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第1章 山岳国家シュウィツアー
第24話 三名だけの捜査会議
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ロゼラインの話の間、ゲオルグは何度も首を振り、終わってからも首を振りながら考えていた。
「事実は小説より奇なり、と、いうことだね」
ゼフィーロが言った。
「確かに今のご説明なら、謎だった点が全て氷解いたします、その……」
ゲオルグは言い淀んだ。
「なにがひっかかっているんだい?」
ゼフィーロが尋ねる。
「今の話を証明できたとて罪に問われる者の中にはノルドベルク嬢ご自身のお身内が含まれます。令嬢はそれを承知でわたくしにもこの話をなされたのでしょうか?」
ゲオルグの質問にロゼラインは声無くうなづいた。
「なんとおいたわしい! そして気高い!」
ゲオルグの感動にロゼライン自身は少し居心地の悪さを感じた。
ゲオルグたち警務隊のロゼラインに対する高評価には、関係の近さに関わらず処罰すべきものを毅然と処罰した姿勢がある。
彼の感覚では、ロゼラインが涙を呑んで自分の家族を罰することを決意してるとの解釈になり、所詮それが「幸せな家族」しか知らない彼の限界であろう。
ロゼラインにとってはむしろ、自分を苦しめた人間にしかるべき報いを受けさせるため、復讐にも近いものなのだが……。
まあ、それはいい。
問題は先ほど話した「事実」に基づく証拠を集め、裁判にも耐えうる論拠を示すことである。
「母が毒をティーカップに入れたことを証言してくれる人間には心当たりがあるわ」
ロゼラインは彼女の死後、ノルドベルク家から解雇されたゾフィを思い出していた。
「警務隊は厨房の人間たちには聞き取りを行ったのかしら? できればそこからの証言も欲しいところね」
「調べてみましょう」
「王太子からの圧力で中止になった捜査を再開するのって大丈夫?」
「こっそり調べたり聞き取りを行う分には大丈夫でしょう。お優しいのですな」
ロゼラインは苦笑いをした。
「この事件では結果に納得していない者は上の人間にも多々おりますし、その方々と協力することはできるでしょう」
「王太子がねじ込んできたらあなたたちの立場も悪くなるし、できるだけ秘密裏にね」
「お気遣い感謝いたします」
「ただ、今の話だと毒を入れた犯行の瞬間しか証明できないだろ。それにお茶は入れたが毒などいれていないと強硬に主張される可能性もある。やはりサルビア嬢からノルドベルクの手に毒が渡った過程も何らかの形で証明して、事件の全貌を解明しないと、裁判では戦えないだろうな」
ゼフィーロが別視点から意見を述べた。
「確かにその通りだわ。そういえば毒の入った瓶は今どこにあるの?」
ロゼラインが同意し質問をした。
「魔法省が鑑定をいたしましたので、今はそこに保管されておるかと」
ゲオルグが答えた。
この世界では医療や科学などのジャンルのほとんどが魔法で補われている。
毒や薬の成分を調べるのも魔法によって行われ結果が出されていたのだった。
「その瓶に彼らの指紋でもついていたら、証明できるのだけど……」
ロゼラインがつぶやいた。
「「指紋? なんですか、それは?」」
ゲオルグとゼフィーロが声を合わせて尋ねた。
そうだった!
この世界ではそんな鑑定方法は存在しないのだ!
「えーッと……、ある人間がモノに触ると指の痕跡がモノに残るというか、そういった類のものなのだけどね……」
わからない人たちに説明するのは難しい。
「そんな不思議なことが起こるのですか? そんな話を義姉上は一体どこで?」
ゼフィーロが聞いた。
いやいや、何でもかんでも魔法で処理してしまうここの世界のやり方の方が、私に言わせればよっぽど不思議なのですが……。
と、言うことはあえて言わずロゼラインは、
「あの、神と接触して学んだことの中にそういうやり方があるというか……、まあ、別の世界のお話なんだけどね」
と、言ってごまかした。
「ふむ……、待ってください。指の痕跡はわからぬが、モノに触れると残った思念からそれまでに触った人たちが全てわかる追跡魔法がありましたぞ、それを使えば毒がどういった経緯で人から人へ渡ったか、明らかにできるかもしれません」
ゲオルグが提案した。
「「おおっ、それはいいかもしれない!」」
今度はロゼラインとゼフィーロが声を合わせた。
「魔法省には僕が話をつけよう、君は聞き取りなど警務部でできることを頼む」
「承知しました」
ゼフィーロとゲオルグの役割分担が決まった。
「ゾフィに会いに行きたいわ」
「彼女は今どこに?」
「ノルドベルク家を解雇されたから今は実家にいるんじゃないかしら。確か王都の郊外だったような」
「では僕も一緒に行きましょう。でも義姉上は王宮から出て郊外までいけるのでしょうか?」
ゼフィーロの質問にロゼラインも不安になった。
確かに今までは王宮とその近辺しか行き来したことがない、はたして?
「事実は小説より奇なり、と、いうことだね」
ゼフィーロが言った。
「確かに今のご説明なら、謎だった点が全て氷解いたします、その……」
ゲオルグは言い淀んだ。
「なにがひっかかっているんだい?」
ゼフィーロが尋ねる。
「今の話を証明できたとて罪に問われる者の中にはノルドベルク嬢ご自身のお身内が含まれます。令嬢はそれを承知でわたくしにもこの話をなされたのでしょうか?」
ゲオルグの質問にロゼラインは声無くうなづいた。
「なんとおいたわしい! そして気高い!」
ゲオルグの感動にロゼライン自身は少し居心地の悪さを感じた。
ゲオルグたち警務隊のロゼラインに対する高評価には、関係の近さに関わらず処罰すべきものを毅然と処罰した姿勢がある。
彼の感覚では、ロゼラインが涙を呑んで自分の家族を罰することを決意してるとの解釈になり、所詮それが「幸せな家族」しか知らない彼の限界であろう。
ロゼラインにとってはむしろ、自分を苦しめた人間にしかるべき報いを受けさせるため、復讐にも近いものなのだが……。
まあ、それはいい。
問題は先ほど話した「事実」に基づく証拠を集め、裁判にも耐えうる論拠を示すことである。
「母が毒をティーカップに入れたことを証言してくれる人間には心当たりがあるわ」
ロゼラインは彼女の死後、ノルドベルク家から解雇されたゾフィを思い出していた。
「警務隊は厨房の人間たちには聞き取りを行ったのかしら? できればそこからの証言も欲しいところね」
「調べてみましょう」
「王太子からの圧力で中止になった捜査を再開するのって大丈夫?」
「こっそり調べたり聞き取りを行う分には大丈夫でしょう。お優しいのですな」
ロゼラインは苦笑いをした。
「この事件では結果に納得していない者は上の人間にも多々おりますし、その方々と協力することはできるでしょう」
「王太子がねじ込んできたらあなたたちの立場も悪くなるし、できるだけ秘密裏にね」
「お気遣い感謝いたします」
「ただ、今の話だと毒を入れた犯行の瞬間しか証明できないだろ。それにお茶は入れたが毒などいれていないと強硬に主張される可能性もある。やはりサルビア嬢からノルドベルクの手に毒が渡った過程も何らかの形で証明して、事件の全貌を解明しないと、裁判では戦えないだろうな」
ゼフィーロが別視点から意見を述べた。
「確かにその通りだわ。そういえば毒の入った瓶は今どこにあるの?」
ロゼラインが同意し質問をした。
「魔法省が鑑定をいたしましたので、今はそこに保管されておるかと」
ゲオルグが答えた。
この世界では医療や科学などのジャンルのほとんどが魔法で補われている。
毒や薬の成分を調べるのも魔法によって行われ結果が出されていたのだった。
「その瓶に彼らの指紋でもついていたら、証明できるのだけど……」
ロゼラインがつぶやいた。
「「指紋? なんですか、それは?」」
ゲオルグとゼフィーロが声を合わせて尋ねた。
そうだった!
この世界ではそんな鑑定方法は存在しないのだ!
「えーッと……、ある人間がモノに触ると指の痕跡がモノに残るというか、そういった類のものなのだけどね……」
わからない人たちに説明するのは難しい。
「そんな不思議なことが起こるのですか? そんな話を義姉上は一体どこで?」
ゼフィーロが聞いた。
いやいや、何でもかんでも魔法で処理してしまうここの世界のやり方の方が、私に言わせればよっぽど不思議なのですが……。
と、言うことはあえて言わずロゼラインは、
「あの、神と接触して学んだことの中にそういうやり方があるというか……、まあ、別の世界のお話なんだけどね」
と、言ってごまかした。
「ふむ……、待ってください。指の痕跡はわからぬが、モノに触れると残った思念からそれまでに触った人たちが全てわかる追跡魔法がありましたぞ、それを使えば毒がどういった経緯で人から人へ渡ったか、明らかにできるかもしれません」
ゲオルグが提案した。
「「おおっ、それはいいかもしれない!」」
今度はロゼラインとゼフィーロが声を合わせた。
「魔法省には僕が話をつけよう、君は聞き取りなど警務部でできることを頼む」
「承知しました」
ゼフィーロとゲオルグの役割分担が決まった。
「ゾフィに会いに行きたいわ」
「彼女は今どこに?」
「ノルドベルク家を解雇されたから今は実家にいるんじゃないかしら。確か王都の郊外だったような」
「では僕も一緒に行きましょう。でも義姉上は王宮から出て郊外までいけるのでしょうか?」
ゼフィーロの質問にロゼラインも不安になった。
確かに今までは王宮とその近辺しか行き来したことがない、はたして?
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