王宮の幻花 ~婚約破棄された上に毒殺されました~

玄未マオ

文字の大きさ
上 下
85 / 120
第3章 北の大国フェーブル

第85話 女神の化身

しおりを挟む
 その後部屋に戻ったネイレスは、同じように戻ってきていたロゼやクロと互いの情報を交換した。

「ヴィオレッタ嬢の周辺はすでにそんな危険が迫っていたとはな」

 自分が受けた王太子妃教育より深刻なブラウシュテルン公爵家の出来事について、ネイレスはつぶやいた。

「ええ、そういうわけだから、あたしはこれからブラウシュテルンの方にかかりきりになるから。すでに、ヴィオレッタ嬢と妹のサフィニアそれぞれに分身体をつけて見はらせているわ。サフィニアの方は事情が分かって味方になってくれそうだから、彼女にだけ姿が見えるようにしているから」
 黒猫クロが報告をした。
「ダリア王妃の方も篭絡させるのは時間がかかりそうだから、クロについてもらって弱みを探ろうかなと思っていたんだけどね」
 ネイレスが残念そうに言った。
「う~ん、分身体は多くなればなるほど情報が混乱するから、繊細さと正確さが必要な調査の時に乱発するのは避けたいのよね」
「だめかな~」
「サフィニアの方に本体を置いて、分身体は王妃とヴィオレッタ嬢のとこ。それで何かあった時に戻ってきて報告をってことでいきましょう。ロゼとは常に連絡が取れるようにしてね」
「わかった、それで頼むよ」

 二人と一匹の調査の方針はとりあえず決まった。

 翌日より本格的な王太子妃教育が始まった。
 礼儀作法やダンスなど実践的な授業は最初に魅せてやった。
 音楽や美術などはネイレスの司る概念の管轄内なので問題なくこなせた。
 だが、法律、外交、歴史などは人間だった時に王太子妃教育を受けたことのあるロゼの助力がなければ無理そうだ。

 ロゼにとっても五十年以上前の隣国での経験だったが、多少知識を刷新したら楽勝だった。
 ネイレスことロゼッタ嬢が教師の前で口ごもると、すかさず精霊同士で伝わる「念話」で答えをロゼが教えた。カンニングみたいなもんだが、そのやり方で苦手な科目でも「ロゼッタ嬢」の記憶力の良さを見せつけることができた。

「「「ここまで優秀な方だとは!」」」

 法律、外交、歴史の教師が舌を巻いた。

「「覚えがいい上に実際にやらせてみても巧みですわ」」

 音楽や美術の教師も感嘆のため息をついた

「「いやはや、その立ち居振る舞いの美しさ、まるで女神の化身のような」」

 礼儀作法やダンスを実践させれば、ダメ出し好きな底意地の悪い教師すら称賛するようになった。

 そしてその評判を聞きつけたナーレン王太子が授業を見学にやってきて、ダンスの総仕上げの時に相手役を請け負い、教師たちや使用人や見学者の前で一緒に踊って見せた。その見事さに、教師たちが漏らした『女神の化身』という言葉が嘘ではない、と、見ていた人間すべてが実感し、評判は王宮中に瞬く間に広まった。

「女神じゃなく精霊なんだけどね」

 侍女として彼、いや、彼女ロゼッタについていた精霊ロゼがつぶやいた

「いやあ、見直したぞ、ロゼッタ! まあ、もともと見所があると思ってはいたが、側妃どころか王妃の役もこなせるのではないか」

 王宮の庭を一緒に散歩をしながら上機嫌で王太子がロゼッタに言った。

「もったいないお言葉でございますわ」

 しとやかなしぐさでロゼッタは恥じらいながら王太子に礼を言った。

 二人の少し後をついて歩いている精霊ロゼが化けている侍女のゾフィアは、そんな彼らに生温かい目を向けながら苦笑いをした。

 向かい側からヴィオレッタ嬢が侍女を連れて歩いてくるのが見えた。
 王太子はそれに気づいたのか気づかなかったのかは知らないが、言葉をつづけた。

「ああ、そなたの髪は黄金のように光に映え本当に美しいな。そなたに比べれば誰かの髪など、同じ金髪でもまるで藁だ、ワラワラ、ハハハ」

 あきらかに少し灰味がかったヴィオレッタの金髪を引き合いに出している。
 そんな持って生まれた髪の色にいちゃもんつけてどうするんだ。
 嫌味な王太子だね。

 ロゼは心の中でナーレン王太子に悪態をついた。

 後ろの方からはユーベル・ノルドベルクが小走りでヴィオレッタに近づいてきていた。

「こんにちは、ヴィオレッタ殿。相変わらずお美しい」
 くったくなくユーベルはヴィオレッタに挨拶をした。
「おそれいります、こんにちは」
 ヴィオレッタもにこやかに挨拶を返した。
 正面から歩いてくる王太子とロゼッタ嬢の仲睦まじい様子など一切気にしていないような表情で。

 ユーベルとヴィオレッタは、ロゼッタを連れていた王太子に道を譲り、二組の男女はさも何事もなかったかのように、別々の方向へと歩いていくのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

処理中です...