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第3章 北の大国フェーブル
第71話 トップ会談?
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フェーブル王国建国記念パーティの騒動から一夜明け、騒動の中心にいた面々は長テーブルのある会議室のような部屋に集められていた。
顔ぶれはナーレン王太子、その愛人と目されるロゼッタ・シーラッハ男爵令嬢。
王太子の婚約者ヴィオレッタ・ブラウシュテルン公爵令嬢とその父と母。
隣国シュウィツアーの現国王の甥でもあるユーベル・ノルドベルク公爵令息。
そして謎の老人、どうやら魔導士らしいが。
ブラウシュテルン公爵家次女サフィニアはまだ子供という事で話し合いのメンツからは外されていた。
呼び出された面々が無言で待っていると
「待たせたな」
と、言う声とともに扉が開き、会場にはいなかった年配の男性と王妃が入って来た。
病で臥せっていた国王である。
「父上、寝ていなくて大丈夫なのですか?」
王太子が立ち上がって父王に声をかけた。
「わしの身体を心配してくれるのはありがたいが、だったらこんな形でわしがしゃしゃり出なければならぬ状況にするんじゃない、バカ者が!」
そう言ったあと国王は軽くせき込んだ。
「まずはここにおられる方々に息子の愚行について詫びよう。特にヴィオレッタ嬢。」
国王は息子の婚約者に向かって言った、しかしそれに対して、
「お言葉を返すようですが、父上。そもそも父上の代まであった側妃制度を廃止したのが原因の一つなのですよ。カレンデュラ姉上が嫁がれたエルシアン王国ですかな、そこで広まっているサタージュ教の一夫一妻制をどうして我が国も踏襲しなければならぬのです。それのせいで、わたしが情けをかけていたロゼッタが不安がり、わたしとしても決断を……」
ナーレン王太子は悪びれず説明を始めた。
「バカ者! 我が国の側妃制度とてどうしても後継ぎができぬ場合にのみ適応されているものじゃ! 現にわしがそなたの母親をはじめとする側妃を迎えたのは前王妃が病に倒れたからで、結婚して六年以上たった後じゃ! サタージュ教はその一夫一妻制を明文化しており、わが国でも信者が増えた故取り入れたまでじゃ!」
国王は息子をどやしつけた。
「国王陛下、どうか落ち着いてくださいませ。お体にさわります。息子ナーレンに悪気はなかったのです。例え妃や婚約者でなくとも、情けをかけた女の訴えを無下にできぬのがあの子の優しさで……」
国王の傍にいた王妃が息子である王太子を擁護した。
しかしこれは火に油を注いだようなものだった。
「優しさ! その割にはあちこちで浮名を流しているようだの。本当に大事にすべきものをないがしろにしておいて何が優しさじゃ! そなたがそんな風に甘やかすから、次期国王という立場でありながら、尊重すべきものとそうでないものの見極めもできず、己の感情のままに事を起こして、何が悪かったのすら理解することもできない!」
「国王陛下……」
怒りおさまらぬ国王に王妃の言葉は途絶えた。
「まあまあ、国王陛下。王太子殿下のそれは若者によくある一時的な病のようなもの。うちの娘はそう言った王太子殿下の心に沿うようなふるまいを何一つしてこず……」
「そうですわ。ヴィオレッタはどうにも頑ななところがあり、いわゆる『愛嬌』とか『可愛げ』にとぼしいところがありますから、王太子殿下が……」
婚約者ヴィオレッタの親も国王をなだめるのに参加した、しかし……。
「そなたら、自分の娘を貶めて楽しいのか? 継子苛めの評判をよく耳にはしていたが、この度の件ではヴィオレッタ嬢には何の非もないのじゃが、それでも白を黒と言いくるめて娘を貶めたいのか? いやはや世間では『公爵閣下とその夫人』で通っておるが、しょせんは『代行』じゃな」
国王の言葉に二人は絶句した。
特に父親である『公爵』は顔を引きつらせ、動揺と憤懣を必死で抑えようとしていたが、うまくいかないのが周りの者にも見て取れた。
冒頭からツノ突き合わせるような応酬となった話し合いを窓の外から、黒く小さなものが覗き込みながらつぶやいた。
「あの王様、言ってることはけっこうまともだけど、全方位にケンカを吹っかけているような形になっちゃってるわね。周囲にろくなものがいないってことかもしれないけど、これをどう着地さえたらいいのやら?」
精霊の眷属、黒猫のクロであった。
昨夜の騒動の話し合いの様子を確認しに来たのだが、実際の暴力はないものの、しょっぱなから言葉の刃が飛び交う激しいものとなった。
「さてさて、って……、あら? ちょっと、アンタたち、何やってるのよ?」
同じく中の様子をうかがうために、窓辺に張り付こうとする子どもたちの姿にクロはうろたえるのだった。
顔ぶれはナーレン王太子、その愛人と目されるロゼッタ・シーラッハ男爵令嬢。
王太子の婚約者ヴィオレッタ・ブラウシュテルン公爵令嬢とその父と母。
隣国シュウィツアーの現国王の甥でもあるユーベル・ノルドベルク公爵令息。
そして謎の老人、どうやら魔導士らしいが。
ブラウシュテルン公爵家次女サフィニアはまだ子供という事で話し合いのメンツからは外されていた。
呼び出された面々が無言で待っていると
「待たせたな」
と、言う声とともに扉が開き、会場にはいなかった年配の男性と王妃が入って来た。
病で臥せっていた国王である。
「父上、寝ていなくて大丈夫なのですか?」
王太子が立ち上がって父王に声をかけた。
「わしの身体を心配してくれるのはありがたいが、だったらこんな形でわしがしゃしゃり出なければならぬ状況にするんじゃない、バカ者が!」
そう言ったあと国王は軽くせき込んだ。
「まずはここにおられる方々に息子の愚行について詫びよう。特にヴィオレッタ嬢。」
国王は息子の婚約者に向かって言った、しかしそれに対して、
「お言葉を返すようですが、父上。そもそも父上の代まであった側妃制度を廃止したのが原因の一つなのですよ。カレンデュラ姉上が嫁がれたエルシアン王国ですかな、そこで広まっているサタージュ教の一夫一妻制をどうして我が国も踏襲しなければならぬのです。それのせいで、わたしが情けをかけていたロゼッタが不安がり、わたしとしても決断を……」
ナーレン王太子は悪びれず説明を始めた。
「バカ者! 我が国の側妃制度とてどうしても後継ぎができぬ場合にのみ適応されているものじゃ! 現にわしがそなたの母親をはじめとする側妃を迎えたのは前王妃が病に倒れたからで、結婚して六年以上たった後じゃ! サタージュ教はその一夫一妻制を明文化しており、わが国でも信者が増えた故取り入れたまでじゃ!」
国王は息子をどやしつけた。
「国王陛下、どうか落ち着いてくださいませ。お体にさわります。息子ナーレンに悪気はなかったのです。例え妃や婚約者でなくとも、情けをかけた女の訴えを無下にできぬのがあの子の優しさで……」
国王の傍にいた王妃が息子である王太子を擁護した。
しかしこれは火に油を注いだようなものだった。
「優しさ! その割にはあちこちで浮名を流しているようだの。本当に大事にすべきものをないがしろにしておいて何が優しさじゃ! そなたがそんな風に甘やかすから、次期国王という立場でありながら、尊重すべきものとそうでないものの見極めもできず、己の感情のままに事を起こして、何が悪かったのすら理解することもできない!」
「国王陛下……」
怒りおさまらぬ国王に王妃の言葉は途絶えた。
「まあまあ、国王陛下。王太子殿下のそれは若者によくある一時的な病のようなもの。うちの娘はそう言った王太子殿下の心に沿うようなふるまいを何一つしてこず……」
「そうですわ。ヴィオレッタはどうにも頑ななところがあり、いわゆる『愛嬌』とか『可愛げ』にとぼしいところがありますから、王太子殿下が……」
婚約者ヴィオレッタの親も国王をなだめるのに参加した、しかし……。
「そなたら、自分の娘を貶めて楽しいのか? 継子苛めの評判をよく耳にはしていたが、この度の件ではヴィオレッタ嬢には何の非もないのじゃが、それでも白を黒と言いくるめて娘を貶めたいのか? いやはや世間では『公爵閣下とその夫人』で通っておるが、しょせんは『代行』じゃな」
国王の言葉に二人は絶句した。
特に父親である『公爵』は顔を引きつらせ、動揺と憤懣を必死で抑えようとしていたが、うまくいかないのが周りの者にも見て取れた。
冒頭からツノ突き合わせるような応酬となった話し合いを窓の外から、黒く小さなものが覗き込みながらつぶやいた。
「あの王様、言ってることはけっこうまともだけど、全方位にケンカを吹っかけているような形になっちゃってるわね。周囲にろくなものがいないってことかもしれないけど、これをどう着地さえたらいいのやら?」
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昨夜の騒動の話し合いの様子を確認しに来たのだが、実際の暴力はないものの、しょっぱなから言葉の刃が飛び交う激しいものとなった。
「さてさて、って……、あら? ちょっと、アンタたち、何やってるのよ?」
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