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第3章 北の大国フェーブル
第98話 馬車の暴走
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王都から東に進み広大な農村地帯を抜けると、広葉樹の林に入り、そこを突っ切るとフェーブルとシュウィツアの国境の一番南の関門に行き当たる。
現在、公子と公爵令嬢たちの乗った馬車は林の中を進んでいる。
「私が彼らに説明いたします。公子様を罪人にするわけにはまいりません」
追手がこっちに向かっていることを聞いたヴィオレッタがユーベルに言った。
「いえ、それは危険です。一行の中には公爵家の騎士も交じっているのですから。あなたは絶対に馬車から出ないように」
ユーベルは強く主張した。
「ねえ、ちょっと大変よ、周囲の様子を窺おうと分身を馬車の外に飛ばしてみていたら、御者の様子がおかしいのよ。気を失っている……」
クロが突然一向に告げた。
「なんだって!」
「そんな!」
「うそっ!」
ユーベル、ヴィオレッタ、サフィニアは馬車の中で立ち上がらんばかりに驚いた。
「あーっ! 死んでるわ! 矢が刺さってる!」
クロはさらに衝撃の事実を告げた。
「矢だと!」
「どういうことですか?」
「いったいどこから? 誰が? 狙い撃ちでもされたの?」
三人はさらに狼狽した。
「道理でさっきから速度がやたら上がったと、馬はどういう状態かわかるか?」
ユーベルはクロに聞いた。
「ええっと、ちょっと待って、少しさかのぼって……、何、こいつら、忍者? 木の上に潜んで狙い撃ちされたみたい」
「『さかのぼる』? 『ニンジャ』? 言っていることがよくわからん!」
「数分前に何者かが木の陰に潜んで御者を撃ったわけよ。矢をバババッとたくさん撃ったから、馬がパニくってるわ」
「『パニク』……?」
「混乱しているっていうことかしらね」
「つまり、何者かに矢を射かけられて御者は死亡、馬は興奮している状態というわけだな。まずいな。この林を突っ切ればフィリッシェ川だが、下手をすれば馬車ごと崖から川に転落するぞ」
実は王国には各地に『影』という隠密部隊が配置されており、ユーベルたち一行の行方もすでに把握されていた。その情報を得た公爵代行子飼いのマースは、昔のつてで腕の立つ現地のならず者に魔道具で連絡を取り、馬車を襲撃するよう頼んでおいたのだった。
代行夫妻の実子サフィニアだけは生かして捕獲しなければならないが、ただ、襲撃することのみを頼まれた連中は深く考えず、木の上から狙撃するやり方を選び、御者の死と馬の暴走を確認するとすぐ姿を消した。
馬車の速度に追いつけなくなったともいえるが。
「と、とにかく興奮している馬を何とかしないと!」
クロがワタワタしながら言った。
「僕が出る、馬車の外壁を伝って何とか御者の席まで行ければ……」
ユーベルがうけおった。
「無茶だわ、この速度じゃ外に出ようとした瞬間振り落とされるのが落ちよ」
「そうですわ」
公爵令嬢たちが言った。
「しかし他に方法が!」
ユーベルがそう言いながら、馬車のドアに手をかけた。
魔導士ウルマノフにあうために地下牢の入り口を強行突破しようとした件といい、けっこう向こう見ずなところがあるようだ。
「待って待って、あたしに任せて。短い距離なら移動できるわ」
クロがユーベルを制止した。
そして再び、ユーベルに自分を抱き上げさせ御者の席へ瞬間移動した。
御者の遺体はすでに猛スピードで走る馬車から振り落とされていた。
馬たちは傷ついてはいなかったが、目の前を何本もの矢がかすめていったことで興奮状態となり暴走している。
ユーベルは手綱を左右交互に軽く引っ張っぱり馬を落ち着かせ、徐々に走る速度を下げさせた。
ようやく馬がゆっくり走る速度に戻ったのは、フィリッシェ川沿いの丁字路の直前であった。
間一髪で馬車の速度を落としほっと行き着く間もなく、ユーベルは、道の横手から騎馬隊が近づいてくるのに気づき身構えるのであった。
現在、公子と公爵令嬢たちの乗った馬車は林の中を進んでいる。
「私が彼らに説明いたします。公子様を罪人にするわけにはまいりません」
追手がこっちに向かっていることを聞いたヴィオレッタがユーベルに言った。
「いえ、それは危険です。一行の中には公爵家の騎士も交じっているのですから。あなたは絶対に馬車から出ないように」
ユーベルは強く主張した。
「ねえ、ちょっと大変よ、周囲の様子を窺おうと分身を馬車の外に飛ばしてみていたら、御者の様子がおかしいのよ。気を失っている……」
クロが突然一向に告げた。
「なんだって!」
「そんな!」
「うそっ!」
ユーベル、ヴィオレッタ、サフィニアは馬車の中で立ち上がらんばかりに驚いた。
「あーっ! 死んでるわ! 矢が刺さってる!」
クロはさらに衝撃の事実を告げた。
「矢だと!」
「どういうことですか?」
「いったいどこから? 誰が? 狙い撃ちでもされたの?」
三人はさらに狼狽した。
「道理でさっきから速度がやたら上がったと、馬はどういう状態かわかるか?」
ユーベルはクロに聞いた。
「ええっと、ちょっと待って、少しさかのぼって……、何、こいつら、忍者? 木の上に潜んで狙い撃ちされたみたい」
「『さかのぼる』? 『ニンジャ』? 言っていることがよくわからん!」
「数分前に何者かが木の陰に潜んで御者を撃ったわけよ。矢をバババッとたくさん撃ったから、馬がパニくってるわ」
「『パニク』……?」
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実は王国には各地に『影』という隠密部隊が配置されており、ユーベルたち一行の行方もすでに把握されていた。その情報を得た公爵代行子飼いのマースは、昔のつてで腕の立つ現地のならず者に魔道具で連絡を取り、馬車を襲撃するよう頼んでおいたのだった。
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馬車の速度に追いつけなくなったともいえるが。
「と、とにかく興奮している馬を何とかしないと!」
クロがワタワタしながら言った。
「僕が出る、馬車の外壁を伝って何とか御者の席まで行ければ……」
ユーベルがうけおった。
「無茶だわ、この速度じゃ外に出ようとした瞬間振り落とされるのが落ちよ」
「そうですわ」
公爵令嬢たちが言った。
「しかし他に方法が!」
ユーベルがそう言いながら、馬車のドアに手をかけた。
魔導士ウルマノフにあうために地下牢の入り口を強行突破しようとした件といい、けっこう向こう見ずなところがあるようだ。
「待って待って、あたしに任せて。短い距離なら移動できるわ」
クロがユーベルを制止した。
そして再び、ユーベルに自分を抱き上げさせ御者の席へ瞬間移動した。
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馬たちは傷ついてはいなかったが、目の前を何本もの矢がかすめていったことで興奮状態となり暴走している。
ユーベルは手綱を左右交互に軽く引っ張っぱり馬を落ち着かせ、徐々に走る速度を下げさせた。
ようやく馬がゆっくり走る速度に戻ったのは、フィリッシェ川沿いの丁字路の直前であった。
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