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第3章 北の大国フェーブル
第66話 ふたたび婚約破棄騒動
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「ヴィオレッタ・ブラウシュテルン!貴様との婚約は破棄だ!」
大陸北方の大国フェーブル王宮での建国パーティ。
その中央でナーレン王太子は婚約者であるブラウシュテルン公爵令嬢を居丈高に怒鳴りつけた。
なんですかね?
このどっかで見た、いや読んだことあるようなアホな宣言は?
若干十二歳、同じく公爵令嬢のサフィニアは鼻白んだ。
誰が誰と婚約しようが、それを破棄しようが勝手にすればいい。
だが、建国パーティという外国からも賓客が多く訪れるこの催しの会場を私物化して、しかも大いに政治的要素のある王家と公爵家の縁組を勝手に『破棄』などと言うバカさ加減。
そんな奴がいずれ王位に就くことを考えると、この国は大丈夫か、と、不安になってくる。
さらに、その破棄宣言をされた令嬢が自分と半分だけ血のつながった異母姉となると、ふーん、と無関心を貫いてばかりもいられない。
顔だけは無駄に良いナーレン王太子。
そのせいか異母姉という婚約者がいながらけっこう浮名を流してるって話。
あんな男、私だったらごめんだわ。
ドヤ顔をしている王太子を見てサフィニアは思った。
彼は宣言の前から黄金のように輝く豊かな髪と碧玉色の瞳を持った艶麗な女性を抱き寄せていた。
抱き寄せられている女性はシーラッハ男爵の庶子ロゼッタである。
「見たか、言われた瞬間、泣き崩れでもしたら可愛げもあるものを。そういうところがやはり君とは大違いなんだな」
王太子がロゼッタに向かってヴィオレッタをあざ笑うように指摘した。
ロゼッタにささやいているようなそぶりをしているが、声が大きいので周囲の人間にも丸聞こえである。
「王太子殿下……」
ヴィオレッタがようやく口を開いた、しかしそれを遮って、
「本当におっしゃる通りですわ、王太子殿下! この娘には本当に可愛げない。私どもも日ごろから口酸っぱくして忠告しているのですが、性根のひね曲がったこの娘はわたくしの言も悪意にしか受け取らず、素直に受け入れてくれませんの」
と、言ったのはサフィニアの実母にして、ヴィオレッタの継母であるカルミア・ブラウシュテルンである。
「そうであろう、そうであろう!」
彼女の言葉に我が意を得たりとばかりに王太子はうなづいた。
なに、これ?
集団イジメ?
ここは実母に同調してお継姉さまの悪口を、子供視点から可愛く訴えるのがこれまでのサフィニアにとっての『正解』であった、しかし、
「お母さま、何言ってらっしゃるの? お母さまは家でも同じようなことをおっしゃるけど、お姉さまは王妃教育によって感情を顔に表さない訓練をしているって答えてらっしゃるでしょう。お母さまはお姉さまをを罵ってばかりで、お姉さまの説明はちっとも頭に入ってないのね」
ぶちまけてやった。
愛娘サフィニアの言葉に母のカルミアは慌てる。
「ちょ、ちょっと、何言ってるの、この子は……。ああ、さっき頭をひどく打ったせいかしら。そうにちがいないわ。皆様、この娘はさきほどレンガの石垣の上から落ちて頭を打ってしまってしばらく気を失っていたのですよ。このヴィオレッタのせいですわ。この娘は恐がる妹を脅して無理やり石垣の上に昇らせて突き飛ばしたんですのよ、まったく恐ろしい! いくら半分しか血のつながらない妹が憎いからって」
「お母さま、嘘はいけません。私は別にお姉さまに言われて石垣に上ったわけではありません。平均台みたいに歩いてみたかっただけです。確かに失敗して落ちましたけど……。お母さまは何でもお姉さまのせい。雨が降ってもお天気でもお姉さまのせいにしますものね」
「サフィニア、貴方!」
愛娘の突然の変節にカルミア・ブラウシュテルン公爵夫人は甲高い声を上げた後絶句した。
継子苛めのうわさはあったけど、やはりそうであったか、と、王都の事情通の貴族たちは彼女たちの様子を見て思った。
婚約破棄宣言が巻き起こす嵐はまだ始まったばかりである
大陸北方の大国フェーブル王宮での建国パーティ。
その中央でナーレン王太子は婚約者であるブラウシュテルン公爵令嬢を居丈高に怒鳴りつけた。
なんですかね?
このどっかで見た、いや読んだことあるようなアホな宣言は?
若干十二歳、同じく公爵令嬢のサフィニアは鼻白んだ。
誰が誰と婚約しようが、それを破棄しようが勝手にすればいい。
だが、建国パーティという外国からも賓客が多く訪れるこの催しの会場を私物化して、しかも大いに政治的要素のある王家と公爵家の縁組を勝手に『破棄』などと言うバカさ加減。
そんな奴がいずれ王位に就くことを考えると、この国は大丈夫か、と、不安になってくる。
さらに、その破棄宣言をされた令嬢が自分と半分だけ血のつながった異母姉となると、ふーん、と無関心を貫いてばかりもいられない。
顔だけは無駄に良いナーレン王太子。
そのせいか異母姉という婚約者がいながらけっこう浮名を流してるって話。
あんな男、私だったらごめんだわ。
ドヤ顔をしている王太子を見てサフィニアは思った。
彼は宣言の前から黄金のように輝く豊かな髪と碧玉色の瞳を持った艶麗な女性を抱き寄せていた。
抱き寄せられている女性はシーラッハ男爵の庶子ロゼッタである。
「見たか、言われた瞬間、泣き崩れでもしたら可愛げもあるものを。そういうところがやはり君とは大違いなんだな」
王太子がロゼッタに向かってヴィオレッタをあざ笑うように指摘した。
ロゼッタにささやいているようなそぶりをしているが、声が大きいので周囲の人間にも丸聞こえである。
「王太子殿下……」
ヴィオレッタがようやく口を開いた、しかしそれを遮って、
「本当におっしゃる通りですわ、王太子殿下! この娘には本当に可愛げない。私どもも日ごろから口酸っぱくして忠告しているのですが、性根のひね曲がったこの娘はわたくしの言も悪意にしか受け取らず、素直に受け入れてくれませんの」
と、言ったのはサフィニアの実母にして、ヴィオレッタの継母であるカルミア・ブラウシュテルンである。
「そうであろう、そうであろう!」
彼女の言葉に我が意を得たりとばかりに王太子はうなづいた。
なに、これ?
集団イジメ?
ここは実母に同調してお継姉さまの悪口を、子供視点から可愛く訴えるのがこれまでのサフィニアにとっての『正解』であった、しかし、
「お母さま、何言ってらっしゃるの? お母さまは家でも同じようなことをおっしゃるけど、お姉さまは王妃教育によって感情を顔に表さない訓練をしているって答えてらっしゃるでしょう。お母さまはお姉さまをを罵ってばかりで、お姉さまの説明はちっとも頭に入ってないのね」
ぶちまけてやった。
愛娘サフィニアの言葉に母のカルミアは慌てる。
「ちょ、ちょっと、何言ってるの、この子は……。ああ、さっき頭をひどく打ったせいかしら。そうにちがいないわ。皆様、この娘はさきほどレンガの石垣の上から落ちて頭を打ってしまってしばらく気を失っていたのですよ。このヴィオレッタのせいですわ。この娘は恐がる妹を脅して無理やり石垣の上に昇らせて突き飛ばしたんですのよ、まったく恐ろしい! いくら半分しか血のつながらない妹が憎いからって」
「お母さま、嘘はいけません。私は別にお姉さまに言われて石垣に上ったわけではありません。平均台みたいに歩いてみたかっただけです。確かに失敗して落ちましたけど……。お母さまは何でもお姉さまのせい。雨が降ってもお天気でもお姉さまのせいにしますものね」
「サフィニア、貴方!」
愛娘の突然の変節にカルミア・ブラウシュテルン公爵夫人は甲高い声を上げた後絶句した。
継子苛めのうわさはあったけど、やはりそうであったか、と、王都の事情通の貴族たちは彼女たちの様子を見て思った。
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