45 / 120
第1章 山岳国家シュウィツアー
第45話 王宮裁判 ~判決~
しおりを挟む
陪審役の貴族たちの見解をまとめた意見書が裁判長に提出され、しばしの休廷の後、
「それでは判決を言い渡します」
裁判長の声が響いた。
「被告サルビア・クーデン。そなたは無許可で毒物を王宮内に持ち込むという禁を犯した。これは王族を害する行為とみなされ『反逆罪』が適応される。よって極刑を言い渡す」
「待ってよ、なんで今さら……、王太子様、助けて!」
サルビアは懇願したが、王太子は目を合わそうともせず無言を貫いた。
「被告ロベリア・ノルドベルク。そなたはロゼライン・ノルドベルクの飲み物に毒物を混入させ死に至らしめた。故意過失に関わらず王族への加害行為は死罪相当の『反逆罪』であり、準王族に対しても同様である。よって極刑を言い渡す」
「あなた、黙ってないで何か言ってよ。由緒あるノルドベルクの正妻がこんな目にあっているのに、どうして黙っているの?」
ロベリアは夫である公爵に助けを求めたが、彼もまた目をそらしたまま無言を貫いていた。
「だいたい、あの娘が悪いのよ。もっと殿下の気分が良くなる形で仕事をこなせば私だって……」
この期に及んでなんちゅう無茶ぶり!
王太子殿下の機嫌を損ねないような依怙贔屓処分など繰り返していたら、いずれ人心は離れてしまい治世は安定しなくなるわ。
「続いてエルフリード・ノルドベルク。そなたはサルビアが毒を持ち込み、ロベリア・ノルドベルクの手にそれが渡る際の中継をされた。反逆罪はそれに値する行為を何らかの形で知り及んでいながら見て見ぬふりをした場合、同罪となる。よって極刑を言い渡すところ、被告は成年年齢に達していなかったことを鑑みて、死一等を免じ爵位はく奪の上、平民に降下。王都からの追放を申し渡す」
これは逆に死よりもきついかもしれない、と、ロゼラインは思った。
裁判長の言葉は続く。
「さらにノルドベルク公爵家ですが、夫人と嫡男の悪事を防がなかったことを鑑み、爵位はく奪の上公爵家は取り潰しとなります」
「ちょっと待ってくれ! 我が家の不始末は認めるが、なぜ罪を犯していない私まで……?」
公爵が慌てた。
「確かに貴殿は何もされておりませんが、夫人と嫡男が罪を犯すのを座して見ていた。家門の中心的人物が二人も反逆罪に問われて、家そのものがおとがめなしというわけにはまいりません」
「だからと言って極端すぎるだろう。私に平民になれとでもいいたいのか!」
「そういうことになりますな」
ノルドベルク公爵としても、公爵位からの降格くらいは覚悟していたが、爵位はく奪までは想定していなかったようだ。
奇声に近い上ずった声で公爵は裁判長に訴えた。
「だったら、離婚だ! この女とは離婚する。息子の方も勘当するしそれでどうにかなるのではないか? ああ!」
「あなた!」
「父上!」
ロゼラインが母や弟に虐められても見て見ぬふりをしていた父が、この期に及んで自分だけ助かろうと彼らを切り捨てようとしている。
「離婚も勘当もご自由になされればよろしいですが、犯行が行われた当初は家族関係が継続されていたのですから、それで判決が左右されることはありません。家族はもちろん親戚縁者に至るまで死罪とされる連座制があった昔と違い、処刑は免れているのですからそれに感謝することです。同じく被告サルビアの実家クーデン家も取り潰しとなりました。納めていた領地は二分して近隣の伯爵がそれぞれ管理。でも、領地を一番よく知っているのは元クーデン男爵家ですので、新たに領主となった伯爵家の慈悲にすがり家令や侍女として雇い入れられたそうです。あなたも侯爵として培った経験を活かせば面倒を見て下さる家門はあるかと思いますよ」
裁判長は元公爵となる中年男性にこんこんと説いた。
納得のいかない顔をしている元公爵を無視し裁判長は閉廷を宣言しようとした、しかしその時、
「お待ちください! 三名の被告に対する判決に異議はございませんが、彼らと同じく『反逆罪』相当の行為をなされた王太子殿下がこのままなんの処分もないという事に臣下一同納得できません!」
陪審役の席に座るのを辞退し、傍聴席で裁判を見ていたホーエンブルク公爵が立ち上がり主張した。
「始まったわ、むしろこれからが本番かもしれないわね」
ロゼラインがつぶやいた。
まだまだ嵐はおさまらなかった。
「それでは判決を言い渡します」
裁判長の声が響いた。
「被告サルビア・クーデン。そなたは無許可で毒物を王宮内に持ち込むという禁を犯した。これは王族を害する行為とみなされ『反逆罪』が適応される。よって極刑を言い渡す」
「待ってよ、なんで今さら……、王太子様、助けて!」
サルビアは懇願したが、王太子は目を合わそうともせず無言を貫いた。
「被告ロベリア・ノルドベルク。そなたはロゼライン・ノルドベルクの飲み物に毒物を混入させ死に至らしめた。故意過失に関わらず王族への加害行為は死罪相当の『反逆罪』であり、準王族に対しても同様である。よって極刑を言い渡す」
「あなた、黙ってないで何か言ってよ。由緒あるノルドベルクの正妻がこんな目にあっているのに、どうして黙っているの?」
ロベリアは夫である公爵に助けを求めたが、彼もまた目をそらしたまま無言を貫いていた。
「だいたい、あの娘が悪いのよ。もっと殿下の気分が良くなる形で仕事をこなせば私だって……」
この期に及んでなんちゅう無茶ぶり!
王太子殿下の機嫌を損ねないような依怙贔屓処分など繰り返していたら、いずれ人心は離れてしまい治世は安定しなくなるわ。
「続いてエルフリード・ノルドベルク。そなたはサルビアが毒を持ち込み、ロベリア・ノルドベルクの手にそれが渡る際の中継をされた。反逆罪はそれに値する行為を何らかの形で知り及んでいながら見て見ぬふりをした場合、同罪となる。よって極刑を言い渡すところ、被告は成年年齢に達していなかったことを鑑みて、死一等を免じ爵位はく奪の上、平民に降下。王都からの追放を申し渡す」
これは逆に死よりもきついかもしれない、と、ロゼラインは思った。
裁判長の言葉は続く。
「さらにノルドベルク公爵家ですが、夫人と嫡男の悪事を防がなかったことを鑑み、爵位はく奪の上公爵家は取り潰しとなります」
「ちょっと待ってくれ! 我が家の不始末は認めるが、なぜ罪を犯していない私まで……?」
公爵が慌てた。
「確かに貴殿は何もされておりませんが、夫人と嫡男が罪を犯すのを座して見ていた。家門の中心的人物が二人も反逆罪に問われて、家そのものがおとがめなしというわけにはまいりません」
「だからと言って極端すぎるだろう。私に平民になれとでもいいたいのか!」
「そういうことになりますな」
ノルドベルク公爵としても、公爵位からの降格くらいは覚悟していたが、爵位はく奪までは想定していなかったようだ。
奇声に近い上ずった声で公爵は裁判長に訴えた。
「だったら、離婚だ! この女とは離婚する。息子の方も勘当するしそれでどうにかなるのではないか? ああ!」
「あなた!」
「父上!」
ロゼラインが母や弟に虐められても見て見ぬふりをしていた父が、この期に及んで自分だけ助かろうと彼らを切り捨てようとしている。
「離婚も勘当もご自由になされればよろしいですが、犯行が行われた当初は家族関係が継続されていたのですから、それで判決が左右されることはありません。家族はもちろん親戚縁者に至るまで死罪とされる連座制があった昔と違い、処刑は免れているのですからそれに感謝することです。同じく被告サルビアの実家クーデン家も取り潰しとなりました。納めていた領地は二分して近隣の伯爵がそれぞれ管理。でも、領地を一番よく知っているのは元クーデン男爵家ですので、新たに領主となった伯爵家の慈悲にすがり家令や侍女として雇い入れられたそうです。あなたも侯爵として培った経験を活かせば面倒を見て下さる家門はあるかと思いますよ」
裁判長は元公爵となる中年男性にこんこんと説いた。
納得のいかない顔をしている元公爵を無視し裁判長は閉廷を宣言しようとした、しかしその時、
「お待ちください! 三名の被告に対する判決に異議はございませんが、彼らと同じく『反逆罪』相当の行為をなされた王太子殿下がこのままなんの処分もないという事に臣下一同納得できません!」
陪審役の席に座るのを辞退し、傍聴席で裁判を見ていたホーエンブルク公爵が立ち上がり主張した。
「始まったわ、むしろこれからが本番かもしれないわね」
ロゼラインがつぶやいた。
まだまだ嵐はおさまらなかった。
4
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ
棗
恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。
王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。
長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。
婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。
ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。
濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。
※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。
風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる