92 / 120
第3章 北の大国フェーブル
第92話 階段にて相談
しおりを挟む
「そうそう、ウルマ……、ノフ魔導士のところに行く途中だったのよ」
ロゼが思い出したように言った。彼の正体が精霊ウルマフと知ってからは、仮の名ウルマノフを忘れてつい本名を言いそうになってしまう。
「ああ、牢にぶち込まれたウルちゃんのところね。確か連れてきた子供も一緒なんでしょ。ウルならこの程度でダメージくらうことはないだろうけど、子供の方は生身の人間なんだからさ……」
クロのおしゃべりが精霊仲間だけの秘密の部分にまで抵触している。
「ちょっと、クロ……」
ロゼは慌ててクロのおしゃべりを制止した。
クロはユーベルもいたことを思い出して、ゴメンとばかりにロゼの顔に頭をこすりつけた。
「そういえば、あなたはなぜウルマ……、ノフ魔導士を危険を冒してまで訪ねようとしたの?」
ロゼは急いで話を変えた。
ユーベルは不審がった。
なんなのだろう、この者たちは?
先ほども『キンダイニホン』とか『シボースイテージコク』とか、それから『カンテー』とか、とにかく意味不明な語を連発してしゃべっていたし、自分の知らないノルドベルクについて知っているようなそぶりもしている。
怪しむべきところは山ほどある。でも、ヴィオレッタ嬢を助けようとしているのはどうやら本気だ。
その一点においても、彼女たちを信じてみる方が賢明だろう。
相手の方もいろいろ教えてくれたのだし、ここはお互いが持っている情報を共有したほうが良い。
「実は先日、ウルマノフ魔導士と一緒にある人物の墓を掘り返したのですが……」
ユーベルは墓荒らしの夜に見たことを話すことにした。
墓の主はマグノリア・ブラウシュテルン。
現在命を狙われているヴィオレッタの生母である。
死亡したのは墓碑銘から見て約五年ほど前だが、遺体は全く腐敗しておらず眠るがごとき状態を保っていた。ウルマノフは彼女の遺体から何か薬品のようなものを抽出しそれを鑑定してみると言った。
「へえ、そっちでも薬か」
ロゼが意味深につぶやいた。
「ねえ、クロ、あなた今すぐブラウシュテルン邸まで移動できる?」
ロゼはクロに質問した。
「分身をいくつか配置しているから大丈夫よ」
クロが答える。
「じゃあ、一人連れていくことも可能?」
「一人くらいならなんとかね」
クロは分身体を別の場所に飛ばす能力があり、それがいる場所なら本体も瞬時に移動できる。
さらにロゼとクロはお互いのいるところに瞬時に移動できたり、互いに互いの居場所を入れ替えたりすることができる。
「ユーベル公子、どうされます? クロと一緒に今すぐブラウシュテルン邸まで移動することもできますが、このまま予定通りウルマノフ魔導士に会いに行きますか?」
ロゼが改めてユーベルに問うた。
「ブラウシュテルン邸まで移動?」
ユーベルが問い返した。
「ええ、クロと一緒なら瞬時に移動することができます。あの家の者はほとんど信用できないけど、妹のサフィニアならいっしょにヴィオレッタを説得してこっそり連れ出すことはできるかもしれません。猶予はあまりないですからね」
「確かに、優先すべきはヴィオレッタ嬢の保護」
しかし、瞬時に移動、と、いう言葉にユーベルは疑念も抱いた。
「私はどうしてもウルマフ、ごほっ、ウルマノフ魔導士に調べてほしいことがあるからすぐには彼女のところにいけないの。あなたが代わりに言ってくれるなら、私があなたの話もまとめて彼に聞いておくわ」
ロゼがユーベルに提案した。
「もしかして怖いの?」
クロは茶化すようにユーベルを小突きながら言った。
「怖いだなんて!」
「だったら覚悟決めなさいよ。わざわざ危険を冒しておじいちゃんと接触を図ろうとする根性があるから頼めるかな、と、思ったんだけど、だめなら早く別を当らなきゃならないだから!」
「怖くなんかありません、大丈夫です! いろいろこっちの常識から外れたことばかり起きるので、頭を整理していただけです」
「じゃ、決まりね、とりあえずサフィニアのところに戻りましょう」
ロゼは腕に抱いていたクロをユーベルに手渡した。
「あたしの身体をしっかり持って絶対離すじゃないわよ。離したらあんた、次元のはざまに迷い込んで帰ってこれなくなるからね」
クロが注意事項を語りユーベルにくぎを刺した、そして、
「じゃあ、行ってくるわね、ロゼ」
そういうと、ユーベルとともにクロの姿はロゼの目の前から掻き消えた。
ロゼが思い出したように言った。彼の正体が精霊ウルマフと知ってからは、仮の名ウルマノフを忘れてつい本名を言いそうになってしまう。
「ああ、牢にぶち込まれたウルちゃんのところね。確か連れてきた子供も一緒なんでしょ。ウルならこの程度でダメージくらうことはないだろうけど、子供の方は生身の人間なんだからさ……」
クロのおしゃべりが精霊仲間だけの秘密の部分にまで抵触している。
「ちょっと、クロ……」
ロゼは慌ててクロのおしゃべりを制止した。
クロはユーベルもいたことを思い出して、ゴメンとばかりにロゼの顔に頭をこすりつけた。
「そういえば、あなたはなぜウルマ……、ノフ魔導士を危険を冒してまで訪ねようとしたの?」
ロゼは急いで話を変えた。
ユーベルは不審がった。
なんなのだろう、この者たちは?
先ほども『キンダイニホン』とか『シボースイテージコク』とか、それから『カンテー』とか、とにかく意味不明な語を連発してしゃべっていたし、自分の知らないノルドベルクについて知っているようなそぶりもしている。
怪しむべきところは山ほどある。でも、ヴィオレッタ嬢を助けようとしているのはどうやら本気だ。
その一点においても、彼女たちを信じてみる方が賢明だろう。
相手の方もいろいろ教えてくれたのだし、ここはお互いが持っている情報を共有したほうが良い。
「実は先日、ウルマノフ魔導士と一緒にある人物の墓を掘り返したのですが……」
ユーベルは墓荒らしの夜に見たことを話すことにした。
墓の主はマグノリア・ブラウシュテルン。
現在命を狙われているヴィオレッタの生母である。
死亡したのは墓碑銘から見て約五年ほど前だが、遺体は全く腐敗しておらず眠るがごとき状態を保っていた。ウルマノフは彼女の遺体から何か薬品のようなものを抽出しそれを鑑定してみると言った。
「へえ、そっちでも薬か」
ロゼが意味深につぶやいた。
「ねえ、クロ、あなた今すぐブラウシュテルン邸まで移動できる?」
ロゼはクロに質問した。
「分身をいくつか配置しているから大丈夫よ」
クロが答える。
「じゃあ、一人連れていくことも可能?」
「一人くらいならなんとかね」
クロは分身体を別の場所に飛ばす能力があり、それがいる場所なら本体も瞬時に移動できる。
さらにロゼとクロはお互いのいるところに瞬時に移動できたり、互いに互いの居場所を入れ替えたりすることができる。
「ユーベル公子、どうされます? クロと一緒に今すぐブラウシュテルン邸まで移動することもできますが、このまま予定通りウルマノフ魔導士に会いに行きますか?」
ロゼが改めてユーベルに問うた。
「ブラウシュテルン邸まで移動?」
ユーベルが問い返した。
「ええ、クロと一緒なら瞬時に移動することができます。あの家の者はほとんど信用できないけど、妹のサフィニアならいっしょにヴィオレッタを説得してこっそり連れ出すことはできるかもしれません。猶予はあまりないですからね」
「確かに、優先すべきはヴィオレッタ嬢の保護」
しかし、瞬時に移動、と、いう言葉にユーベルは疑念も抱いた。
「私はどうしてもウルマフ、ごほっ、ウルマノフ魔導士に調べてほしいことがあるからすぐには彼女のところにいけないの。あなたが代わりに言ってくれるなら、私があなたの話もまとめて彼に聞いておくわ」
ロゼがユーベルに提案した。
「もしかして怖いの?」
クロは茶化すようにユーベルを小突きながら言った。
「怖いだなんて!」
「だったら覚悟決めなさいよ。わざわざ危険を冒しておじいちゃんと接触を図ろうとする根性があるから頼めるかな、と、思ったんだけど、だめなら早く別を当らなきゃならないだから!」
「怖くなんかありません、大丈夫です! いろいろこっちの常識から外れたことばかり起きるので、頭を整理していただけです」
「じゃ、決まりね、とりあえずサフィニアのところに戻りましょう」
ロゼは腕に抱いていたクロをユーベルに手渡した。
「あたしの身体をしっかり持って絶対離すじゃないわよ。離したらあんた、次元のはざまに迷い込んで帰ってこれなくなるからね」
クロが注意事項を語りユーベルにくぎを刺した、そして、
「じゃあ、行ってくるわね、ロゼ」
そういうと、ユーベルとともにクロの姿はロゼの目の前から掻き消えた。
0
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説

好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。

【完結】ゲーム開始は自由の時! 乙女ゲーム? いいえ。ここは農業系ゲームの世界ですよ?
キーノ
ファンタジー
私はゲームの世界に転生したようです。主人公なのですが、前世の記憶が戻ったら、なんという不遇な状況。これもゲームで語られなかった裏設定でしょうか。
ある日、我が家に勝手に住み着いた平民の少女が私に罵声を浴びせて来ました。乙女ゲーム? ヒロイン? 訳が解りません。ここはファーミングゲームの世界ですよ?
自称妹の事は無視していたら、今度は食事に毒を盛られる始末。これもゲームで語られなかった裏設定でしょうか?
私はどんな辛いことも頑張って乗り越えて、ゲーム開始を楽しみにいたしますわ!
※紹介文と本編は微妙に違います。
完結いたしました。
感想うけつけています。
4月4日、誤字修正しました。
【完結】世界一無知のリュールジスは秘密が多い
三ツ三
ファンタジー
突如地底深くより出現した結晶異物体。
無差別に人々を襲い続ける存在。
「アンダーズ」
人類はアンダーズの圧倒的な戦力により大陸の半分以上を受け渡すことを余儀なくされた。
物言わぬ結晶体に人類が今もなお抵抗出来ているのは人間の体内にある「魔力」を利用することで稼働する。
対アンダーズ砕鋼器具「ブレイカー」
腰部に装着することで内に秘められている「魔力」を具現化する事が可能となった人類の切り札。
「魔力」を持ち「ブレイカー」を扱う事が出来る限られた者達。
「リベリィ」
彼等がアンダーズを倒す事が出来る唯一の希望であった。
そんな世界で「リュールジス」は一人旅を続けていた。
「探し物・・・」
混沌とした各地を身一つで歩き続けたが、一通の手紙が足を止めさせ彼の旅を終わらせたのだった。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
『自重』を忘れた者は色々な異世界で無双するそうです。
もみクロ
ファンタジー
主人公はチートです!イケメンです!
そんなイケメンの主人公が竜神王になって7帝竜と呼ばれる竜達や、
精霊に妖精と楽しくしたり、テンプレ入れたりと色々です!
更新は不定期(笑)です!戦闘シーンは苦手ですが頑張ります!
主人公の種族が変わったもしります。
他の方の作品をパクったり真似したり等はしていないので
そういう事に関する批判は感想に書かないで下さい。
面白さや文章の良さに等について気になる方は
第3幕『世界軍事教育高等学校』から読んでください。
絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる