105 / 120
第3章 北の大国フェーブル
第105話 事件の生き証人たち
しおりを挟む
ウルマノフ一行はシュウィツア特使らがひざまずいている横を通り過ぎ、国王たちが座っているすぐそばまで近づいた。
「国王陛下に長らくの無沙汰お詫び申し上げます」
ヴィオレッタがまず前に進み出て国王にカーテシーであいさつをした。
「うむ、そなたも無事で何よりじゃ」
フェーブル王は戸惑いを隠せぬままに言った。
「はい、幸いにもこちらにいらっしゃる方々にお守りいただき危機を脱することができました。本日まかり越しましたのは、ノルドベルク公子に対する不名誉な流言を私の口から取り消させるためでございます」
「公子に対する不名誉な……、つまり、この場にて言われていた、公子がそなたを誘拐しようとしたという話は嘘じゃというのかな?」
「はい」
ヴィオレッタは信頼できる者から自分の命が狙われていることを知り、安全のため王都を離れブラウシュテルン領内に向かおうとするのを公子が協力してくれたことを話した。
「嘘だ! 国王陛下、先導している者がそもそも陛下を暗殺しようとした者なのですよ。そのような者たちとともにやってきた者たちの言葉が信用できますか? ヴィオレッタも魔導士に洗脳、あるいは操作されているに違いない!」
ヴィオレッタの説明を遮って父の公爵代行ががなり立てた。
「暗殺? 国王はぴんぴんしとるではないか。だからわしは最初から言っておったじゃろうが。熱はいずれ下がると。まあ、症状が今まで見たことのないものもあったから、不信感は理解できたがの」
蒸し返された暗殺未遂の件をウルマノフは一蹴した。
「医師団は今まで見たこともない症状で戸惑っておりました。だからわたくしは……」
ダリア王妃も不信感をあらわにし口をはさんだ。
「ああ、それもあとでまとめて説明してやるわい。今はまずヴィオレッタ嬢暗殺未遂事件から片付けていこうではないか」
ウルマノフは毅然とした態度で告げた。
「暗殺未遂! いかがわしい連中が何を言っているのやら。おおかた身持ちの悪い娘が、会議ではああいったけど後で気が変わって公子にすり寄って出奔しようとしただけじゃないの」
公爵代行夫人カルミアがせせら笑った。
「ほほう、さすがは二人を心中に見せかけて殺そうとした者の発想じゃの」
ウルマノフが負けずに言い返す。
「なっ……、何を証拠にっ!」
カルミアはキッとウルマノフたちをにらみつけた。
「証拠? 証拠を見せればいいのじゃな、おーい!」
ウルマノフはマントの集団に声をかけた。
すると、集団の先頭にいた一番体格のいい男がマントを脱ぎその姿を現した。
「騎士スコルパス、ただいま帰還いたしました。国王陛下!」
男は片膝を立ててひざまずき、国王に対し騎士の礼をとった。
その様を見た他の男たちもマントを取り、スコルパスに倣った。
「そなたたち、生きておったのか!」
事件で犠牲になったはずの王宮騎士団の生還に国王は喜び、王宮中がざわめいた。
雷帝の技で敵を倒した後、スコルパス達王宮騎士団がまだ息があるのを見て、ウルマノフが即座に治癒魔法を施し彼らは一命をとりとめていた。彼らはヴィオレッタたちとともに、いったんブラウシュテルン領内にこもって、傷を治療しながらウルマノフと同じく時を待っていた。
スコルパスは、ユーベルに質問をしようとした矢先にブラウシュテルン公爵家の騎士に襲われたこと、そして、マースがユーベルを誘拐犯の役に仕立て上げヴィオレッタを亡き者にしようとしたことを、国王はじめ広間にいる者たちに語った。
「ほれ、ブラウシュテルン公爵家側の証人ならここにおるぞ」
ウルマノフはそういって縛り上げている者たちを投げ出すように場の中央に押し出した。
「マース?!」
その中に同家の騎士団長マースの姿もあった。
私たちに同行してここまで来ていたマースは一体、と、代行夫妻は混乱した。
「もう元に戻っていいか、ジイさん」
ブラウシュテルン家側に立っていた方の『マース』が、騎士の口調からぞんざいな口調に代わり言った。そしてこげ茶色の髪の少年に変化した。
「あの者は!」
それは老魔導士ウルマノフにいつもついていた少年だった。
「ああしんど。サフィニアがずっと気遣ってくれたとはいえ、他人の姿のまま一か月も過ごさなきゃならなかったんだからな」
事件の後、サフィニアとともに帰ってきた『マース』はヴォルフが魔法で変化したものだった。
『マース』は代行夫妻が理想としたシナリオ通りに事が進んだように語って彼らを油断させ、ウルマノフ一行がさらに証拠をそろえ、ことを明るみにするに最も適切な日まで待っていたのだった。
「国王陛下に長らくの無沙汰お詫び申し上げます」
ヴィオレッタがまず前に進み出て国王にカーテシーであいさつをした。
「うむ、そなたも無事で何よりじゃ」
フェーブル王は戸惑いを隠せぬままに言った。
「はい、幸いにもこちらにいらっしゃる方々にお守りいただき危機を脱することができました。本日まかり越しましたのは、ノルドベルク公子に対する不名誉な流言を私の口から取り消させるためでございます」
「公子に対する不名誉な……、つまり、この場にて言われていた、公子がそなたを誘拐しようとしたという話は嘘じゃというのかな?」
「はい」
ヴィオレッタは信頼できる者から自分の命が狙われていることを知り、安全のため王都を離れブラウシュテルン領内に向かおうとするのを公子が協力してくれたことを話した。
「嘘だ! 国王陛下、先導している者がそもそも陛下を暗殺しようとした者なのですよ。そのような者たちとともにやってきた者たちの言葉が信用できますか? ヴィオレッタも魔導士に洗脳、あるいは操作されているに違いない!」
ヴィオレッタの説明を遮って父の公爵代行ががなり立てた。
「暗殺? 国王はぴんぴんしとるではないか。だからわしは最初から言っておったじゃろうが。熱はいずれ下がると。まあ、症状が今まで見たことのないものもあったから、不信感は理解できたがの」
蒸し返された暗殺未遂の件をウルマノフは一蹴した。
「医師団は今まで見たこともない症状で戸惑っておりました。だからわたくしは……」
ダリア王妃も不信感をあらわにし口をはさんだ。
「ああ、それもあとでまとめて説明してやるわい。今はまずヴィオレッタ嬢暗殺未遂事件から片付けていこうではないか」
ウルマノフは毅然とした態度で告げた。
「暗殺未遂! いかがわしい連中が何を言っているのやら。おおかた身持ちの悪い娘が、会議ではああいったけど後で気が変わって公子にすり寄って出奔しようとしただけじゃないの」
公爵代行夫人カルミアがせせら笑った。
「ほほう、さすがは二人を心中に見せかけて殺そうとした者の発想じゃの」
ウルマノフが負けずに言い返す。
「なっ……、何を証拠にっ!」
カルミアはキッとウルマノフたちをにらみつけた。
「証拠? 証拠を見せればいいのじゃな、おーい!」
ウルマノフはマントの集団に声をかけた。
すると、集団の先頭にいた一番体格のいい男がマントを脱ぎその姿を現した。
「騎士スコルパス、ただいま帰還いたしました。国王陛下!」
男は片膝を立ててひざまずき、国王に対し騎士の礼をとった。
その様を見た他の男たちもマントを取り、スコルパスに倣った。
「そなたたち、生きておったのか!」
事件で犠牲になったはずの王宮騎士団の生還に国王は喜び、王宮中がざわめいた。
雷帝の技で敵を倒した後、スコルパス達王宮騎士団がまだ息があるのを見て、ウルマノフが即座に治癒魔法を施し彼らは一命をとりとめていた。彼らはヴィオレッタたちとともに、いったんブラウシュテルン領内にこもって、傷を治療しながらウルマノフと同じく時を待っていた。
スコルパスは、ユーベルに質問をしようとした矢先にブラウシュテルン公爵家の騎士に襲われたこと、そして、マースがユーベルを誘拐犯の役に仕立て上げヴィオレッタを亡き者にしようとしたことを、国王はじめ広間にいる者たちに語った。
「ほれ、ブラウシュテルン公爵家側の証人ならここにおるぞ」
ウルマノフはそういって縛り上げている者たちを投げ出すように場の中央に押し出した。
「マース?!」
その中に同家の騎士団長マースの姿もあった。
私たちに同行してここまで来ていたマースは一体、と、代行夫妻は混乱した。
「もう元に戻っていいか、ジイさん」
ブラウシュテルン家側に立っていた方の『マース』が、騎士の口調からぞんざいな口調に代わり言った。そしてこげ茶色の髪の少年に変化した。
「あの者は!」
それは老魔導士ウルマノフにいつもついていた少年だった。
「ああしんど。サフィニアがずっと気遣ってくれたとはいえ、他人の姿のまま一か月も過ごさなきゃならなかったんだからな」
事件の後、サフィニアとともに帰ってきた『マース』はヴォルフが魔法で変化したものだった。
『マース』は代行夫妻が理想としたシナリオ通りに事が進んだように語って彼らを油断させ、ウルマノフ一行がさらに証拠をそろえ、ことを明るみにするに最も適切な日まで待っていたのだった。
0
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】五度の人生を不幸な出来事で幕を閉じた転生少女は、六度目の転生で幸せを掴みたい!
アノマロカリス
ファンタジー
「ノワール・エルティナス! 貴様とは婚約破棄だ!」
ノワール・エルティナス伯爵令嬢は、アクード・ベリヤル第三王子に婚約破棄を言い渡される。
理由を聞いたら、真実の相手は私では無く妹のメルティだという。
すると、アクードの背後からメルティが現れて、アクードに肩を抱かれてメルティが不敵な笑みを浮かべた。
「お姉様ったら可哀想! まぁ、お姉様より私の方が王子に相応しいという事よ!」
ノワールは、アクードの婚約者に相応しくする為に、様々な事を犠牲にして尽くしたというのに、こんな形で裏切られるとは思っていなくて、ショックで立ち崩れていた。
その時、頭の中にビジョンが浮かんできた。
最初の人生では、日本という国で淵東 黒樹(えんどう くろき)という女子高生で、ゲームやアニメ、ファンタジー小説好きなオタクだったが、学校の帰り道にトラックに刎ねられて死んだ人生。
2度目の人生は、異世界に転生して日本の知識を駆使して…魔女となって魔法や薬学を発展させたが、最後は魔女狩りによって命を落とした。
3度目の人生は、王国に使える女騎士だった。
幾度も国を救い、活躍をして行ったが…最後は王族によって魔物侵攻の盾に使われて死亡した。
4度目の人生は、聖女として国を守る為に活動したが…
魔王の供物として生贄にされて命を落とした。
5度目の人生は、城で王族に使えるメイドだった。
炊事・洗濯などを完璧にこなして様々な能力を駆使して、更には貴族の妻に抜擢されそうになったのだが…同期のメイドの嫉妬により捏造の罪をなすりつけられて処刑された。
そして6度目の現在、全ての前世での記憶が甦り…
「そうですか、では婚約破棄を快く受け入れます!」
そう言って、ノワールは城から出て行った。
5度による浮いた話もなく死んでしまった人生…
6度目には絶対に幸せになってみせる!
そう誓って、家に帰ったのだが…?
一応恋愛として話を完結する予定ですが…
作品の内容が、思いっ切りファンタジー路線に行ってしまったので、ジャンルを恋愛からファンタジーに変更します。
今回はHOTランキングは最高9位でした。
皆様、有り難う御座います!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる