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第3章 北の大国フェーブル
第88話 殺害計画変更
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建国パーティでのお騒がせ魔導士ウルマノフが国王を害した罪で牢につながれ、王都が騒然としていた頃、ブラウシュテルン公爵代行夫人カルミアは別の件で焦燥に駆られていた。
「まったくの計算外だわ」
カルミアは苛立ち爪を噛んだ。
彼女を悩ませているのは、王太子の愛人ロゼッタ・シーラッハ男爵令嬢である。
ロゼッタを妃として迎えたい王太子の意を受けて、王太子妃教育が彼女に施されることとなった。
男爵家程度の教育しか受けていないのであれば、王太子妃として必要なものを身に着けるまでには相当な日数がかかる。
その間に義理の娘のヴィオレッタとの対立を煽り、この両名がもめたことにして二人を殺害、その後、代行だった夫が正式に公爵となり、自分たちの娘サフィニアを王太子に嫁がせ後継を産ます計画であった。
しかし予想以上にロゼッタ嬢の教養を身に着ける速度が速く、この状況を踏まえ、伯爵家以上でなければ側妃としても迎え入れられないという王国の決まりを、議会にかけて改正しようと王太子側が動き始めている。ロゼッタ嬢は如才なく様々な貴族の家門を味方につけ、個々ではブラウシュテルン公爵家にかなわないが、束になってこられては公爵と言えど圧倒される事態に陥るかもしれない。
王妃も彼女に対する評価を上げ、最近では自室に招いておしゃべりすることもあるという。
ヴィオレッタの方もあと半年もしたら成人年齢の十八歳になる。
そうなれば、女性の場合は後見人が必要だが、正式に公爵位を継ぐことができる。後見人は通常なら実父がなるだろうが、今までの関係性から考えれば彼女がそれを自分の意思で変える可能性もあるし、成人したらそれも可能だ。
継娘の殺害には時間の猶予がそれほどないが、逆に実娘はまだ十二歳なので王太子に嫁がせると言ってもあと数年はかかる。
その間にロゼッタ嬢の方が妃となって男児を出産でもされたら面倒なことになる。(精霊ネイレスが人造人間の中に入って化けているだけなので、妊娠出産は不可能だが、もちろんカルミアが知る由もない。)
カルミアは頭をひねった。そしてしばらく考えた後、ある考えが浮かんだ。
「そうよ、あの娘と一緒に死ぬのが、なにもロゼッタ嬢でなきゃならないわけじゃないわ」
思いたったが吉日とばかりに、カルミアはブラウシュテルン邸でのお茶会の計画を立て始め、その招待客として、建国祭の夜にヴィオレッタに求婚したノルドベルク公子の名を加えた。
「お茶会は一週間後。詳しいことは旦那様と一緒につめればいいわ」
カルミアはほくそ笑んだ。
突然のお茶会の計画で屋敷内はあわただしくなった。
捕らえられたウルマノフの口車に乗って金を渡した貴族たちは、王妃への釈明に忙しく、王都は騒然としている。子供のサフィニアですらこんな時にと首をかしげたが、母のカルミアは、
「こんな時だからこそやるのです」
と、答え、使用人たちをあわただしく動かしていた。
そして、継娘のヴィオレッタに対しても
「お茶会にはシュウィツアのノルドベルク公子にも招待状を送りましたので、いらしていただけるなら、あなたにも対応お願いしますからね」
と、言って、お茶会の出席を命じた。
珍しいこともあるものだ、と、使用人たちも娘のサフィニアも、そしてヴィオレッタ本人すらもいぶかった。というのも、普段カルミアがお茶会を開くときには、ヴィオレッタのことはいない者として扱うことが常だったからである。
「あの、お継母様……」
ヴィオレッタが戸惑いを見せた。
「あなたが王太子殿下しか目に入ってないことはよくわかっていますよ。でも、若いのだからもう少し視野を広げて、社交界というものも知らなければね」
今までにないほどの柔らかい口調でカルミアは継娘のヴィオレッタに話しかけた。
「はい……」
ヴィオレッタは怪訝な顔をしながらも素直にうなづいた。
この光景を物陰から覗き見ていたサフィニアとクロは怪しんだ。
「探りを入れた方がいいわね」
クロの言葉にサフィニアもうなづき、さらなる分身体をカルミアにつけることにした。
「まったくの計算外だわ」
カルミアは苛立ち爪を噛んだ。
彼女を悩ませているのは、王太子の愛人ロゼッタ・シーラッハ男爵令嬢である。
ロゼッタを妃として迎えたい王太子の意を受けて、王太子妃教育が彼女に施されることとなった。
男爵家程度の教育しか受けていないのであれば、王太子妃として必要なものを身に着けるまでには相当な日数がかかる。
その間に義理の娘のヴィオレッタとの対立を煽り、この両名がもめたことにして二人を殺害、その後、代行だった夫が正式に公爵となり、自分たちの娘サフィニアを王太子に嫁がせ後継を産ます計画であった。
しかし予想以上にロゼッタ嬢の教養を身に着ける速度が速く、この状況を踏まえ、伯爵家以上でなければ側妃としても迎え入れられないという王国の決まりを、議会にかけて改正しようと王太子側が動き始めている。ロゼッタ嬢は如才なく様々な貴族の家門を味方につけ、個々ではブラウシュテルン公爵家にかなわないが、束になってこられては公爵と言えど圧倒される事態に陥るかもしれない。
王妃も彼女に対する評価を上げ、最近では自室に招いておしゃべりすることもあるという。
ヴィオレッタの方もあと半年もしたら成人年齢の十八歳になる。
そうなれば、女性の場合は後見人が必要だが、正式に公爵位を継ぐことができる。後見人は通常なら実父がなるだろうが、今までの関係性から考えれば彼女がそれを自分の意思で変える可能性もあるし、成人したらそれも可能だ。
継娘の殺害には時間の猶予がそれほどないが、逆に実娘はまだ十二歳なので王太子に嫁がせると言ってもあと数年はかかる。
その間にロゼッタ嬢の方が妃となって男児を出産でもされたら面倒なことになる。(精霊ネイレスが人造人間の中に入って化けているだけなので、妊娠出産は不可能だが、もちろんカルミアが知る由もない。)
カルミアは頭をひねった。そしてしばらく考えた後、ある考えが浮かんだ。
「そうよ、あの娘と一緒に死ぬのが、なにもロゼッタ嬢でなきゃならないわけじゃないわ」
思いたったが吉日とばかりに、カルミアはブラウシュテルン邸でのお茶会の計画を立て始め、その招待客として、建国祭の夜にヴィオレッタに求婚したノルドベルク公子の名を加えた。
「お茶会は一週間後。詳しいことは旦那様と一緒につめればいいわ」
カルミアはほくそ笑んだ。
突然のお茶会の計画で屋敷内はあわただしくなった。
捕らえられたウルマノフの口車に乗って金を渡した貴族たちは、王妃への釈明に忙しく、王都は騒然としている。子供のサフィニアですらこんな時にと首をかしげたが、母のカルミアは、
「こんな時だからこそやるのです」
と、答え、使用人たちをあわただしく動かしていた。
そして、継娘のヴィオレッタに対しても
「お茶会にはシュウィツアのノルドベルク公子にも招待状を送りましたので、いらしていただけるなら、あなたにも対応お願いしますからね」
と、言って、お茶会の出席を命じた。
珍しいこともあるものだ、と、使用人たちも娘のサフィニアも、そしてヴィオレッタ本人すらもいぶかった。というのも、普段カルミアがお茶会を開くときには、ヴィオレッタのことはいない者として扱うことが常だったからである。
「あの、お継母様……」
ヴィオレッタが戸惑いを見せた。
「あなたが王太子殿下しか目に入ってないことはよくわかっていますよ。でも、若いのだからもう少し視野を広げて、社交界というものも知らなければね」
今までにないほどの柔らかい口調でカルミアは継娘のヴィオレッタに話しかけた。
「はい……」
ヴィオレッタは怪訝な顔をしながらも素直にうなづいた。
この光景を物陰から覗き見ていたサフィニアとクロは怪しんだ。
「探りを入れた方がいいわね」
クロの言葉にサフィニアもうなづき、さらなる分身体をカルミアにつけることにした。
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