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第3章 北の大国フェーブル
第89話 内偵
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「分身の分身だから、ロゼのところまでは情報を飛ばせないし、映像も少しぼやけるわよ」
ブランシュテルン公爵家をうろついているクロの姿(複数いる)はサフィニアにしか見えないように細工してある。
現在邸内にいるクロは、サフィニアのところに本体一匹、姉のヴィオレッタのところに分身が一匹であった。そして母のカルミアのところにも一匹つけたかったが、王妃のところにも一匹飛ばしていてすでに分身体を出すのはギリギリだったので、姉についていた分身体の方を二つに分けてそれぞれにつかせた。
「ヴィオレッタの方は常に安全が確認できればいいだけだし、カルミアの方は旦那とまたなにか悪だくみする可能性があるから、音声機能の方を強化しておくわね」
そう言ってクロはサフィニアの部屋で、カルミアの様子を宙に映像として浮かべた。
「へえ、そういう風に観察できるんだ」
ホログラムのような映像を見てサフィニアは感心した。
「まあね、でもずっと出していると消耗するし、あんたもずっと見張っているわけにはいかないでしょ。気になる動向があれば知らせるから、あんたはそれまで普通にしてていいわよ」
そう言ってクロは目の前の映像を収めた。
事態が動き出したのは、その日の夜、普段ならサフィニアはとっくに眠っていた時間である。
ベットに入ったばかりのサフィニアをクロが起こした。
「連中がヴィオレッタを殺す計画を話し始めたわ」
サフィニアが目をこすって起き上がるとクロは映像を映し始めた。
「数分前に巻き戻した状態から映すわね」
そんなこともできるのか!
録画しながら数分遅れでそれを視聴することもできるとは、現代日本のオーディオ機器みたいな猫だな、と、サフィニアは感心した。
いやいや、のんびり感心していられる事態じゃない。
サフィニアは両親が映った映像を注視した。
そこは二人の寝室だった。
使用人たちも下がらせたのち、他人には言えない継娘の殺害計画を相談し始めたのだ。
「なるほど、ノルドベルク公子をヴィオレッタの心中相手にするというわけか」
父が母に話しかけていた。
「ええ、今の状態のロゼッタ嬢をこちらの思い通りに動かすのは至難の業ですから、ヴィオレッタにのぼせ上ったあの公子を利用する方が得策だと思いましたの」
「ふむ……」
「ロゼッタ嬢ももちろん排除したい存在ですが、それよりもあの娘が成人する前に始末して、旦那様が公爵位を得るのを優先したほうが良いのではと……」
「確かに、その通りだな」
両親はヴィオレッタとともに殺す標的をロゼッタ嬢からノルドベルク公子に変えようとしている。
「公爵の立場を手に入れてから、王妃やロゼッタ嬢をこちらに取り込むことも可能だし、悪くないな」
「そう言っていただけると考えた甲斐がありましたわ」
「さすが私の妻だ。それで、当日はどうするつもりなんだ?」
「ヴィオレッタには公子の相手をするように言いつけています。二人でゆっくり話せるようにと別室に案内して他の招待客から隔離し、そこにうちの手練れの者を数名待機させ彼らにとどめを刺すつもりです」
「なるほど、公子は剣の技術にも熟練しているとの評判だからなるべく多く人を用意するといい。二人を囲んだところを騒がれて他の客に気づかれたら厄介だから、ヴィオレッタの方は先に殺しておいて、公子を部屋に案内したらすぐに斬りこむんだ。別々の場所で殺した後で一緒に死体を転がして置けば心中のように見せかけられるだろう」
「そういうやり方もあるのですね、さすがですわ」
両親の会話を聞いて、彼らは本当に悪人なのだな、と、サフィニアは実感した。わかっちゃいるけど、何度聞いても自分の両親が殺人計画を相談しているところなど慣れることができない。
しかしとにかくあの二人、姉のヴィオレッタとノルドベルク公子を助けなければ!
みすみす殺させたりははしない!
サフィニアとそしてクロはその意志を強くした。
ブランシュテルン公爵家をうろついているクロの姿(複数いる)はサフィニアにしか見えないように細工してある。
現在邸内にいるクロは、サフィニアのところに本体一匹、姉のヴィオレッタのところに分身が一匹であった。そして母のカルミアのところにも一匹つけたかったが、王妃のところにも一匹飛ばしていてすでに分身体を出すのはギリギリだったので、姉についていた分身体の方を二つに分けてそれぞれにつかせた。
「ヴィオレッタの方は常に安全が確認できればいいだけだし、カルミアの方は旦那とまたなにか悪だくみする可能性があるから、音声機能の方を強化しておくわね」
そう言ってクロはサフィニアの部屋で、カルミアの様子を宙に映像として浮かべた。
「へえ、そういう風に観察できるんだ」
ホログラムのような映像を見てサフィニアは感心した。
「まあね、でもずっと出していると消耗するし、あんたもずっと見張っているわけにはいかないでしょ。気になる動向があれば知らせるから、あんたはそれまで普通にしてていいわよ」
そう言ってクロは目の前の映像を収めた。
事態が動き出したのは、その日の夜、普段ならサフィニアはとっくに眠っていた時間である。
ベットに入ったばかりのサフィニアをクロが起こした。
「連中がヴィオレッタを殺す計画を話し始めたわ」
サフィニアが目をこすって起き上がるとクロは映像を映し始めた。
「数分前に巻き戻した状態から映すわね」
そんなこともできるのか!
録画しながら数分遅れでそれを視聴することもできるとは、現代日本のオーディオ機器みたいな猫だな、と、サフィニアは感心した。
いやいや、のんびり感心していられる事態じゃない。
サフィニアは両親が映った映像を注視した。
そこは二人の寝室だった。
使用人たちも下がらせたのち、他人には言えない継娘の殺害計画を相談し始めたのだ。
「なるほど、ノルドベルク公子をヴィオレッタの心中相手にするというわけか」
父が母に話しかけていた。
「ええ、今の状態のロゼッタ嬢をこちらの思い通りに動かすのは至難の業ですから、ヴィオレッタにのぼせ上ったあの公子を利用する方が得策だと思いましたの」
「ふむ……」
「ロゼッタ嬢ももちろん排除したい存在ですが、それよりもあの娘が成人する前に始末して、旦那様が公爵位を得るのを優先したほうが良いのではと……」
「確かに、その通りだな」
両親はヴィオレッタとともに殺す標的をロゼッタ嬢からノルドベルク公子に変えようとしている。
「公爵の立場を手に入れてから、王妃やロゼッタ嬢をこちらに取り込むことも可能だし、悪くないな」
「そう言っていただけると考えた甲斐がありましたわ」
「さすが私の妻だ。それで、当日はどうするつもりなんだ?」
「ヴィオレッタには公子の相手をするように言いつけています。二人でゆっくり話せるようにと別室に案内して他の招待客から隔離し、そこにうちの手練れの者を数名待機させ彼らにとどめを刺すつもりです」
「なるほど、公子は剣の技術にも熟練しているとの評判だからなるべく多く人を用意するといい。二人を囲んだところを騒がれて他の客に気づかれたら厄介だから、ヴィオレッタの方は先に殺しておいて、公子を部屋に案内したらすぐに斬りこむんだ。別々の場所で殺した後で一緒に死体を転がして置けば心中のように見せかけられるだろう」
「そういうやり方もあるのですね、さすがですわ」
両親の会話を聞いて、彼らは本当に悪人なのだな、と、サフィニアは実感した。わかっちゃいるけど、何度聞いても自分の両親が殺人計画を相談しているところなど慣れることができない。
しかしとにかくあの二人、姉のヴィオレッタとノルドベルク公子を助けなければ!
みすみす殺させたりははしない!
サフィニアとそしてクロはその意志を強くした。
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