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第3章 北の大国フェーブル
第110話 ヴィオレッタの願い
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ヴィオレッタの言を受けてフェーブル国王も居住まいを正した。
「願いとはなんじゃ?」
国王はヴィオレッタに問いかけた。
「はい、まず一つ目の願いとして、わたくしはまだ成人年齢まであと半年ございますが、ここで正式に公爵位を継承することをお許し願いたいのです」
この国では侯爵位以上の爵位の継承は国王立会いのもと行われる。
もともとの予定ではシュウィツアとの話し合いが終了したのち、ファイゲにそれをさずけることになっていたが、彼が罪に問われたことでブラウシュテルン家では代行すらいない状態になる。
「今から代行を決めてもどうせあと半年ですし、もともと、父、いえ、保護者だった者は私の公爵位継承に難色を示していました。ゆえに私自身がひそかに動き、代わりに後見人となってくださるものは見つけております」
「ふむ、それなら、もうシュウィツアとの懸案事項の話し合いも終わったし、よろしいですかな」
国王はシュウィツア側にヴィオレッタの公爵位継承の手続きを行うことの断りを入れた。
「かまいませんとも! おめでたい場面に居合わせることができて光栄です!」
シュウィツア側のエルダー卿は嬉々として言った。
国王の用意した書面にヴィオレッタと後見人のゲハイム伯爵がサインをする。
新たなブラウシュテルン公爵の誕生である。
ヴィオレッタは臣下として王家と国に尽くすことを誓ったのち
「続けて二番目のお願いを申し上げてよろしいでしょうか?」
と、国王に問うた。
国王が発言を許すとヴィオレッタは言った。
「王太子殿下と私の婚約を解消していただきたく存じます」
なに、と、国王陛下は仰天して立ち上がった。
「先だっての会議の時に、私から申し出た場合、理由のいかんにかかわらず聞き届けていただけると、国王陛下はお約束してくださいました」
建国パーティの際に王太子がヴィオレッタとの婚約破棄を宣言した翌日、関係者による話し合いの結果、婚約は継続されることとなったが、ヴィオレッタがそれを願い出た場合、理由のいかんにかかわらず、それを聞き届けると国王も約束した。
「うむ……、たしかに約束したが、その、しかし……、理由を聞いてもいいかの?」
苦し紛れに国王は言った。
「はい、私に説明できる限りのことは申し上げます」
理由のいかんにかかわらず、と、いう約束だったが、ヴィオレッタは国王の問いに真面目に答えようとした。
「うわあ、自分の息子の所業を考えればわかりそうなものなのに、王様もすごい鉄面皮ね、モガッ!」
ヴィオレッタが答えるより先にまたまた黒猫クロが無遠慮な発言をぶちかました。
「もう! あんたの発言は全部私が言ったみたいに見られるのよ」
小声でつぶやきながらサフィニアがクロの口をふさいだ。
皆の注目を浴びたサフィニアたちの動向が落ち着くのを待ってヴィオレッタが口を開いた。
「私が幼かったころ、王家から再三にわたって王太子殿下との婚約の申し込みがありましたが、祖父も母も私が婿を取りブラウシュテルン家を継ぐことを望んでおりましたのでそれはお断りを続けていました。しかし、祖父が死に母も病に倒れたことで事情が変わりました。自分の命が残り少ないことを悟った母は、自分の代わりに王太子の婚約者としての立場が私を守ると思ったのです」
打算的にも見えるが、自分亡きあとの娘を守るための盾として、母マグノリアは『皇太子の婚約者』としての立場を利用したのだ。
「実際、父がすぐ家に迎えたカルミア様は、私に暴力も振るおうとなさいました。ばあやが『未来の王妃のお体に傷をつけるつもりですか』と言って注意をすると、彼女からの言葉の暴力はずっと続きましたが、体への暴力だけはなくなりました」
「そんなことのために今までわが婚約者として居座っていたというのか、ヴィオレッタ?」
名誉でも愛情でもなくただ自分の身を護るためだけというヴィオレッタの言にナーレン王太子は不快感をあらわにした。
「ああ、『居座っていた』だなんてお言葉が出るほどに、この婚約は王太子殿下にとっても迷惑なものだったのですね。殿下は御心を建国パーティの際にもはっきりとお示しあそばされていましたし、長い間、まことに申し訳ございませんでした」
双方の意見が一致してよかったね、と、いう形で、すんなり婚約解消したくない国王は渋い顔をした。国内有数の家門で、今や押しも押されぬ女公爵となったヴィオレッタは何が何でも王家に取り込んでいたい存在であったからだ。
「願いとはなんじゃ?」
国王はヴィオレッタに問いかけた。
「はい、まず一つ目の願いとして、わたくしはまだ成人年齢まであと半年ございますが、ここで正式に公爵位を継承することをお許し願いたいのです」
この国では侯爵位以上の爵位の継承は国王立会いのもと行われる。
もともとの予定ではシュウィツアとの話し合いが終了したのち、ファイゲにそれをさずけることになっていたが、彼が罪に問われたことでブラウシュテルン家では代行すらいない状態になる。
「今から代行を決めてもどうせあと半年ですし、もともと、父、いえ、保護者だった者は私の公爵位継承に難色を示していました。ゆえに私自身がひそかに動き、代わりに後見人となってくださるものは見つけております」
「ふむ、それなら、もうシュウィツアとの懸案事項の話し合いも終わったし、よろしいですかな」
国王はシュウィツア側にヴィオレッタの公爵位継承の手続きを行うことの断りを入れた。
「かまいませんとも! おめでたい場面に居合わせることができて光栄です!」
シュウィツア側のエルダー卿は嬉々として言った。
国王の用意した書面にヴィオレッタと後見人のゲハイム伯爵がサインをする。
新たなブラウシュテルン公爵の誕生である。
ヴィオレッタは臣下として王家と国に尽くすことを誓ったのち
「続けて二番目のお願いを申し上げてよろしいでしょうか?」
と、国王に問うた。
国王が発言を許すとヴィオレッタは言った。
「王太子殿下と私の婚約を解消していただきたく存じます」
なに、と、国王陛下は仰天して立ち上がった。
「先だっての会議の時に、私から申し出た場合、理由のいかんにかかわらず聞き届けていただけると、国王陛下はお約束してくださいました」
建国パーティの際に王太子がヴィオレッタとの婚約破棄を宣言した翌日、関係者による話し合いの結果、婚約は継続されることとなったが、ヴィオレッタがそれを願い出た場合、理由のいかんにかかわらず、それを聞き届けると国王も約束した。
「うむ……、たしかに約束したが、その、しかし……、理由を聞いてもいいかの?」
苦し紛れに国王は言った。
「はい、私に説明できる限りのことは申し上げます」
理由のいかんにかかわらず、と、いう約束だったが、ヴィオレッタは国王の問いに真面目に答えようとした。
「うわあ、自分の息子の所業を考えればわかりそうなものなのに、王様もすごい鉄面皮ね、モガッ!」
ヴィオレッタが答えるより先にまたまた黒猫クロが無遠慮な発言をぶちかました。
「もう! あんたの発言は全部私が言ったみたいに見られるのよ」
小声でつぶやきながらサフィニアがクロの口をふさいだ。
皆の注目を浴びたサフィニアたちの動向が落ち着くのを待ってヴィオレッタが口を開いた。
「私が幼かったころ、王家から再三にわたって王太子殿下との婚約の申し込みがありましたが、祖父も母も私が婿を取りブラウシュテルン家を継ぐことを望んでおりましたのでそれはお断りを続けていました。しかし、祖父が死に母も病に倒れたことで事情が変わりました。自分の命が残り少ないことを悟った母は、自分の代わりに王太子の婚約者としての立場が私を守ると思ったのです」
打算的にも見えるが、自分亡きあとの娘を守るための盾として、母マグノリアは『皇太子の婚約者』としての立場を利用したのだ。
「実際、父がすぐ家に迎えたカルミア様は、私に暴力も振るおうとなさいました。ばあやが『未来の王妃のお体に傷をつけるつもりですか』と言って注意をすると、彼女からの言葉の暴力はずっと続きましたが、体への暴力だけはなくなりました」
「そんなことのために今までわが婚約者として居座っていたというのか、ヴィオレッタ?」
名誉でも愛情でもなくただ自分の身を護るためだけというヴィオレッタの言にナーレン王太子は不快感をあらわにした。
「ああ、『居座っていた』だなんてお言葉が出るほどに、この婚約は王太子殿下にとっても迷惑なものだったのですね。殿下は御心を建国パーティの際にもはっきりとお示しあそばされていましたし、長い間、まことに申し訳ございませんでした」
双方の意見が一致してよかったね、と、いう形で、すんなり婚約解消したくない国王は渋い顔をした。国内有数の家門で、今や押しも押されぬ女公爵となったヴィオレッタは何が何でも王家に取り込んでいたい存在であったからだ。
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