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第1章 山岳国家シュウィツアー
第22話 ロゼラインの生誕祭(生前)
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約束通り国王は六月のロゼラインの誕生日の祝賀パーティを王宮内で開いた。
ロゼラインの瞳の色に合わせた空色のドレスと大粒のサファイアのアクセサリー一式が、国王から贈られた。これを着てパーティに出席するようにという意味であろう。
貴族のパーティでロゼラインを無視する振る舞いを続けていた王太子も、この日ばかりはロゼラインのエスコートを請け負った。
しかしその日の王太子の衣装にロゼラインは驚いた。
通常、主役級の男女がパーティに出る時には衣装の色を合わせるのが普通だが、王太子のその日の衣装は深緑色で飾りも王宮内のパーティにしては簡素だった。
王太子は手を差し出した。
「どうしたのだ?」
躊躇するロゼラインに王太子は問うた。
ロゼラインは、いえ、と、短く答えて王太子に手を引かれて入場する。
盛大な拍手を入場してきた二人を包む。
国王が主催しただけあって、出席している貴族の数も多く規模の大きなパーティだ。
注目している人々の前で軽くひざを曲げて一礼するロゼラインを見て、王太子は唇の片側だけを軽く上げた笑みを漏らし告げた。
「僕の役目はこれで終わりだ。じゃあな、ロゼライン、せいぜいパーティを楽しみたまえ」
最初のダンスの相手もせず王太子はロゼラインの傍を離れ会場の一角へと歩いて行った。
そこにはサルビア・クーデンが待っていた。
サルビアは自分の瞳に合わせた深緑色のドレスを身に着け、王太子の衣装と揃いであった。
まるで自分の本当のパートナーはサルビアであると言わんばかりの所業である。
飾りもなく簡素な衣装はこのパーティのためにあつらえたものではなく、もともとあったサルビアの衣装と同じ色合いのものを着用した可能性が高い。
あるいはロゼラインの生誕記念パーティなどもっとも格式の高い礼装ではなく、略礼装で十分だという意味が込められているとみることもできた。
国王は用意したロゼラインとペアの正装を身に着けず土壇場で別の衣装に着替えて、反抗の意を示した嫡男を苦虫をかみつぶした表情で見ていた。
ロゼラインの生誕祭で見せた王太子の「反抗」は国王の逆鱗に触れた。
その後、おそらく何か強く言い渡されたのだろう
しばらくサルビアと連れ立って貴族のパーティに出席することはなかったが、二か月後の建国祭のパーティで、王太子はロゼラインに「婚約破棄宣言」を突き付けたのだった。
その二カ月の間に精霊のサタ坊が語った、サルビアが毒を持ち込みその後ロゼラインの母が王宮の外にそれを持ち出すという、一連の行為が行われたとみて間違いない。
王太子の「宣言」は、ロゼラインを死に至らしめる結果を作った。
父王の嫡男パリス王太子に対する評価は爆下がりである。
弟のゼフィーロの縁談をつぶそうとしたのはその焦りがあったのかもしれない。
生前の経験を思い起こし、ロゼラインはパリス王太子の歪んだ性根に強い嫌悪とやり場のない怒りを感じた。
自らの心得違いを指摘されたのすら許さずいつまでも恨みに持つ異常な誇りの高さ。
他者の人生の大切な瞬間を台無しにしてほくそ笑む底意地の悪さ。
他者の重要な人間関係を自分の都合でつぶそうとする身勝手さとその手段の陰険さ。
国王の長男として生まれ、容姿、教養、武術と全てに平均値以上のものを示してきたがゆえに、幼児的万能感を崩されずに今までやってこれたのがパリス王太子である。
その歪みゆえに傷つけられ人生をつぶされるのは自分だけでたくさんだ。
いや、自分すら、あんな毒家族や無駄にプライドが高い馬鹿王太子の婚約者として苦しめられた人生に納得しているわけではない。
転生の神とやらが存在するなら文句を言ってやりたいくらいであった。
ロゼラインの瞳の色に合わせた空色のドレスと大粒のサファイアのアクセサリー一式が、国王から贈られた。これを着てパーティに出席するようにという意味であろう。
貴族のパーティでロゼラインを無視する振る舞いを続けていた王太子も、この日ばかりはロゼラインのエスコートを請け負った。
しかしその日の王太子の衣装にロゼラインは驚いた。
通常、主役級の男女がパーティに出る時には衣装の色を合わせるのが普通だが、王太子のその日の衣装は深緑色で飾りも王宮内のパーティにしては簡素だった。
王太子は手を差し出した。
「どうしたのだ?」
躊躇するロゼラインに王太子は問うた。
ロゼラインは、いえ、と、短く答えて王太子に手を引かれて入場する。
盛大な拍手を入場してきた二人を包む。
国王が主催しただけあって、出席している貴族の数も多く規模の大きなパーティだ。
注目している人々の前で軽くひざを曲げて一礼するロゼラインを見て、王太子は唇の片側だけを軽く上げた笑みを漏らし告げた。
「僕の役目はこれで終わりだ。じゃあな、ロゼライン、せいぜいパーティを楽しみたまえ」
最初のダンスの相手もせず王太子はロゼラインの傍を離れ会場の一角へと歩いて行った。
そこにはサルビア・クーデンが待っていた。
サルビアは自分の瞳に合わせた深緑色のドレスを身に着け、王太子の衣装と揃いであった。
まるで自分の本当のパートナーはサルビアであると言わんばかりの所業である。
飾りもなく簡素な衣装はこのパーティのためにあつらえたものではなく、もともとあったサルビアの衣装と同じ色合いのものを着用した可能性が高い。
あるいはロゼラインの生誕記念パーティなどもっとも格式の高い礼装ではなく、略礼装で十分だという意味が込められているとみることもできた。
国王は用意したロゼラインとペアの正装を身に着けず土壇場で別の衣装に着替えて、反抗の意を示した嫡男を苦虫をかみつぶした表情で見ていた。
ロゼラインの生誕祭で見せた王太子の「反抗」は国王の逆鱗に触れた。
その後、おそらく何か強く言い渡されたのだろう
しばらくサルビアと連れ立って貴族のパーティに出席することはなかったが、二か月後の建国祭のパーティで、王太子はロゼラインに「婚約破棄宣言」を突き付けたのだった。
その二カ月の間に精霊のサタ坊が語った、サルビアが毒を持ち込みその後ロゼラインの母が王宮の外にそれを持ち出すという、一連の行為が行われたとみて間違いない。
王太子の「宣言」は、ロゼラインを死に至らしめる結果を作った。
父王の嫡男パリス王太子に対する評価は爆下がりである。
弟のゼフィーロの縁談をつぶそうとしたのはその焦りがあったのかもしれない。
生前の経験を思い起こし、ロゼラインはパリス王太子の歪んだ性根に強い嫌悪とやり場のない怒りを感じた。
自らの心得違いを指摘されたのすら許さずいつまでも恨みに持つ異常な誇りの高さ。
他者の人生の大切な瞬間を台無しにしてほくそ笑む底意地の悪さ。
他者の重要な人間関係を自分の都合でつぶそうとする身勝手さとその手段の陰険さ。
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その歪みゆえに傷つけられ人生をつぶされるのは自分だけでたくさんだ。
いや、自分すら、あんな毒家族や無駄にプライドが高い馬鹿王太子の婚約者として苦しめられた人生に納得しているわけではない。
転生の神とやらが存在するなら文句を言ってやりたいくらいであった。
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