王宮の幻花 ~婚約破棄された上に毒殺されました~

玄未マオ

文字の大きさ
上 下
23 / 120
第1章 山岳国家シュウィツアー

第23話 警務部の見解

しおりを挟む
 ゲオルグの話をきっかけにロゼラインが生前のことを思い出し感慨にふけっていたのは、長いようにも感じたがほんの数分間であった。

 話はロゼラインの死の件に変わっていた。

「して、犯罪捜査にも携わっているそなたに尋ねたいのだが、ノルドベルク嬢の毒殺事件についてどう思う?」
 ゼフィーロがゲオルグに問うた。
「毒殺? そのようにおっしゃられるとは、王子殿下はあの一件を自殺ではなく他殺だと判断しておられるという事ですかな?」
 ゲオルグが逆に問い返した。
「君はどう思う?」
 また質問である、今度はゼフィーロからゲオルグに。
「確かに不審な点が多く残る事件でした。しかし、考えるなと言われました」
「考えるな、と……?」
「はい、そもそも不審点があるなら捜査の続行を要求しても不思議はない令嬢の近親者たちが何も言わず、そして、婚約者であらせられた王太子殿下も中止を要請されたものですから、部外者にはわからないことが彼らにはわかっていて、それで『自死』と判定されたのではないか?」
「ほう……」
「と、思うことにいたしました」

 じゃあ、もし、その被害者自身が「ちがう」といえば、あなた方は捜査を再開してくれるの?

 その言葉を出そうかどうか、ロゼラインが躊躇していた時、ゲオルグがさらに話をつづけた。

「不審点は多々あれど、あのパーティでの『宣言』からノルドベルク嬢がお茶を口にして絶命するまでの間、動機のありそうな者たちは皆、パーティ会場で誰かしらに目撃されております。つまり毒殺を実行した、と、断定するに足る材料が不足していたことも捜査が打ち切られた理由の一つです。王太子殿下の圧力だけが理由ではないのです」

「動機のありそうな者とは誰だい? 警務部は誰を容疑者として調べていたんだい?」
 ゼフィーロが再び尋ねた。
「そうですね、まずはサルビア・クーデン嬢。それから恐れ多いことですが王太子殿下。さらにいつも王太子殿下の傍近くにいる近衛隊士らにも聞き取りを行いましたし、他のパーティ出席者の証言も得られています」
 ゲオルグが説明する。

「その『容疑者』の定義に不備があると言ったら?」
 ロゼラインが口を開いた。

 不備?
 腑に落ちない顔でゲオルグ・シュドリッヒがロゼラインの姿を見つめた。

「お茶に毒を入れたのはロベリア・ノルドベルク。私の母よ。厨房の者に聞き取りをすれば母が出入りをしていたところを目撃した者の一人や二人いるはず」

「へっ?」
 ゲオルグは鳩が豆鉄砲を食らったような顔で驚いた。

「ノルドベルクの人間は『容疑者』の中に入れられてなかったようね」

「いやいや……、どうしてご母堂が……」
 ゲオルグは首と手を振りながら言った。

「それを意外なことだと聞いているあなたはさぞ幸せな家庭に生まれ育ったのでしょうね。世の中には娘を『道具』としてしか扱えない家もあるのよ。そしてその『道具』が思うように使えなくなったら、自分たちの都合のいいように作り変えるため、娘をどれだけ苦しめてもかまやしないというのがノルドベルクの家であり、ロベリアという母だったのよ」
 ロゼラインは唇をかんだ。
 魂だけの身では痛みも感じないが、生まれた時から冷酷無慈悲に心を扱われていた無念と恨みが極まりそんな表情になった。

「しかし、おっしゃっていることには矛盾があります。その説明だと、あなた様はご母堂が毒を盛られたことを知っていながらお茶を口になされたという事になりますが?」

「まあ、それじゃあ確かに間接的とはいえやはり『自殺』よね。そうじゃなくてね……」

 ロゼラインは再び精霊から聞いた死の真相を語り始めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

【完結】ゲーム開始は自由の時! 乙女ゲーム? いいえ。ここは農業系ゲームの世界ですよ?

キーノ
ファンタジー
 私はゲームの世界に転生したようです。主人公なのですが、前世の記憶が戻ったら、なんという不遇な状況。これもゲームで語られなかった裏設定でしょうか。  ある日、我が家に勝手に住み着いた平民の少女が私に罵声を浴びせて来ました。乙女ゲーム? ヒロイン? 訳が解りません。ここはファーミングゲームの世界ですよ?  自称妹の事は無視していたら、今度は食事に毒を盛られる始末。これもゲームで語られなかった裏設定でしょうか?  私はどんな辛いことも頑張って乗り越えて、ゲーム開始を楽しみにいたしますわ! ※紹介文と本編は微妙に違います。 完結いたしました。 感想うけつけています。 4月4日、誤字修正しました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

処理中です...