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第3章 北の大国フェーブル
第80話 二人のサフィニア
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「へっ、急に何言ってるの?」
やぶから棒に、しかし事実を的確に言い当てている黒猫にサフィニアは警戒心をあらわにした。
「名前よ。この前会ったとき私の名前を聞いてあなた言ったわよね」
「何を言ったかしら?」
「私の『クロ』って名前を聞いて毛皮の色からきているのかって」
「ええ、それが何か?」
何が問題かわからないサフィニアにクロは説明を続けた。
「あのね、気づいてないかもしれないけど、この世界ってお互いに違う言語を自動的に翻訳して意思疎通が図れる仕組みが備わっているの。さっき言った『日本』という国を含む世界とは違ってね」
「……?」
「『KURO』という発音を黒い色と解釈するのは、こことは別の世界の『日本』という国で主に話されている言語だけなの。私にこの名をつけてくれた相棒もこの世界に生きていながら、その『日本』という国で生きた前世の記憶も持っていてね、だからあなたももしかして同じじゃないかって思ったわけよ」
サフィニアは目を丸くした。
「あんたやヴィオレッタ嬢がいるブラウシュテルン家についてもちょっと調べさせていただいたのよ。でさ、建国祭からのあんたのふるまいがどうもこれまで聞いた巷の噂と一致しないなって思ってね。まあ、すべてあたしの推理通りだったのね」
「それであなたは一体……?」
「そんな顔しないで、何も取って食おうってわけじゃないんだからさ」
「あたしって何なのかな? やっぱり悪霊かなんかの類? 急に死んじゃって異世界の誰かに憑依して……、でも、どうしたらいいのかこっちとしてもわからないのよ」
サフィニアの言葉に黒猫クロは首をかしげながら、じいっと彼女を凝視した。
「う~ん、憑依っていうとさ、身体に宿る本来の魂とは異質のものが取り憑いている状態になるんだけど、あんたの場合は別にそういうわけじゃないわよ。なんていうか、あんたの魂があんたの身体に宿る魂であることに間違いないと思うわ」
「えっ、でもね、自分の中にうずくまる女の子を感じるの。たぶんあれが本来のサフィニア……」
「ふむ……?」
「そもそも、なんで私はいきなり十二歳のサフィニアになったの? 日本で大学生やってて事故にあって死んだことまでは覚えているのよ。そのあと気づいたらここにいたんだから」
「ちょっとまってね、私たちの一番上のティナに聞いてみるから」
ティナとは精霊王フェレーヌドティナのことである。
クロは虚空を見ながら、何もないところに話しかけてはうんうんとうなづいていた。
「あのね、ティナが言うには、あんたは日本で死んだあと、普通に生まれ変わるときに前世の記憶を失い、新たにこの世界のサフィニアに生まれ変わったの。ただ、何らかのショックで眠っていたはずの前世の人格が目覚めたんだって。前世のあんたの記憶は『日本』という国で死んだところで途絶えているから、古い人格が目覚めた今、サフィニアとして生まれこれまで育ったところをすっ飛ばしていきなりここにやってきたような感じになってるんだって」
「つまり……?」
「つまりあんたは日本で死んだ、えっと……」
「笑美だけど……」
「そう、あんたは笑美であるけど、サフィニアでもあるわけよ」
しかしサフィニアこと笑美は、う~んと腕組をしながら考え納得しかねているようであった。
「じゃあ、私の中にいる、あの子は何?」
サフィニアは自分の中にいるサフィニアと同じ顔した女の子のことを言った。
「ちょっと待ってね。これ以上は経験者の意見も聞いたほうがいいかもね。私の相棒のロゼを呼ぶわ。ロゼ!」
クロがそう呼ぶと、プラチナブロンドに空色の瞳をした美女がその場に現れた。
やぶから棒に、しかし事実を的確に言い当てている黒猫にサフィニアは警戒心をあらわにした。
「名前よ。この前会ったとき私の名前を聞いてあなた言ったわよね」
「何を言ったかしら?」
「私の『クロ』って名前を聞いて毛皮の色からきているのかって」
「ええ、それが何か?」
何が問題かわからないサフィニアにクロは説明を続けた。
「あのね、気づいてないかもしれないけど、この世界ってお互いに違う言語を自動的に翻訳して意思疎通が図れる仕組みが備わっているの。さっき言った『日本』という国を含む世界とは違ってね」
「……?」
「『KURO』という発音を黒い色と解釈するのは、こことは別の世界の『日本』という国で主に話されている言語だけなの。私にこの名をつけてくれた相棒もこの世界に生きていながら、その『日本』という国で生きた前世の記憶も持っていてね、だからあなたももしかして同じじゃないかって思ったわけよ」
サフィニアは目を丸くした。
「あんたやヴィオレッタ嬢がいるブラウシュテルン家についてもちょっと調べさせていただいたのよ。でさ、建国祭からのあんたのふるまいがどうもこれまで聞いた巷の噂と一致しないなって思ってね。まあ、すべてあたしの推理通りだったのね」
「それであなたは一体……?」
「そんな顔しないで、何も取って食おうってわけじゃないんだからさ」
「あたしって何なのかな? やっぱり悪霊かなんかの類? 急に死んじゃって異世界の誰かに憑依して……、でも、どうしたらいいのかこっちとしてもわからないのよ」
サフィニアの言葉に黒猫クロは首をかしげながら、じいっと彼女を凝視した。
「う~ん、憑依っていうとさ、身体に宿る本来の魂とは異質のものが取り憑いている状態になるんだけど、あんたの場合は別にそういうわけじゃないわよ。なんていうか、あんたの魂があんたの身体に宿る魂であることに間違いないと思うわ」
「えっ、でもね、自分の中にうずくまる女の子を感じるの。たぶんあれが本来のサフィニア……」
「ふむ……?」
「そもそも、なんで私はいきなり十二歳のサフィニアになったの? 日本で大学生やってて事故にあって死んだことまでは覚えているのよ。そのあと気づいたらここにいたんだから」
「ちょっとまってね、私たちの一番上のティナに聞いてみるから」
ティナとは精霊王フェレーヌドティナのことである。
クロは虚空を見ながら、何もないところに話しかけてはうんうんとうなづいていた。
「あのね、ティナが言うには、あんたは日本で死んだあと、普通に生まれ変わるときに前世の記憶を失い、新たにこの世界のサフィニアに生まれ変わったの。ただ、何らかのショックで眠っていたはずの前世の人格が目覚めたんだって。前世のあんたの記憶は『日本』という国で死んだところで途絶えているから、古い人格が目覚めた今、サフィニアとして生まれこれまで育ったところをすっ飛ばしていきなりここにやってきたような感じになってるんだって」
「つまり……?」
「つまりあんたは日本で死んだ、えっと……」
「笑美だけど……」
「そう、あんたは笑美であるけど、サフィニアでもあるわけよ」
しかしサフィニアこと笑美は、う~んと腕組をしながら考え納得しかねているようであった。
「じゃあ、私の中にいる、あの子は何?」
サフィニアは自分の中にいるサフィニアと同じ顔した女の子のことを言った。
「ちょっと待ってね。これ以上は経験者の意見も聞いたほうがいいかもね。私の相棒のロゼを呼ぶわ。ロゼ!」
クロがそう呼ぶと、プラチナブロンドに空色の瞳をした美女がその場に現れた。
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