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第1章 山岳国家シュウィツアー
第39話 王太子の焦燥
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今回の面談は大失敗だった。
半ば追い出されるような形でお茶会をお開きにされた。
しかし王太子には自分の言動が祖母である王太后の不興を買ったという事はわかっても、何が悪かったのかまではよくわかっていなかった。
すべてがうまく回らない。
これというのもロゼラインが「自死」したせいだ。
泣いてこれからは俺の意にそわないようなことはしないと誓いさえすれば、婚約者の身分だけは保証してやるつもりだったのに、あの『宣言』にも顔色を変えずその場を辞し、そして死にやがった。
誰のせいでこんな苦労を……。
他人が自分に奉仕するのは当たり前。
父の王をのぞけばこの国最高の地位に生まれ、しかも容姿能力も平均値以上のものを持ち合わせ賛辞の言葉だけを受け付けていればよかった。
ゆえに、自分がしでかしたことに対しても、他人の状況や気持ちをおもんばからず、勝手さと傲慢さを棚に上げながら事態の悪化も他人のせいにすればいいという状況が、これからも続くと王太子は思い込んでいた。
正妃については急がずともよい。
サルビアがあそこまで感情的な女だとは思っていなかったが、適当になだめていれば大人しくなる。
黒髪の女を口説いて落とす遊戯もしばらくは楽しめそうだ。
あの女もあの女だ、もったいぶりやがって!
たとえ一夜でも王太子の寵愛を受けるってことがどんなに名誉なことかわからないのか。
王太子が以上のようなことを考えながら歩いていた時、側近の一人が息を切らして彼に近寄ってきた。
「殿下、大変でございます!」
パリス王太子は青天の霹靂のような報告に絶句した。
一方、孫とのお茶会をはやめにきりあげたピオニー王太后。
自室に戻ると別の知らせが届いていた。
実家であるホーエンブルク家の当主からの面会依頼である。
「今日は千客万来ね、いいわ、お会いしましょう」
数時間後自室で彼女の実家ホーエンブルク家の当主を迎え入れていた。
ホーエンブルク家は現在王太后の兄の息子、つまり甥が跡目を継ぎ当主となっている。
「事態はそこまでいっているのですね。隠居の身ゆえ耳が遅くてもうしわけありませんね」
王太后は甥に対し言った。
「わたくしの意見を聞きに来たというならそれは必要ないでしょう。今はあなたが当主。あなたの判断で選択すればよいことです。いずれの選択をされてもわたくしはあくまで隠居としての姿勢を貫くだけです」
要するにどっちを選んでも味方にも敵にもならないという事である。
味方になってくれれば心強いが、敵対しないという言質を取れただけでも良しとしなければ、と、ホーエンブルク公爵は考えた。
「ああ、それから今日、孫の王太子が外国の王女を正妃に迎えたいので、ホーエンブルク家の力を貸してほしいと頼まれました。でも、断りましたから、王太子から直々に頼まれても受ける必要はありませんからね」
「いまさら……」
「そうね、いまさらだわ、アザレア王妃すら故国フェーブルに、我が国との婚姻の約定には今まで以上に慎重になるように、と、警告の手紙を出したほどです」
「ええ、ですから依頼されたとしても……」
「わかっていますよ」
公爵が王太后の部屋を辞したとき夜もすっかり更けていた。
それにしても、我が家門に外国の王女との婚姻のとりなしを頼もうとした王太子の鉄面皮ぶりには驚いた。今までホーエンブルク家が積み重ねてきた外交努力を一瞬でぶち壊し、今も悪影響を与えているのは他ならぬ王太子自身ではないか。
強い憤りは公爵の心にある決意をもたらすのに十分であった。
半ば追い出されるような形でお茶会をお開きにされた。
しかし王太子には自分の言動が祖母である王太后の不興を買ったという事はわかっても、何が悪かったのかまではよくわかっていなかった。
すべてがうまく回らない。
これというのもロゼラインが「自死」したせいだ。
泣いてこれからは俺の意にそわないようなことはしないと誓いさえすれば、婚約者の身分だけは保証してやるつもりだったのに、あの『宣言』にも顔色を変えずその場を辞し、そして死にやがった。
誰のせいでこんな苦労を……。
他人が自分に奉仕するのは当たり前。
父の王をのぞけばこの国最高の地位に生まれ、しかも容姿能力も平均値以上のものを持ち合わせ賛辞の言葉だけを受け付けていればよかった。
ゆえに、自分がしでかしたことに対しても、他人の状況や気持ちをおもんばからず、勝手さと傲慢さを棚に上げながら事態の悪化も他人のせいにすればいいという状況が、これからも続くと王太子は思い込んでいた。
正妃については急がずともよい。
サルビアがあそこまで感情的な女だとは思っていなかったが、適当になだめていれば大人しくなる。
黒髪の女を口説いて落とす遊戯もしばらくは楽しめそうだ。
あの女もあの女だ、もったいぶりやがって!
たとえ一夜でも王太子の寵愛を受けるってことがどんなに名誉なことかわからないのか。
王太子が以上のようなことを考えながら歩いていた時、側近の一人が息を切らして彼に近寄ってきた。
「殿下、大変でございます!」
パリス王太子は青天の霹靂のような報告に絶句した。
一方、孫とのお茶会をはやめにきりあげたピオニー王太后。
自室に戻ると別の知らせが届いていた。
実家であるホーエンブルク家の当主からの面会依頼である。
「今日は千客万来ね、いいわ、お会いしましょう」
数時間後自室で彼女の実家ホーエンブルク家の当主を迎え入れていた。
ホーエンブルク家は現在王太后の兄の息子、つまり甥が跡目を継ぎ当主となっている。
「事態はそこまでいっているのですね。隠居の身ゆえ耳が遅くてもうしわけありませんね」
王太后は甥に対し言った。
「わたくしの意見を聞きに来たというならそれは必要ないでしょう。今はあなたが当主。あなたの判断で選択すればよいことです。いずれの選択をされてもわたくしはあくまで隠居としての姿勢を貫くだけです」
要するにどっちを選んでも味方にも敵にもならないという事である。
味方になってくれれば心強いが、敵対しないという言質を取れただけでも良しとしなければ、と、ホーエンブルク公爵は考えた。
「ああ、それから今日、孫の王太子が外国の王女を正妃に迎えたいので、ホーエンブルク家の力を貸してほしいと頼まれました。でも、断りましたから、王太子から直々に頼まれても受ける必要はありませんからね」
「いまさら……」
「そうね、いまさらだわ、アザレア王妃すら故国フェーブルに、我が国との婚姻の約定には今まで以上に慎重になるように、と、警告の手紙を出したほどです」
「ええ、ですから依頼されたとしても……」
「わかっていますよ」
公爵が王太后の部屋を辞したとき夜もすっかり更けていた。
それにしても、我が家門に外国の王女との婚姻のとりなしを頼もうとした王太子の鉄面皮ぶりには驚いた。今までホーエンブルク家が積み重ねてきた外交努力を一瞬でぶち壊し、今も悪影響を与えているのは他ならぬ王太子自身ではないか。
強い憤りは公爵の心にある決意をもたらすのに十分であった。
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