王宮の幻花 ~婚約破棄された上に毒殺されました~

玄未マオ

文字の大きさ
上 下
114 / 120
第3章 北の大国フェーブル

第114話 魔法薬の成分

しおりを挟む
 国王は動揺を抑えながらウルマノフに尋ねた。

「まさか……、まさか、前王妃サントリナも……?」
 
 フェーブル王が一番最初に娶ったサントリナは五年目でやっと王女を授かり、その後もまた不妊で苦しみ心を病んだ。子のできにくい体質だったのかと思いきや、娘のカレンデュラはエルシアンに嫁いですぐ懐妊し、その後も立て続けに出産し今や子だくさんな王太子妃となっている。
 もしやサントリナの不妊ももともとの体質ではなかったとしたら……。

「う~ん、遺体を掘り返し薬の残滓があるかどうかで判断できるがな。もっとも死後十年以上たっておるから、マグノリア・ブラウシュテルンと違って、さすがにきれいな状態では保存されていないだろうがの」

 ウルマノフは思案した。

「ちょっと、待ってください! ヴィオレッタ嬢の母君のマグノリア殿もさっき説明されていた薬を服用していたというのですか?」

 ウルマノフの言葉を聞いてユーベル公子が口をはさんだ。

「ああ、その通りじゃ」

 ウルマノフが答えた。

「あの、お待ちください。先ほど若さを保ち避妊効果があるとおっしゃっていましたが、あの当時の母にそのような薬が必要であったとは……?」

 ヴィオレッタが割って入って疑問を呈した。

「ふむ、先代マグノリア公爵の状況を考えると確かにその通りじゃな。だが薬というのは、自分の意思で服用するだけでなく知らぬ間に飲まされていることもある」

 ウルマノフが答えた。

「「あっ!」」

 先ほど激高した元ティスルの付き人にして、マグノリアの夫の後妻カルミアを二人は思い出した。

 いったいなぜ、と、疑問に思う彼らにウルマノフは答えた。

「その疑問に答えるためには、そもそもこの薬の本質的な効能を説明せねばならんの。まず人間の体を建物に例えるなら目に見えないほど小さいレンガが積み重なっているのじゃ」

 細胞ってやつですね、わかります。

 彼らの会話を黙って聞いていたサフィニアは即座に理解してうなづいた。
 しかし他の者たちはきょとんとした顔で老魔導士の言葉を聞いていた。

 前世の日本の義務教育スゴイ!
 こっちの世界じゃ細胞はもちろん、人間の臓器の名前も医療の専門家でないと知らないくらいなんだよね。
 おお、同じく日本の前世を持つロゼさんも理解しているかのようにうなづいているよ。

「続けるぞ。そのレンガのようなものは時の経過とともに劣化して新しいものと入れ替わる。人間の体の見えない部分にはそういう働きがあるのじゃ。例の薬はそのレンガの時を完全に止めてしまう効果があるのじゃ。時を止めてしまうから若さは保てる」

 夢のような薬に聞こえる。
 しかし、ウルマノフはその薬の影響について『爪痕』とか『災い』とかいう言葉を使っていた。
 それは一体?

「なぜ避妊、あるいは不妊効果があるかというと、時を止めてしまうということは新しいものが生まれないということじゃ。腹の中で赤子を育てるというのは新たな肉体を作り上げるということじゃからな、ここまではわかるかの?」

 できるだけわかりやすい言葉でウルマノフは説明した。

 母親の腹の中の子=新しい肉体を構築するために、新しいレンガが必要という理論で多くの人は理解できたようだ。

「そしてな、この薬はある状態の人間に続けて服用させると、次第に体を衰弱させる毒薬のような効果もあるのじゃ」

 さらに衝撃的なことをウルマノフは言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

【完結】ゲーム開始は自由の時! 乙女ゲーム? いいえ。ここは農業系ゲームの世界ですよ?

キーノ
ファンタジー
 私はゲームの世界に転生したようです。主人公なのですが、前世の記憶が戻ったら、なんという不遇な状況。これもゲームで語られなかった裏設定でしょうか。  ある日、我が家に勝手に住み着いた平民の少女が私に罵声を浴びせて来ました。乙女ゲーム? ヒロイン? 訳が解りません。ここはファーミングゲームの世界ですよ?  自称妹の事は無視していたら、今度は食事に毒を盛られる始末。これもゲームで語られなかった裏設定でしょうか?  私はどんな辛いことも頑張って乗り越えて、ゲーム開始を楽しみにいたしますわ! ※紹介文と本編は微妙に違います。 完結いたしました。 感想うけつけています。 4月4日、誤字修正しました。

【完結】世界一無知のリュールジスは秘密が多い

三ツ三
ファンタジー
突如地底深くより出現した結晶異物体。 無差別に人々を襲い続ける存在。 「アンダーズ」 人類はアンダーズの圧倒的な戦力により大陸の半分以上を受け渡すことを余儀なくされた。 物言わぬ結晶体に人類が今もなお抵抗出来ているのは人間の体内にある「魔力」を利用することで稼働する。 対アンダーズ砕鋼器具「ブレイカー」 腰部に装着することで内に秘められている「魔力」を具現化する事が可能となった人類の切り札。 「魔力」を持ち「ブレイカー」を扱う事が出来る限られた者達。 「リベリィ」 彼等がアンダーズを倒す事が出来る唯一の希望であった。 そんな世界で「リュールジス」は一人旅を続けていた。 「探し物・・・」 混沌とした各地を身一つで歩き続けたが、一通の手紙が足を止めさせ彼の旅を終わらせたのだった。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

『自重』を忘れた者は色々な異世界で無双するそうです。

もみクロ
ファンタジー
主人公はチートです!イケメンです! そんなイケメンの主人公が竜神王になって7帝竜と呼ばれる竜達や、 精霊に妖精と楽しくしたり、テンプレ入れたりと色々です! 更新は不定期(笑)です!戦闘シーンは苦手ですが頑張ります! 主人公の種族が変わったもしります。 他の方の作品をパクったり真似したり等はしていないので そういう事に関する批判は感想に書かないで下さい。 面白さや文章の良さに等について気になる方は 第3幕『世界軍事教育高等学校』から読んでください。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

処理中です...