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第3章 北の大国フェーブル
第100話 本性を表すマース
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「スコルパス殿! この男は王太子殿下の婚約者であらせられるヴィオレッタ様に邪なる恋慕の情を抱くもお嬢様からは拒絶された。しかしそれではあきらめきれず言葉巧みに誘い出し、自国へ連れ去ろうとしているのです。いや、言葉巧みにと言いましたが、それすらなく妹のサフィニア様を人質にしてヴィオレッタ様を従わせているのでしょう。状況的に見てそれ以外に考えられますか!」
たたみかけるようにマースがユーベルを糾弾した。
「お待ちください! 私から説明いたします」
サフィニアやクロの制止をふりきってヴィオレッタが馬車から出てきた。
「ヴィオレッタ殿、ここは危険だ。あなたは中にいてください」
ユーベルがヴィオレッタに念を押すように言った。
「しかしそれでは公子様が……」
「心配はいりません。話だけならわたしでもできますし……」
しかしヴィオレッタはまだ心配そうな顔をしている。
「そうよ、お姉さま、説明なら私がするわ」
彼女の後ろから出てきたサフィニアがユーベルの言葉を補強するように言った。
「お嬢様がた、ようやくお出ましになったな」
それをみてマースがひそかにほくそ笑む。
「お姉さまの命を狙う者たちのたくらみを私は知っているの。偶然耳にしたんだけどね。それで公子に頼んでひそかに王都を脱出する最中なのよ」
たくらみの主が「自分の両親」であることはまだいわず、サフィニアは騎士団長スコルパスに説明しようとした、しかし、
「と、話すように、子供に対して言い聞かせでもしましたかな、公子?」
サフィニアの言はあたかもユーベルの誘導であるかのように、マースは語った。
「違うわ、マース! 本当に私は……」
「ご両親はあなたのことをこの上なく大切に思っておられます。さ、早くこちらへ」
「いやよ、私は本当に……」
「あなたはまだ子供だ、サフィニアお嬢様。あなたの目にはご両親の方が一見よくないように映ったとしても、それはあなたの幸せにもつながるのです」
「ちがう……」
マースとサフィニアのやり取りは事情を知らない者には、反抗期の娘を諭す大人のそれにしか聞こえなかった。
心を決めねば、と、サフィニアは思った。
今までも、姉に対する両親のたくらみを耳にするたびに絶望しては、なんとかうまくやり過ごして彼らにそれをあきらめさせる方法を、無意識のうちに選ぼうとしていたのかもしれない。今回も姉のヴィオレッタが成人年齢の十八になるまでブラウシュテルン領にこもり、その後別の後見人を立てて公爵位を継げば、彼らもあきらめてくれるのではないかという希望的観測がサフィニアの中にはあった。
でも、それは私の願望に過ぎないのだわ。
両親の心は変わらない、変えることはできない、ならば私も自分の信念に基づいてやるべきことを選ばねば!
彼らのたくらみを黙認しても自分にとっては痛くもかゆくもない。
でも、もともとのサフィニアがそれでいいやと思っていたなら、前世の笑美の人格は目覚めなかったはずだ。
決心はすでについていたはずじゃないか。
「公子に言い含められたのではありません! 聞いてください、騎士団長殿! 私は……」
「お嬢様っ!」
王宮騎士団長スコルパスに何かを告げようとしたサフィニアの言葉を、マースがまたもや遮った。
「マース殿、少し黙ってていただきたい。とりあえずサフィニア嬢の話をお聞きしましょう」
王宮騎士団長スコルパスがマースをいさめた。
「ありがとうございます。実は私はブラウシュテルン家で……」
意を決して両親のたくらみを暴露しようとしたサフィニアであったが……。
「ぐわあっ!」
スコルパスの叫び声で再び中断させられた。
それは後ろからマースに剣で貫かれてあげた叫び声であった。
「「「「「「「「……っ?!」」」」」」」」
その場にいた多くの者が意表を突かれ声を上げられなかった。
「スコルパス殿、あなたには、ヴィオレッタ嬢を誘拐しようとしたノルドベルク公子と乱闘の上、討ち死にという役をつとめていただく。お嬢様がたがお出ましになった今、もう王宮騎士団は用済みだ、始末しろ!」
たたみかけるようにマースがユーベルを糾弾した。
「お待ちください! 私から説明いたします」
サフィニアやクロの制止をふりきってヴィオレッタが馬車から出てきた。
「ヴィオレッタ殿、ここは危険だ。あなたは中にいてください」
ユーベルがヴィオレッタに念を押すように言った。
「しかしそれでは公子様が……」
「心配はいりません。話だけならわたしでもできますし……」
しかしヴィオレッタはまだ心配そうな顔をしている。
「そうよ、お姉さま、説明なら私がするわ」
彼女の後ろから出てきたサフィニアがユーベルの言葉を補強するように言った。
「お嬢様がた、ようやくお出ましになったな」
それをみてマースがひそかにほくそ笑む。
「お姉さまの命を狙う者たちのたくらみを私は知っているの。偶然耳にしたんだけどね。それで公子に頼んでひそかに王都を脱出する最中なのよ」
たくらみの主が「自分の両親」であることはまだいわず、サフィニアは騎士団長スコルパスに説明しようとした、しかし、
「と、話すように、子供に対して言い聞かせでもしましたかな、公子?」
サフィニアの言はあたかもユーベルの誘導であるかのように、マースは語った。
「違うわ、マース! 本当に私は……」
「ご両親はあなたのことをこの上なく大切に思っておられます。さ、早くこちらへ」
「いやよ、私は本当に……」
「あなたはまだ子供だ、サフィニアお嬢様。あなたの目にはご両親の方が一見よくないように映ったとしても、それはあなたの幸せにもつながるのです」
「ちがう……」
マースとサフィニアのやり取りは事情を知らない者には、反抗期の娘を諭す大人のそれにしか聞こえなかった。
心を決めねば、と、サフィニアは思った。
今までも、姉に対する両親のたくらみを耳にするたびに絶望しては、なんとかうまくやり過ごして彼らにそれをあきらめさせる方法を、無意識のうちに選ぼうとしていたのかもしれない。今回も姉のヴィオレッタが成人年齢の十八になるまでブラウシュテルン領にこもり、その後別の後見人を立てて公爵位を継げば、彼らもあきらめてくれるのではないかという希望的観測がサフィニアの中にはあった。
でも、それは私の願望に過ぎないのだわ。
両親の心は変わらない、変えることはできない、ならば私も自分の信念に基づいてやるべきことを選ばねば!
彼らのたくらみを黙認しても自分にとっては痛くもかゆくもない。
でも、もともとのサフィニアがそれでいいやと思っていたなら、前世の笑美の人格は目覚めなかったはずだ。
決心はすでについていたはずじゃないか。
「公子に言い含められたのではありません! 聞いてください、騎士団長殿! 私は……」
「お嬢様っ!」
王宮騎士団長スコルパスに何かを告げようとしたサフィニアの言葉を、マースがまたもや遮った。
「マース殿、少し黙ってていただきたい。とりあえずサフィニア嬢の話をお聞きしましょう」
王宮騎士団長スコルパスがマースをいさめた。
「ありがとうございます。実は私はブラウシュテルン家で……」
意を決して両親のたくらみを暴露しようとしたサフィニアであったが……。
「ぐわあっ!」
スコルパスの叫び声で再び中断させられた。
それは後ろからマースに剣で貫かれてあげた叫び声であった。
「「「「「「「「……っ?!」」」」」」」」
その場にいた多くの者が意表を突かれ声を上げられなかった。
「スコルパス殿、あなたには、ヴィオレッタ嬢を誘拐しようとしたノルドベルク公子と乱闘の上、討ち死にという役をつとめていただく。お嬢様がたがお出ましになった今、もう王宮騎士団は用済みだ、始末しろ!」
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