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第3章 北の大国フェーブル

第75話 ロゼッタの部屋で

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「そ・れ・で・、あなたはあの集まりの中でほぼ何も発言できず、『王太子さまぁ~』と、しなを作っただけで終わったということですか?」

 ロゼッタが王太子にしなだれかかる様を、大げさに身をくねらせて真似ながら、ブルネットの侍女が揶揄した。

「厳しいな。あんなアクの強い面々の中で何を言えるって言うんだよ」

王太子バカはたらしこめても、他の面々は攻略できないってわけね」

「どいつもこいつも曲者ぞろいだからね。ナーレンが建国祭でバカをさらして、こいつは王の器ではないと国内外に知らしめたはいいが、その後がなかなか…」

 そういうとロゼッタはベットにダイブし、彼を縛っていたきゅうくつな変身を解いた。

「気が緩みすぎよ、ネイレ。誰かが入ってきたらどうするの」

「その時は君がしっかり入り口で足止めしてくれるだろう、ロゼ」

 侍女はため息をつき、彼女もまた変身を解いて元の姿に戻り、ソファーに腰こしかけた。

 王太子を篭絡していたロゼッタは『美と夢想の精霊ネイレス』で、彼女に仕える侍女は『人間由来の精霊ロゼ』の変装した姿であった。

 彼らがこのような姿でフェーブル王宮に潜り込んだ理由を語るには、半年以上前の精霊王と四柱と言われる精霊たちの会合にさかのぼらなければならない。

 精霊王フェレーヌドティナ。
 善意と苦難を司るサタージュ。
 美と夢幻を司るネイレス。
 破壊と再生を司るプルカシア。

 以上のメンツが参加し(反逆と争乱のウルマフは欠席)、そして、オブザーバーとしてロゼも参加していた。

 この中でプルカシアはロゼと初体面であった。

 サタージュとネイレスを知っていたので、こちらも男性の姿かと思いきや、男にも女にも見えるような子供の姿で現れた。

「僕は世界中の元素を元手に、自分の身体を造って顕現できるから子供の姿の方が必要な材料が少なくて便利なんだ。それでここに帰ってくるときも子供の姿さ。四柱の中では長兄的な立場なんだけどね」

 プルカシアは説明した。

 それはさておき、その日の議題はフェーブル王室の危機についてであった。

 暗愚としか言いようのないナーレン王太子と、それを傀儡の王にして自分たちで政治を牛耳ろうとするリスティッヒ侯爵家出のダリア王妃と兄の宰相。
 国王は現在身体の調子を崩しており、このままいずれ王太子が王位についたとしたら、

「まず間違いなく内乱が起きる」

 サタージュが断言した。

「リスティッヒ侯爵家だが、息女のダリアが王妃になってから支出が以前より膨らむようになって、領地の税制が五公五民から六公四民になってしまった。領民たちの生活はギリギリで離散や逃亡も増えている。隣接しているフェーブル随一のブラウシュテルン公爵領が四公六民だから違いは明らかだしな。暴動はリスティッヒ領内から起きるだろう」

 王妃としての体裁を整えるための化粧料の大半は実家のリスティッヒ侯爵家から出ているし、派閥の者を増やすために邸内でのパーティや会合も頻繁に行われる、これが支出が増大した原因である。領民にしてみれば領主一族が王都で重用されたのはいいが、そのせいで逆に税率が上がり生活が苦しくなったのだからいい迷惑である。

「王都の貴族にしても侯爵家だけが政治を牛耳るのを快く思わない者は大勢いるだろうね」

 ネイレスも推測した。

「そうだな、あの一族は少々一族の利になることばかり追いすぎだ。王太子が聡明であればそんな外戚の横やりをはねのけられるだろうが、あれにはそんな器量はない。毎日愉快に自分の欲を満たしてくれるのを保証してくれれば、政治のことを生母の一族に丸投げすることも厭わないだろう」

 サタージュが説明を続ける。

「その先に起こりうる展開は、十中八九、心ある家臣に誅される王族とその外戚というわけか」
「でもそうなった時には国はすでにしっちゃかめっちゃかになっているだろうな。大陸北の最も大きな国の争乱となれば周辺国への余波も見逃せなくなる」

 ネイレスとプルカシアが続けて予測した。

 それを避けるための手段として、女をあてがって公衆の面前での婚約破棄宣言という蛮行に導いて、王太子の立場と信頼をぶち壊そうと提案したのがプルカシアだった。

 ロゼがかつて人間だった時に、婚約者から自分勝手な婚約破棄宣言を受けたことがあるのも周知していたが頓着しなかった。


【作者メモ】
 やっと出てきました。
 精霊となったロゼと仲間たち。
 彼らはフェーブル国の問題に対応するために変装して侵入していたのですね。


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