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第1章 山岳国家シュウィツアー
第21話 いさかいの後各々の反応(生前)
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扉を少し開けた状態にあった故、廊下にまで響いていた王太子と婚約者の口論は、もともとの事件の注目度もあって瞬く間に王宮内で噂になった。
この一件に関しては王太子が無理を通そうとしただけでロゼラインには非はない。
それに基づいて実家側もロゼライン側に立ち国王とともに王太子をいさめるのが筋なのに、ノルドベルク家、特に母親の態度は違った。
「賢すぎる態度は可愛げがないというもの。夫となる王太子殿下の機嫌一つとれないなんて先が思いやられます」
このように娘を誹謗し、周囲にも同じことを吹聴した。
そしてこの物言いが王太子だけでなく、ロゼラインに処罰された近衛隊士らを増長させた。
王宮内の庭園は本来王妃が管理するもので、その負担を軽減するために子供である王女や王子の妃も一部管理を請け負い、婚約者であるロゼラインも西側の庭園の管理を任されていた。
もしかしたら暴れていた近衛隊士らは、王太子の婚約者が管理しているところだから問題が起きても王太子が何とかしてくれるとたかをくくっていたのかもしれない。その当てが外れてロゼラインを逆恨みする者もいて、彼女の実母が吹聴する内容は渡りに船だった。
「やっぱり女は可愛げがないとね。勉強しすぎて愛想がないのではいくら元が良くても……」
などと、若者同士が無邪気に女性の好みを評論しているようなふりをして、通りすがりにロゼラインにあてこすっていたのが例のヴェルテックたちである。
弟のエルフリードは母の意見を素直に信じ、彼らの意見に同調した。
弟は王宮内のアカデミーでの勉強をしながら省庁の見習いを始めたばかりであった。そんな彼が王太子と近衛隊士及び各省庁の有望株の良家の子弟の集団の中に入れてもらうのは、スクールカースト最上位のキラキラした集団の仲間に入れてもらった学生の如く、そのつながりの中の空気に盲目的に従うのも無理はなかっただろう。
サルビア・クーデンが王太子の近くにいるようになったのもその頃だった。
彼女はロゼラインとは対照的に王太子の「機嫌」を取るのが上手い女であった。
彼の意見を全肯定する従順で可愛げのある女に王太子は耽溺していった。
王太子は高位貴族から招待されたパーティですら、ロゼラインではなくサルビアと連れ立っていくようになった。
二人の亀裂は王宮内の誰の目にも明らかになっていった。
そんな状況下、ロゼラインは国王のお茶会に呼ばれた。
出席者は国王とロゼラインの二人きりであった。
国王は席に座って最初の一口を口にした後、
「あれにも困ったものよ」
そうこぼした。
「すべての事柄に秀で自身に対する評価はほめ言葉しか聞いたことのない息子だ。それがいずれ足をすくわれる元とならぬよう苦言を呈する臣下は必要じゃ。その役割をそなたにも担ってもらうことを期待して、耳の痛い事でもはっきり言うようわしからも頼んでいたのにあやつには通じぬと見える、のう、ロゼライン」
国王はロゼラインに言った。
「ご期待に沿えず申し訳ございません」
ロゼラインは頭を下げた。
「そなたが悪いわけではない」
「耳に心地よい言葉だけを入れたがる者の機嫌を取りながら間違いを正せるような魔法の言葉など、周囲を探してもどこにも見あたりませんでした」
「はは、棘があるのう、わしは嫌いではないがの」
国王は笑った。
ロゼラインはうろたえた。
自分が日ごろ浴びせられる家族からの侮蔑の言葉や王太子からの罵声に比べれば、優しいレベルの皮肉なのだが、他者からすればきついのだろうか?
「そなたの母親に至っては棘どころか毒じゃからの。外戚となる家が家門と娘の利益ばかり主張されても困りものじゃが、王太子が誤りを犯したときもおもねるのはいかがなものかの?」
私に言われても……、ロゼラインは困惑した。
そんなに言うなら国王自らノルドベルクの人間にも指導してくれればよさそうなものなのに。
ロゼライン自身は王妃教育の中に含まれる帝王学で、私心を抑えることや夫である王太子(未来の国王)が私心に走るのをいさめることもすでに学んでいる。しかしロゼラインの家族はそれを理解せず、王太子の機嫌を損ねるロゼラインは要領の悪い愚図扱いである。
「そういえばそなたの十八の誕生日がもうすぐじゃの」
国王は話題を変えた。
「その祝賀パーティは王宮にてわしが主催して行うようにする、それまでにわしが直々に息子の態度をいさめておこう」
「ご厚情痛み入ります」
ロゼラインは深謝した。
この一件に関しては王太子が無理を通そうとしただけでロゼラインには非はない。
それに基づいて実家側もロゼライン側に立ち国王とともに王太子をいさめるのが筋なのに、ノルドベルク家、特に母親の態度は違った。
「賢すぎる態度は可愛げがないというもの。夫となる王太子殿下の機嫌一つとれないなんて先が思いやられます」
このように娘を誹謗し、周囲にも同じことを吹聴した。
そしてこの物言いが王太子だけでなく、ロゼラインに処罰された近衛隊士らを増長させた。
王宮内の庭園は本来王妃が管理するもので、その負担を軽減するために子供である王女や王子の妃も一部管理を請け負い、婚約者であるロゼラインも西側の庭園の管理を任されていた。
もしかしたら暴れていた近衛隊士らは、王太子の婚約者が管理しているところだから問題が起きても王太子が何とかしてくれるとたかをくくっていたのかもしれない。その当てが外れてロゼラインを逆恨みする者もいて、彼女の実母が吹聴する内容は渡りに船だった。
「やっぱり女は可愛げがないとね。勉強しすぎて愛想がないのではいくら元が良くても……」
などと、若者同士が無邪気に女性の好みを評論しているようなふりをして、通りすがりにロゼラインにあてこすっていたのが例のヴェルテックたちである。
弟のエルフリードは母の意見を素直に信じ、彼らの意見に同調した。
弟は王宮内のアカデミーでの勉強をしながら省庁の見習いを始めたばかりであった。そんな彼が王太子と近衛隊士及び各省庁の有望株の良家の子弟の集団の中に入れてもらうのは、スクールカースト最上位のキラキラした集団の仲間に入れてもらった学生の如く、そのつながりの中の空気に盲目的に従うのも無理はなかっただろう。
サルビア・クーデンが王太子の近くにいるようになったのもその頃だった。
彼女はロゼラインとは対照的に王太子の「機嫌」を取るのが上手い女であった。
彼の意見を全肯定する従順で可愛げのある女に王太子は耽溺していった。
王太子は高位貴族から招待されたパーティですら、ロゼラインではなくサルビアと連れ立っていくようになった。
二人の亀裂は王宮内の誰の目にも明らかになっていった。
そんな状況下、ロゼラインは国王のお茶会に呼ばれた。
出席者は国王とロゼラインの二人きりであった。
国王は席に座って最初の一口を口にした後、
「あれにも困ったものよ」
そうこぼした。
「すべての事柄に秀で自身に対する評価はほめ言葉しか聞いたことのない息子だ。それがいずれ足をすくわれる元とならぬよう苦言を呈する臣下は必要じゃ。その役割をそなたにも担ってもらうことを期待して、耳の痛い事でもはっきり言うようわしからも頼んでいたのにあやつには通じぬと見える、のう、ロゼライン」
国王はロゼラインに言った。
「ご期待に沿えず申し訳ございません」
ロゼラインは頭を下げた。
「そなたが悪いわけではない」
「耳に心地よい言葉だけを入れたがる者の機嫌を取りながら間違いを正せるような魔法の言葉など、周囲を探してもどこにも見あたりませんでした」
「はは、棘があるのう、わしは嫌いではないがの」
国王は笑った。
ロゼラインはうろたえた。
自分が日ごろ浴びせられる家族からの侮蔑の言葉や王太子からの罵声に比べれば、優しいレベルの皮肉なのだが、他者からすればきついのだろうか?
「そなたの母親に至っては棘どころか毒じゃからの。外戚となる家が家門と娘の利益ばかり主張されても困りものじゃが、王太子が誤りを犯したときもおもねるのはいかがなものかの?」
私に言われても……、ロゼラインは困惑した。
そんなに言うなら国王自らノルドベルクの人間にも指導してくれればよさそうなものなのに。
ロゼライン自身は王妃教育の中に含まれる帝王学で、私心を抑えることや夫である王太子(未来の国王)が私心に走るのをいさめることもすでに学んでいる。しかしロゼラインの家族はそれを理解せず、王太子の機嫌を損ねるロゼラインは要領の悪い愚図扱いである。
「そういえばそなたの十八の誕生日がもうすぐじゃの」
国王は話題を変えた。
「その祝賀パーティは王宮にてわしが主催して行うようにする、それまでにわしが直々に息子の態度をいさめておこう」
「ご厚情痛み入ります」
ロゼラインは深謝した。
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