115 / 120
第3章 北の大国フェーブル
第115話 弑逆の犯人は?
しおりを挟む
ウルマノフの言葉に耳を傾けようと、広間は水を打ったように静まり返った。
「先ほどレンガといったが、レンガのごとく単純に建物の壁のような役割をするのもあれば、外からくる敵と戦って防衛する役を担っているものもあるのじゃ。風邪をひいたり怪我をした時にはそれらのものが大活躍する」
免疫機能ってやつですね、わかります。
サフィニアは再び聞きながら何度もうなづいた。
「病気や怪我の時にはその小さな戦士らが外から侵入して体の中で悪さをする者たちと戦う。そしてその外敵らとともに死ぬ。普通の人間の体では、死んだ小さな戦士は外敵と一緒に外に排出され、新しい戦士が補充される、しかし新しいものが生まれない状況になっていれば一体どうなるか?」
ウルマノフの説明は少し抽象的過ぎて聞いている者たちは理解しようと頭をひねった。
「つまり、敵対関係にある国との境で戦闘が起き戦死者が多数出たけど、新たな戦士も物資も補充されない状態になると?」
騎士スコルパスが具体的な状況を挙げてみた。
「そのとおりじゃ! 肉体は常に外敵にさらされ兵士も物資も減り続けているのに補充はされない、そうやって肉体はどんどん衰弱していく。体内の時を止めるというのはそういうことなのじゃ。特にけがや病気で体が弱っているときを狙いこの薬を飲ませ続ければ、若く健康なものと違い悪影響の方が強く出るのじゃ」
わが意を得たりとウルマノフは手をたたき説明を補強した。
「あの当時の母は、亡き祖父の跡を継いで領地経営や王宮とのやり取りなど激務をこなしておりました。そして、風邪をこじらせてあっけなく……、疲労のせいかと思っていたのですが……」
ヴィオレッタが当時を思い起こし言った。
「ふむ、薬をこっそり盛ったのは夫であったファイゲの可能性が高いがそれは当時懇ろとなっていたカルミアの入れ知恵じゃろう。ティスルの近くにいたあんたなら、薬の副作用もよくわかっていただろうからな」
ウルマノフはカルミアに目をやり言った。
「くっ!」
カルミアは忌々しそうな目でヴィオレッタとウルマノフをにらんだ。
「おお、怖っ! 人を平気で手にかけるような奴の逆恨み、始末に悪いのう。どこでこの薬を手に入れたかを聞こうと思っていたが、お前さんがティスルの付き人であったことを自白してくれたので手間が省けたわい。で、その薬を王侯貴族にも多く売ったようだが、誰にどのくらい売ったか覚えておるか?」
ウルマノフがカルミアに尋ねた。
「そんなものいちいち覚えてないわ!」
吐き捨てるようにカルミアが答えた。
「まあ、そういう答えも想定内じゃ。だからこそ、わしは王都の各貴族の屋敷を訪問しヴォルフに邸内を探らせた。まあ、持っているだけなら、副作用を知らずに購入した事例もあるじゃろうから咎めるつもりはなかったがの。もう一つ質問するぞ、ティスルが特別に薬の副作用までしっかり教えた相手はいるか? どうじゃ覚えているかの?」
ウルマノフの質問に今度はカルミアは顔をそむけた。
「覚えてないのか、答えたくないのか、まあいい。そういう反応をされるのも想定内じゃ。あの薬の悪影響を取り除く場合、人によっては、髪がごっそり抜け落ちたり、肌が脱皮したようにむけていくことがある、あと高熱を発することもな。この症状を聞いて思い出すことはないか、医師団よ」
ウルマノフの質問に王家の医師団の顔色が変わった。
それこそウルマノフが牢に入れられた原因となった国王のおかしな症状であったのだから。
「薬の悪影響をとり除けば、いままで止まっていた時が動き、長らく体を守っていたレンガのようなものは死んでゆく。髪であったり肌であったりな。そして高熱というのは今まで補充されなかった兵士が補充され、やつらが戦いやすいように体が反応した証拠なのじゃ」
「待ってくれ、つまりわしもその薬を知らずに飲まされていたということか?」
フェーブル王は愕然とした。
「ああ、そうじゃ。あんたが当時のシュウィツアの若き王太子妃のように美容効果を求めて服用するとは考えづらい。だからその薬をあんたに飲ませたのは誰か、と、わしは考えた。この薬を使った殺人は、自然死のように見せかけられる反面、時間がかかり薬も大量に必要となる。ティスルは貴族相手にはずいぶんぼったくった料金設定をしていたようだし、そんな高価なものを大量に購入できる財力を持ったものと言えばおのずと限られている」
ウルマノフの答えに周囲は息をのんだ。国王殺害未遂の犯人がそれなりに地位と財力のある人間であると言っているも同然だったのだから。
「あんた、ロゼッタ嬢、そこの精霊に戻ったやつじゃが、その者に美容薬を譲ったことがあっただろう、ダリア王妃よ」
「先ほどレンガといったが、レンガのごとく単純に建物の壁のような役割をするのもあれば、外からくる敵と戦って防衛する役を担っているものもあるのじゃ。風邪をひいたり怪我をした時にはそれらのものが大活躍する」
免疫機能ってやつですね、わかります。
サフィニアは再び聞きながら何度もうなづいた。
「病気や怪我の時にはその小さな戦士らが外から侵入して体の中で悪さをする者たちと戦う。そしてその外敵らとともに死ぬ。普通の人間の体では、死んだ小さな戦士は外敵と一緒に外に排出され、新しい戦士が補充される、しかし新しいものが生まれない状況になっていれば一体どうなるか?」
ウルマノフの説明は少し抽象的過ぎて聞いている者たちは理解しようと頭をひねった。
「つまり、敵対関係にある国との境で戦闘が起き戦死者が多数出たけど、新たな戦士も物資も補充されない状態になると?」
騎士スコルパスが具体的な状況を挙げてみた。
「そのとおりじゃ! 肉体は常に外敵にさらされ兵士も物資も減り続けているのに補充はされない、そうやって肉体はどんどん衰弱していく。体内の時を止めるというのはそういうことなのじゃ。特にけがや病気で体が弱っているときを狙いこの薬を飲ませ続ければ、若く健康なものと違い悪影響の方が強く出るのじゃ」
わが意を得たりとウルマノフは手をたたき説明を補強した。
「あの当時の母は、亡き祖父の跡を継いで領地経営や王宮とのやり取りなど激務をこなしておりました。そして、風邪をこじらせてあっけなく……、疲労のせいかと思っていたのですが……」
ヴィオレッタが当時を思い起こし言った。
「ふむ、薬をこっそり盛ったのは夫であったファイゲの可能性が高いがそれは当時懇ろとなっていたカルミアの入れ知恵じゃろう。ティスルの近くにいたあんたなら、薬の副作用もよくわかっていただろうからな」
ウルマノフはカルミアに目をやり言った。
「くっ!」
カルミアは忌々しそうな目でヴィオレッタとウルマノフをにらんだ。
「おお、怖っ! 人を平気で手にかけるような奴の逆恨み、始末に悪いのう。どこでこの薬を手に入れたかを聞こうと思っていたが、お前さんがティスルの付き人であったことを自白してくれたので手間が省けたわい。で、その薬を王侯貴族にも多く売ったようだが、誰にどのくらい売ったか覚えておるか?」
ウルマノフがカルミアに尋ねた。
「そんなものいちいち覚えてないわ!」
吐き捨てるようにカルミアが答えた。
「まあ、そういう答えも想定内じゃ。だからこそ、わしは王都の各貴族の屋敷を訪問しヴォルフに邸内を探らせた。まあ、持っているだけなら、副作用を知らずに購入した事例もあるじゃろうから咎めるつもりはなかったがの。もう一つ質問するぞ、ティスルが特別に薬の副作用までしっかり教えた相手はいるか? どうじゃ覚えているかの?」
ウルマノフの質問に今度はカルミアは顔をそむけた。
「覚えてないのか、答えたくないのか、まあいい。そういう反応をされるのも想定内じゃ。あの薬の悪影響を取り除く場合、人によっては、髪がごっそり抜け落ちたり、肌が脱皮したようにむけていくことがある、あと高熱を発することもな。この症状を聞いて思い出すことはないか、医師団よ」
ウルマノフの質問に王家の医師団の顔色が変わった。
それこそウルマノフが牢に入れられた原因となった国王のおかしな症状であったのだから。
「薬の悪影響をとり除けば、いままで止まっていた時が動き、長らく体を守っていたレンガのようなものは死んでゆく。髪であったり肌であったりな。そして高熱というのは今まで補充されなかった兵士が補充され、やつらが戦いやすいように体が反応した証拠なのじゃ」
「待ってくれ、つまりわしもその薬を知らずに飲まされていたということか?」
フェーブル王は愕然とした。
「ああ、そうじゃ。あんたが当時のシュウィツアの若き王太子妃のように美容効果を求めて服用するとは考えづらい。だからその薬をあんたに飲ませたのは誰か、と、わしは考えた。この薬を使った殺人は、自然死のように見せかけられる反面、時間がかかり薬も大量に必要となる。ティスルは貴族相手にはずいぶんぼったくった料金設定をしていたようだし、そんな高価なものを大量に購入できる財力を持ったものと言えばおのずと限られている」
ウルマノフの答えに周囲は息をのんだ。国王殺害未遂の犯人がそれなりに地位と財力のある人間であると言っているも同然だったのだから。
「あんた、ロゼッタ嬢、そこの精霊に戻ったやつじゃが、その者に美容薬を譲ったことがあっただろう、ダリア王妃よ」
0
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説

好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

【完結】ゲーム開始は自由の時! 乙女ゲーム? いいえ。ここは農業系ゲームの世界ですよ?
キーノ
ファンタジー
私はゲームの世界に転生したようです。主人公なのですが、前世の記憶が戻ったら、なんという不遇な状況。これもゲームで語られなかった裏設定でしょうか。
ある日、我が家に勝手に住み着いた平民の少女が私に罵声を浴びせて来ました。乙女ゲーム? ヒロイン? 訳が解りません。ここはファーミングゲームの世界ですよ?
自称妹の事は無視していたら、今度は食事に毒を盛られる始末。これもゲームで語られなかった裏設定でしょうか?
私はどんな辛いことも頑張って乗り越えて、ゲーム開始を楽しみにいたしますわ!
※紹介文と本編は微妙に違います。
完結いたしました。
感想うけつけています。
4月4日、誤字修正しました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。
『自重』を忘れた者は色々な異世界で無双するそうです。
もみクロ
ファンタジー
主人公はチートです!イケメンです!
そんなイケメンの主人公が竜神王になって7帝竜と呼ばれる竜達や、
精霊に妖精と楽しくしたり、テンプレ入れたりと色々です!
更新は不定期(笑)です!戦闘シーンは苦手ですが頑張ります!
主人公の種族が変わったもしります。
他の方の作品をパクったり真似したり等はしていないので
そういう事に関する批判は感想に書かないで下さい。
面白さや文章の良さに等について気になる方は
第3幕『世界軍事教育高等学校』から読んでください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる