなずいた。
今まで権力の基盤となっていた妹の王妃は罪を問われ『廃妃』となる。辞職を促されるのは国王の慈悲だ。爵位は少なくとも二階級降格となり、領地も一部没収されるだろう。それでも一族の者たちが罪を問われないだけありがたいと言える。
「やれやれ、どうやら当面の目的は達したようだね」
彼らの様子を見て精霊ネイレスが言い、両手を挙げて伸びをした。
「そうね、どうなるかと思ったけど……」
隣に立っていたロゼも言った。
「それじゃあ、僕は御所に帰るから後の始末は頼むよ、ロゼ」
そういうや否やネイレスは王宮の広間からかき消えた。
「ちょ……、ちょっと! 面倒な後始末は全部わたし!」
取り残されたロゼは茫然となった。
「あの、それでは我らシュウィツアの使節団も故国へ帰還してよろしいですかな。後の打ち合わせには事務方のものを残しておきますので。ユーベル様が生きているとわかったのですから、ここは一刻も早くご両親にその無事なお姿を見せねばなりませぬし……」
特使代表のエルダー卿が国王に許しを求めた。
「そうじゃな、それでよかろう」
国王は許可した。
健康を取り戻した国王だが、今回の件で疲労困憊し一気に老けたように見えた。
「あの、国王陛下。それでしたら、亡き父の墓参に参りたいと思いますので、私もシュウィツアの特使一行に同行してもよろしいでしょうか?」
ヴィオレッタが続けて許可を求めた。
墓参と言われては許さざるを得ない。
「帰ってくるのだな?」
国王は新たに女公爵となったヴィオレッタに問うた。
「はい、必ず」
「では、行くがいい」
一礼をすると踵を返し、ヴィオレッタはシュウィツアの一行に加わった。
「では、わしらもそろそろお暇するかの。レーツエルのところまでいけばオルムまでの長距離転移がが可能じゃで、途中までシュウィツア一行とご一緒しようかの」
精霊ウルマフこと老魔導士ウルマノフも言った。
ヴォルフとサフィニアもそれに続く。
「やっほー、ロゼ! あなたはもう少し残るんでしょう。あたしはサフィニアたちと一緒に行くから、終わったらあたしのところに飛んでくればいいわ」
黒猫クロはサフィニアに抱かれたまま、去り際にロゼにそう声をかけた。
先ほどまでフェーブル国内の高位貴族、シュウィツアの特使、老魔導士に連れられた一行と多くの人がひしめき合っていた謁見の間は、潮が引いたようにさびしくなった。
【作者お知らせ】
大団円ではありますが、簡潔まであと3話ほど続きます。
もう少しお付き合いくださいませ。
突然の母ダリアの罪の暴露に息子のナーレン王太子は衝撃を受けすがるような眼で彼女を見つめた。
「本当にお前は知らなったのか、ナーレンよ?」
国王が改めて息子である王太子に聞いた。
「国王陛下、これは私が単独で行ったもの、実家も息子も関係はありません」
ダリアは国王の言葉にうろたえた。
「しかしそなたが行ったことで一番利益を受けるのは、王太子と実家のリスティッヒ家だ。知らなかったですまされる話ではない」
「それは……」
「知らせてなかったのは本当じゃないかしら。こことは別の世界でね、『無能な味方は有能な敵より恐ろしい』って意味の言葉があるの。自分が楽しくすることしか考えず、相手が不快に思っても平気でそれを口にしてしまうようなバカにこんなとんでもない計画知らせておいたら、どこでボロ出すかわかったものじゃないもの」
ダリア王妃が口ごもっている間をぬって、クロが口をはさんだ。
もちろんそれは彼女を抱いているサフィニアが言ったみたいに周囲には映った。
こうなるともはや腹話術である。
サフィニアももう半分開き直っていた。
国王は思わず吹き出し、確かに、と、ため息をついた。
ダリアもつられて笑って、そのあとうつむいた。
「しかし、実母が反逆罪に問われた今、そなたを王太子のままにしておくことはできん」
国王は意を決したように言った。
「それはどういう意味でしょうか?」
ナーレンは不安げな顔で父王を見た。
「フェーブル南境の駐屯地へ行ってそこで修行しなおせ。そなたの性根がもう少しましになれば、一貴族として生きる道も与えられよう」
「ええっ!」
ナーレンは茫然とした。
フェーブルの南境の東半分は精霊王の御所もあるフェノーレス山地があり天然の要害となっているが、西半分の平野部はミドランドという強国と接しており警戒を怠ることのできない地域である。ゆえに規律は厳しく無骨な兵士が集まる女っ気のないところともいわれている。
「それからリスティッヒ侯爵、そなたらも……」
国王は宰相である王妃の兄にも言った。
「はい、わかっております」
侯爵は沈痛な面持ちでうなずいた。
今まで権力の基盤となっていた妹の王妃は罪を問われ『廃妃』となる。辞職を促されるのは国王の慈悲だ。爵位は少なくとも二階級降格となり、領地も一部没収されるだろう。それでも一族の者たちが罪を問われないだけありがたいと言える。
「やれやれ、どうやら当面の目的は達したようだね」
彼らの様子を見て精霊ネイレスが言い、両手を挙げて伸びをした。
「そうね、どうなるかと思ったけど……」
隣に立っていたロゼも言った。
「それじゃあ、僕は御所に帰るから後の始末は頼むよ、ロゼ」
そういうや否やネイレスは王宮の広間からかき消えた。
「ちょ……、ちょっと! 面倒な後始末は全部わたし!」
取り残されたロゼは茫然となった。
「あの、それでは我らシュウィツアの使節団も故国へ帰還してよろしいですかな。後の打ち合わせには事務方のものを残しておきますので。ユーベル様が生きているとわかったのですから、ここは一刻も早くご両親にその無事なお姿を見せねばなりませぬし……」
特使代表のエルダー卿が国王に許しを求めた。
「そうじゃな、それでよかろう」
国王は許可した。
健康を取り戻した国王だが、今回の件で疲労困憊し一気に老けたように見えた。
「あの、国王陛下。それでしたら、亡き父の墓参に参りたいと思いますので、私もシュウィツアの特使一行に同行してもよろしいでしょうか?」
ヴィオレッタが続けて許可を求めた。
墓参と言われては許さざるを得ない。
「帰ってくるのだな?」
国王は新たに女公爵となったヴィオレッタに問うた。
「はい、必ず」
「では、行くがいい」
一礼をすると踵を返し、ヴィオレッタはシュウィツアの一行に加わった。
「では、わしらもそろそろお暇するかの。レーツエルのところまでいけばオルムまでの長距離転移がが可能じゃで、途中までシュウィツア一行とご一緒しようかの」
精霊ウルマフこと老魔導士ウルマノフも言った。
ヴォルフとサフィニアもそれに続く。
「やっほー、ロゼ! あなたはもう少し残るんでしょう。あたしはサフィニアたちと一緒に行くから、終わったらあたしのところに飛んでくればいいわ」
黒猫クロはサフィニアに抱かれたまま、去り際にロゼにそう声をかけた。
先ほどまでフェーブル国内の高位貴族、シュウィツアの特使、老魔導士に連れられた一行と多くの人がひしめき合っていた謁見の間は、潮が引いたようにさびしくなった。
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大団円ではありますが、簡潔まであと3話ほど続きます。
もう少しお付き合いくださいませ。
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