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第2章 精霊たちの世界
第64話 神殿建設現場にて
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エルシアンの王都は湧水池である「セナ湖」を中心として造られている。
セナ湖とは大陸に四つある聖地の一つで、精霊王のお膝元フェノーレス山地と同じく『龍脈』あるいは『パワースポット』と呼んでもいい場所であった。
セナ湖を抱え込むように王宮が建てられ、そこから東へと進んだ先に神殿が現在建築されていた。この二つの中心を巡るように店や住居が建てられ王都は楕円形に現在も発展している。
王太子妃とともにロゼとサタージュは王宮の馬車で神殿の建設場所へと向かった。
「おお、これは王太子妃殿下」
止まった馬車に向かって初老の男が走り寄って来た。
光沢のある生地で作られたチュニック状のゆったりしたローブに紅地に金の刺繍の施された腰帯を身に着けていた。周囲の他の者も同じデザインのローブに腰帯だが、生地に艶がなく金糸も入っていないので、この人物がこの中で一番身分が高いのだろう。
「突然申し訳ありません、大司教さま」
カレンデュラ王太子妃は馬車から降りながら言った。
「おお、大事なお体です。どうぞ段差に気を付けて」
大司教と呼ばれた者が王太子妃に手を差し出した。
地面に足をつけると王太子妃はもう一度礼を言い、ロゼとサタージュは彼女に続いて降りてきた。
「今朝セナ湖に現れた方々です。サタージュ神や精霊王様のご意思をお伝えに参られたようなので、こちらにお連れしました」
ロゼとサタージュは建築現場を見渡した。
ドーム状の建物の柱と屋根の骨組ができている状態だ。祭壇のようなものも中に形作られている。
白亜というより白磁といってもいい光沢のある青みがかった白色の岩が陽に照らされて輝き、確かにこの岩(貴白岩)で神を讃える神殿を作ってみたいという人々の欲は理解できないわけでもない、と、ロゼは思った。
「初めまして、精霊王の眷属ロゼと申します。以後お見知りおきを」
優美に貴族令嬢らしいしぐさでロゼは大司教にあいさつをした
「うむ、君が一番偉い人なんだね、初めまして、僕は…、うっ……」
サタージュも続けてあいさつをしようとしてロゼにわき腹をつつかれた。
「彼は、ええッと……、サタ坊と申します」
ロゼは言った。
「ロゼ様とサタボー様ですね。初めまして。神の祝福とご加護を」
大司教は温和な笑みを浮かべあいさつを返した。
「ちょっと、何だよ、サタ坊って……」
サタージュがロゼに小声で文句を言った。
「あのね、貴方はね、痩せても枯れても信仰の中心なの。そういう存在はヴェールの内側に隠れてはっきりわからない存在でいるのが正解なのよ」
ロゼは答えた。
本音を言うと、こんな忘れられた親戚のおじさんのようなふるまいをしている御仁を、あなた方が信仰している神ですよ、と、紹介するのがはばかられただけだ。
「もう……」
サタージュはうめくようにぼやいた。
「神のお言葉をお持ち下された、とのことですが、それはどのような?」
大司教がけげんな顔で尋ねた。
「そうだね、言葉というか、われわれの要望、あるいは意見として聞いてもらいたいのだけど……」
サタージュが言葉の口火を切った。
ロゼはアッという顔でサタージュを見やった。
彼女自身どうやってこの建設をやめさせればいいのか、正直ノープランだった。
現場に行ってみて言葉を交わしながら考えるしかないと思っていたので、サタージュが何を言い出すのか、彼女自身も予測がつかなかった。
セナ湖とは大陸に四つある聖地の一つで、精霊王のお膝元フェノーレス山地と同じく『龍脈』あるいは『パワースポット』と呼んでもいい場所であった。
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王太子妃とともにロゼとサタージュは王宮の馬車で神殿の建設場所へと向かった。
「おお、これは王太子妃殿下」
止まった馬車に向かって初老の男が走り寄って来た。
光沢のある生地で作られたチュニック状のゆったりしたローブに紅地に金の刺繍の施された腰帯を身に着けていた。周囲の他の者も同じデザインのローブに腰帯だが、生地に艶がなく金糸も入っていないので、この人物がこの中で一番身分が高いのだろう。
「突然申し訳ありません、大司教さま」
カレンデュラ王太子妃は馬車から降りながら言った。
「おお、大事なお体です。どうぞ段差に気を付けて」
大司教と呼ばれた者が王太子妃に手を差し出した。
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「今朝セナ湖に現れた方々です。サタージュ神や精霊王様のご意思をお伝えに参られたようなので、こちらにお連れしました」
ロゼとサタージュは建築現場を見渡した。
ドーム状の建物の柱と屋根の骨組ができている状態だ。祭壇のようなものも中に形作られている。
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「初めまして、精霊王の眷属ロゼと申します。以後お見知りおきを」
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「うむ、君が一番偉い人なんだね、初めまして、僕は…、うっ……」
サタージュも続けてあいさつをしようとしてロゼにわき腹をつつかれた。
「彼は、ええッと……、サタ坊と申します」
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「ロゼ様とサタボー様ですね。初めまして。神の祝福とご加護を」
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「ちょっと、何だよ、サタ坊って……」
サタージュがロゼに小声で文句を言った。
「あのね、貴方はね、痩せても枯れても信仰の中心なの。そういう存在はヴェールの内側に隠れてはっきりわからない存在でいるのが正解なのよ」
ロゼは答えた。
本音を言うと、こんな忘れられた親戚のおじさんのようなふるまいをしている御仁を、あなた方が信仰している神ですよ、と、紹介するのがはばかられただけだ。
「もう……」
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「そうだね、言葉というか、われわれの要望、あるいは意見として聞いてもらいたいのだけど……」
サタージュが言葉の口火を切った。
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彼女自身どうやってこの建設をやめさせればいいのか、正直ノープランだった。
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