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第2章 精霊たちの世界
第62話 エルシアン国王太子妃カレンデュラ(2)
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「奇跡の御仁たちがわたくしに話ですって!」
エルシアン王太子妃カレンデュラはいぶかった。
今朝王宮内の「セナ湖」にて美しすぎる若い男女が顕現したという話を聞いた。
彼らは精霊王及びサタージュ神の使いを名乗っている。
その彼らが指名している人物が国王や王妃、あるいは王太子を差し置いてなぜ自分なのか?
カレンデュラは落ち着かない思いがした。
「お会いしましょう」
カレンデュラは身支度をし謁見の間に向かった。
謁見の間は客人の希望で人払いがされており、プラチナブロンドのすらりとした体躯の女性と白銀の髪をした均整の取れた立派な体格の男性が座っていた。
カレンデュラが部屋に入ると女性の方は立ち上がりドレスの裾をつまんで上体をかがませた。
そのふるまいは貴族として教育を受けた女性の申し分ないと言えた。
しかし男の方は、
「久しぶりだね、カレン! 大きくなって、すっかりいい娘さんだ!」
まず、ため口から入った。
言っていることがまるで十数年ぶりに再会した親戚のおじさんだ。
そしてこれも人間界アルアルだが、若い女性の方は子供の頃に数回あっただけの「おじさん」の顔や存在などまったく覚えていない。
なるほどこれが私について行けとフェリ様が言った理由だったのか、と、ロゼは頭を抱えながら納得した。
ネイレスと違って堅物のサタージュなら礼儀知らずな真似はしないだろうと思っていたが、人間界の王侯貴族の間で要求される作法について知っているわけではないのだ。
カレンデュラ王太子妃は目を白黒させて、平民レベルのざっかけない言葉が神の使いと目される人外の美しさを持った男性から発せられるのを聞いた。
『カレン』とはカレンデュラ王太子妃がまだフェーブルにいた頃、身近な人たちから呼ばれた愛称だ。母や時折訪れる母方の親戚、そして……。
「失礼ですが、フェーブルにいた頃の呼び名を知っているあなた方はどなた?」
王太子妃は尋ねた。
フェーブルの第一王女カレンデュラは十三歳でエルシアン王太子の縁組が決まり、その後、妃教育のため王宮に呼び寄せられ、十五歳で嫁ぐまで王宮の離れで過ごした。
大陸北方のフェーブルと中央のエルシアンの間にはミドランドという農業大国があり、富国強兵政策により軍備も増強されて行っている。それに対抗するためにその国の南と北を接する両国が同盟を結ぶためにまとめられた縁談だった。
「申し訳ないけど、フェーブルにいた頃のことはあまり思い出したくないから、その……、あなた方がどういう理由で私の昔の呼び名を知っていて、そして私を指名したのか……」
「カレン! 思い出したくないって! 君の父上と母上は結婚して何度も僕らの御所を訪れたんだよ。実に仲睦まじい様子でね。僕も顔を出したことがある。ああ、これは君が生まれる前か。そうだな、山へ入って来た君がスライムを踏んずけて気持ち悪がっていたとか、黒目蝶の鱗粉が目に入って痛がったとか、夜光兎を触りたがって追いかけまわしたとか、覚えてないの? いや、思い出したくないって言ったね……」
「そんな話を……、あなた方はまさか!」
精霊王の御所があると言われる濁世から隔絶されたようなフェノーレス山中。
そこは母とともに貴族社会から見捨てられた少女の秘密のあそび場だった。
「失礼いたします、王太子妃殿下。わたくしたちは精霊王の眷属。今回はそのおひざ元にあるフェーブル出身のあなた様からぜひエルシアン王国に伝えていただきたい事があり、まかりこしました次第にございます」
距離感なしの男ととまどう王太子妃の話を遮り、プラチナブロンドの女性の方がうやうやしく話を始めた。
「わたくしの名はロゼと申します、以後お見知りおきを」
女性はそう名乗り、懐から小さな珠を取り出しそれを宙に放った。
珠から放たれる光が広がり、カレンにとって見覚えのある美しい女性の映像が目の前に広がった。
「精霊王様……」
エルシアン王太子妃カレンデュラはいぶかった。
今朝王宮内の「セナ湖」にて美しすぎる若い男女が顕現したという話を聞いた。
彼らは精霊王及びサタージュ神の使いを名乗っている。
その彼らが指名している人物が国王や王妃、あるいは王太子を差し置いてなぜ自分なのか?
カレンデュラは落ち着かない思いがした。
「お会いしましょう」
カレンデュラは身支度をし謁見の間に向かった。
謁見の間は客人の希望で人払いがされており、プラチナブロンドのすらりとした体躯の女性と白銀の髪をした均整の取れた立派な体格の男性が座っていた。
カレンデュラが部屋に入ると女性の方は立ち上がりドレスの裾をつまんで上体をかがませた。
そのふるまいは貴族として教育を受けた女性の申し分ないと言えた。
しかし男の方は、
「久しぶりだね、カレン! 大きくなって、すっかりいい娘さんだ!」
まず、ため口から入った。
言っていることがまるで十数年ぶりに再会した親戚のおじさんだ。
そしてこれも人間界アルアルだが、若い女性の方は子供の頃に数回あっただけの「おじさん」の顔や存在などまったく覚えていない。
なるほどこれが私について行けとフェリ様が言った理由だったのか、と、ロゼは頭を抱えながら納得した。
ネイレスと違って堅物のサタージュなら礼儀知らずな真似はしないだろうと思っていたが、人間界の王侯貴族の間で要求される作法について知っているわけではないのだ。
カレンデュラ王太子妃は目を白黒させて、平民レベルのざっかけない言葉が神の使いと目される人外の美しさを持った男性から発せられるのを聞いた。
『カレン』とはカレンデュラ王太子妃がまだフェーブルにいた頃、身近な人たちから呼ばれた愛称だ。母や時折訪れる母方の親戚、そして……。
「失礼ですが、フェーブルにいた頃の呼び名を知っているあなた方はどなた?」
王太子妃は尋ねた。
フェーブルの第一王女カレンデュラは十三歳でエルシアン王太子の縁組が決まり、その後、妃教育のため王宮に呼び寄せられ、十五歳で嫁ぐまで王宮の離れで過ごした。
大陸北方のフェーブルと中央のエルシアンの間にはミドランドという農業大国があり、富国強兵政策により軍備も増強されて行っている。それに対抗するためにその国の南と北を接する両国が同盟を結ぶためにまとめられた縁談だった。
「申し訳ないけど、フェーブルにいた頃のことはあまり思い出したくないから、その……、あなた方がどういう理由で私の昔の呼び名を知っていて、そして私を指名したのか……」
「カレン! 思い出したくないって! 君の父上と母上は結婚して何度も僕らの御所を訪れたんだよ。実に仲睦まじい様子でね。僕も顔を出したことがある。ああ、これは君が生まれる前か。そうだな、山へ入って来た君がスライムを踏んずけて気持ち悪がっていたとか、黒目蝶の鱗粉が目に入って痛がったとか、夜光兎を触りたがって追いかけまわしたとか、覚えてないの? いや、思い出したくないって言ったね……」
「そんな話を……、あなた方はまさか!」
精霊王の御所があると言われる濁世から隔絶されたようなフェノーレス山中。
そこは母とともに貴族社会から見捨てられた少女の秘密のあそび場だった。
「失礼いたします、王太子妃殿下。わたくしたちは精霊王の眷属。今回はそのおひざ元にあるフェーブル出身のあなた様からぜひエルシアン王国に伝えていただきたい事があり、まかりこしました次第にございます」
距離感なしの男ととまどう王太子妃の話を遮り、プラチナブロンドの女性の方がうやうやしく話を始めた。
「わたくしの名はロゼと申します、以後お見知りおきを」
女性はそう名乗り、懐から小さな珠を取り出しそれを宙に放った。
珠から放たれる光が広がり、カレンにとって見覚えのある美しい女性の映像が目の前に広がった。
「精霊王様……」
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