王宮の幻花 ~婚約破棄された上に毒殺されました~

玄未マオ

文字の大きさ
上 下
22 / 120
第1章 山岳国家シュウィツアー

第22話 ロゼラインの生誕祭(生前)

しおりを挟む
 約束通り国王は六月のロゼラインの誕生日の祝賀パーティを王宮内で開いた。

 ロゼラインの瞳の色に合わせた空色のドレスと大粒のサファイアのアクセサリー一式が、国王から贈られた。これを着てパーティに出席するようにという意味であろう。
 貴族のパーティでロゼラインを無視する振る舞いを続けていた王太子も、この日ばかりはロゼラインのエスコートを請け負った。
 しかしその日の王太子の衣装にロゼラインは驚いた。
 通常、主役級の男女がパーティに出る時には衣装の色を合わせるのが普通だが、王太子のその日の衣装は深緑色で飾りも王宮内のパーティにしては簡素だった。

 王太子は手を差し出した。
「どうしたのだ?」
 躊躇するロゼラインに王太子は問うた。
 ロゼラインは、いえ、と、短く答えて王太子に手を引かれて入場する。

 盛大な拍手を入場してきた二人を包む。
 国王が主催しただけあって、出席している貴族の数も多く規模の大きなパーティだ。

 注目している人々の前で軽くひざを曲げて一礼するロゼラインを見て、王太子は唇の片側だけを軽く上げた笑みを漏らし告げた。

 「僕の役目はこれで終わりだ。じゃあな、ロゼライン、せいぜいパーティを楽しみたまえ」

 最初のダンスの相手もせず王太子はロゼラインの傍を離れ会場の一角へと歩いて行った。

 そこにはサルビア・クーデンが待っていた。
 サルビアは自分の瞳に合わせた深緑色のドレスを身に着け、王太子の衣装と揃いであった。
 まるで自分の本当のパートナーはサルビアであると言わんばかりの所業である。

 飾りもなく簡素な衣装はこのパーティのためにあつらえたものではなく、もともとあったサルビアの衣装と同じ色合いのものを着用した可能性が高い。
 あるいはロゼラインの生誕記念パーティなどもっとも格式の高い礼装ではなく、略礼装で十分だという意味が込められているとみることもできた。

 国王は用意したロゼラインとペアの正装を身に着けず土壇場で別の衣装に着替えて、反抗の意を示した嫡男を苦虫をかみつぶした表情で見ていた。


 ロゼラインの生誕祭で見せた王太子の「反抗」は国王の逆鱗に触れた。

 その後、おそらく何か強く言い渡されたのだろう

 しばらくサルビアと連れ立って貴族のパーティに出席することはなかったが、二か月後の建国祭のパーティで、王太子はロゼラインに「婚約破棄宣言」を突き付けたのだった。

 その二カ月の間に精霊のサタ坊が語った、サルビアが毒を持ち込みその後ロゼラインの母が王宮の外にそれを持ち出すという、一連の行為が行われたとみて間違いない。

 王太子の「宣言」は、ロゼラインを死に至らしめる結果を作った。

 父王の嫡男パリス王太子に対する評価は爆下がりである。

 弟のゼフィーロの縁談をつぶそうとしたのはその焦りがあったのかもしれない。


 生前の経験を思い起こし、ロゼラインはパリス王太子の歪んだ性根に強い嫌悪とやり場のない怒りを感じた。

 自らの心得違いを指摘されたのすら許さずいつまでも恨みに持つ異常な誇りの高さ。

 他者の人生の大切な瞬間を台無しにしてほくそ笑む底意地の悪さ。

 他者の重要な人間関係を自分の都合でつぶそうとする身勝手さとその手段の陰険さ。

 国王の長男として生まれ、容姿、教養、武術と全てに平均値以上のものを示してきたがゆえに、幼児的万能感を崩されずに今までやってこれたのがパリス王太子である。

 その歪みゆえに傷つけられ人生をつぶされるのは自分だけでたくさんだ。
 いや、自分すら、あんな毒家族や無駄にプライドが高い馬鹿王太子の婚約者として苦しめられた人生に納得しているわけではない。

 転生の神とやらが存在するなら文句を言ってやりたいくらいであった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

処理中です...