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第1章 山岳国家シュウィツアー
第23話 警務部の見解
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ゲオルグの話をきっかけにロゼラインが生前のことを思い出し感慨にふけっていたのは、長いようにも感じたがほんの数分間であった。
話はロゼラインの死の件に変わっていた。
「して、犯罪捜査にも携わっているそなたに尋ねたいのだが、ノルドベルク嬢の毒殺事件についてどう思う?」
ゼフィーロがゲオルグに問うた。
「毒殺? そのようにおっしゃられるとは、王子殿下はあの一件を自殺ではなく他殺だと判断しておられるという事ですかな?」
ゲオルグが逆に問い返した。
「君はどう思う?」
また質問である、今度はゼフィーロからゲオルグに。
「確かに不審な点が多く残る事件でした。しかし、考えるなと言われました」
「考えるな、と……?」
「はい、そもそも不審点があるなら捜査の続行を要求しても不思議はない令嬢の近親者たちが何も言わず、そして、婚約者であらせられた王太子殿下も中止を要請されたものですから、部外者にはわからないことが彼らにはわかっていて、それで『自死』と判定されたのではないか?」
「ほう……」
「と、思うことにいたしました」
じゃあ、もし、その被害者自身が「ちがう」といえば、あなた方は捜査を再開してくれるの?
その言葉を出そうかどうか、ロゼラインが躊躇していた時、ゲオルグがさらに話をつづけた。
「不審点は多々あれど、あのパーティでの『宣言』からノルドベルク嬢がお茶を口にして絶命するまでの間、動機のありそうな者たちは皆、パーティ会場で誰かしらに目撃されております。つまり毒殺を実行した、と、断定するに足る材料が不足していたことも捜査が打ち切られた理由の一つです。王太子殿下の圧力だけが理由ではないのです」
「動機のありそうな者とは誰だい? 警務部は誰を容疑者として調べていたんだい?」
ゼフィーロが再び尋ねた。
「そうですね、まずはサルビア・クーデン嬢。それから恐れ多いことですが王太子殿下。さらにいつも王太子殿下の傍近くにいる近衛隊士らにも聞き取りを行いましたし、他のパーティ出席者の証言も得られています」
ゲオルグが説明する。
「その『容疑者』の定義に不備があると言ったら?」
ロゼラインが口を開いた。
不備?
腑に落ちない顔でゲオルグ・シュドリッヒがロゼラインの姿を見つめた。
「お茶に毒を入れたのはロベリア・ノルドベルク。私の母よ。厨房の者に聞き取りをすれば母が出入りをしていたところを目撃した者の一人や二人いるはず」
「へっ?」
ゲオルグは鳩が豆鉄砲を食らったような顔で驚いた。
「ノルドベルクの人間は『容疑者』の中に入れられてなかったようね」
「いやいや……、どうしてご母堂が……」
ゲオルグは首と手を振りながら言った。
「それを意外なことだと聞いているあなたはさぞ幸せな家庭に生まれ育ったのでしょうね。世の中には娘を『道具』としてしか扱えない家もあるのよ。そしてその『道具』が思うように使えなくなったら、自分たちの都合のいいように作り変えるため、娘をどれだけ苦しめてもかまやしないというのがノルドベルクの家であり、ロベリアという母だったのよ」
ロゼラインは唇をかんだ。
魂だけの身では痛みも感じないが、生まれた時から冷酷無慈悲に心を扱われていた無念と恨みが極まりそんな表情になった。
「しかし、おっしゃっていることには矛盾があります。その説明だと、あなた様はご母堂が毒を盛られたことを知っていながらお茶を口になされたという事になりますが?」
「まあ、それじゃあ確かに間接的とはいえやはり『自殺』よね。そうじゃなくてね……」
ロゼラインは再び精霊から聞いた死の真相を語り始めた。
話はロゼラインの死の件に変わっていた。
「して、犯罪捜査にも携わっているそなたに尋ねたいのだが、ノルドベルク嬢の毒殺事件についてどう思う?」
ゼフィーロがゲオルグに問うた。
「毒殺? そのようにおっしゃられるとは、王子殿下はあの一件を自殺ではなく他殺だと判断しておられるという事ですかな?」
ゲオルグが逆に問い返した。
「君はどう思う?」
また質問である、今度はゼフィーロからゲオルグに。
「確かに不審な点が多く残る事件でした。しかし、考えるなと言われました」
「考えるな、と……?」
「はい、そもそも不審点があるなら捜査の続行を要求しても不思議はない令嬢の近親者たちが何も言わず、そして、婚約者であらせられた王太子殿下も中止を要請されたものですから、部外者にはわからないことが彼らにはわかっていて、それで『自死』と判定されたのではないか?」
「ほう……」
「と、思うことにいたしました」
じゃあ、もし、その被害者自身が「ちがう」といえば、あなた方は捜査を再開してくれるの?
その言葉を出そうかどうか、ロゼラインが躊躇していた時、ゲオルグがさらに話をつづけた。
「不審点は多々あれど、あのパーティでの『宣言』からノルドベルク嬢がお茶を口にして絶命するまでの間、動機のありそうな者たちは皆、パーティ会場で誰かしらに目撃されております。つまり毒殺を実行した、と、断定するに足る材料が不足していたことも捜査が打ち切られた理由の一つです。王太子殿下の圧力だけが理由ではないのです」
「動機のありそうな者とは誰だい? 警務部は誰を容疑者として調べていたんだい?」
ゼフィーロが再び尋ねた。
「そうですね、まずはサルビア・クーデン嬢。それから恐れ多いことですが王太子殿下。さらにいつも王太子殿下の傍近くにいる近衛隊士らにも聞き取りを行いましたし、他のパーティ出席者の証言も得られています」
ゲオルグが説明する。
「その『容疑者』の定義に不備があると言ったら?」
ロゼラインが口を開いた。
不備?
腑に落ちない顔でゲオルグ・シュドリッヒがロゼラインの姿を見つめた。
「お茶に毒を入れたのはロベリア・ノルドベルク。私の母よ。厨房の者に聞き取りをすれば母が出入りをしていたところを目撃した者の一人や二人いるはず」
「へっ?」
ゲオルグは鳩が豆鉄砲を食らったような顔で驚いた。
「ノルドベルクの人間は『容疑者』の中に入れられてなかったようね」
「いやいや……、どうしてご母堂が……」
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「それを意外なことだと聞いているあなたはさぞ幸せな家庭に生まれ育ったのでしょうね。世の中には娘を『道具』としてしか扱えない家もあるのよ。そしてその『道具』が思うように使えなくなったら、自分たちの都合のいいように作り変えるため、娘をどれだけ苦しめてもかまやしないというのがノルドベルクの家であり、ロベリアという母だったのよ」
ロゼラインは唇をかんだ。
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「しかし、おっしゃっていることには矛盾があります。その説明だと、あなた様はご母堂が毒を盛られたことを知っていながらお茶を口になされたという事になりますが?」
「まあ、それじゃあ確かに間接的とはいえやはり『自殺』よね。そうじゃなくてね……」
ロゼラインは再び精霊から聞いた死の真相を語り始めた。
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